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残酷な地下鉄とソロ田君

まだ初々しい高校生の頃の話

当時神戸市では中学生まで男子生徒は
強制的に丸坊主

なので高校生になった途端に髪の伸ばし始め
同時に異性を強く意識し始める

もちろん俺もそうだったし
周りの友達もみんなそうだった


そんな高校一年生のとき
同じクラスの迫田君は男から見てもイケメンで
もちろん女子から爆発的な人気を得ていた

特に部活はしていないし
背も特に高くはなかったけど

甘いマスクで女子のみならず
男子からも人気があったので

今回の事件をキッカケに俺とは
以降3年間、超絶仲良くなるんだけど

この時はまだシンプルに死ねばいいのにと嫉妬してたよ、まじで。


俺達が通っていたのは
神戸の名谷駅と妙法寺駅の間にある高校で

共学だったけど
別れたあとに面倒にならないよう
同じ学校ではなく近くにある高校の女子と
迫田君は付き合っていました

通学には妙法寺駅が近いので
いつもは名谷駅は使わないけど

迫田君の彼女は名谷駅が近いため
週の2~3度はわざわざ名谷駅まで行って
待ち合わせして

彼女の自宅がある妙法寺駅までの
たったひと区間だけ一緒に手を繋いで帰るという

リア充マウンテン儀式を行なっていました。
マジでしね。

神戸地下鉄

ちなみに迫田君は6駅先の湊川公園が自宅です。


そんな迫田君16歳のある日

急に

「俺、今日彼女と別れようと思う」

と言い出したのです


部活に明け暮れ汗まみれ
彼女なんていないチェリーボーイたちのwktkが止まりません


聞けばどうやら昨日電話で喧嘩したらしく
モテモテの迫田くんは「めんどくせぇ」と
思い始めたのか新しい彼女ができたからなのか
わかりませんが

恒例のリア充マウント帰宅をする今日
別れを切り出すと言うのです



これは是非ともアリーナ席で観たいカードだ



瞬時に全員がそう思った

スマホも携帯も無い時代

俺たちは

「えー、そーなんやー?」
「あんなにかわいいのにー?」
「もったいないな!」

などと微塵も思ってもないことを並び立て

その裏で情報を共有し
部活を休んで成り行きを覗き見することに決めた


名谷駅のパティオで待ち合わせするのは
以前にリサーチ済み

彼女の顔も知っている


よし、先回りして待ち伏せだ!


先回りしてみるとケンタッキーの前で
彼女がもう待っている


あ!迫田が来た!!

遠くからみているから
何を話しているかはわからない


しかしいつもならすぐに繋ぐ手が
ポケットに入ったままだ!

しかも彼女は泣いているように見える!


え?もう言っちゃったの?

違う、最後に一緒に帰るつもりだ!

野郎ども!ついてこい!
最後まで見届けるぞ!

といつもの練習以上のチームワークを発揮して追跡



ホームで待つ二人の間には会話なんてなく
俯いた彼女は遠目でも泣いているのがわかる

迫田君も悲しいフリはちゃんとしている


最後の帰宅デート

たった一駅だけど

この時間は彼女にとって長過ぎて
でも短すぎたのかも知れない


名谷駅から妙法寺駅までの間
二人が会話を交わすことはなく
彼女の降りる駅へとついた



開くドア


降りる彼女


背を向けたまま振り返らない


迫田君もかける言葉がないのか
ただ電車のドアが閉まるのを待っている


扉が閉まろうとするその刹那
彼女が振り返って大声で叫んだ







なによ!!!!!

ソーローのくせに!!!!







ぷしゅー

ガタガタガタ・・・ゴトン
(扉が閉まった音)

うぉぉぉぉん・・・・がたんごとんがたんごとん・・・・
(走り出す電車)


リフレインする「ソーローのくせに」

放心状態の迫田君、いやソロ(早漏)田君

乗車客からのいい塩梅の嘲笑を背負い


湊川公園に到着する5駅もの間
寝たフリをしていましたとさ



これを目撃した次の日から

俺たちはソロ田君と真の友達となったのは
言うまでもない


というお話


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