あの人の早期退職⑤

私は何も常日頃から悪戯ばかりしている訳ではありませんが、単身先の集合ポストに「105 ウエンツ」と掲示しておいたところ、数日後に小学生がポストの周りでざわついているのを発見しました。
「ほら!ここにウエンツ住んでんだぜ!」
「えー!たまたま同じ苗字なんじゃないの?」
「ウエンツなんてそんなにいねーだろ!絶対本物だって!」

子供達の夢を壊す訳にも行かず、しばらく時間を潰し、辺りが暗くなってから家に戻ることにしました。
自業自得です。

子供達の夢、と言えば。
今でも気にしていることが1つあります。

仕事の関係で「着ぐるみ」を着ることになった私。
とある街のイベントで、鳥の着ぐるみを着て歩き回る役割を担いました。
怪しい動きをした中学生が近付いて来ました。
ああ、これは恐らく暴力を振るわれる。
ボコッ!
ボディーブローを喰らったと同時に、被っていた頭を投げつけました。
「す、すいません!すいません!」
『誰じゃ!今パンチしたのは誰じゃ!』
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
『お前ら、外側が可愛いからって、中身までプリティだと思うなよゴルァ!』
「(イベント屋さん)ああ、抑えて、抑えてっ!」
『・・・すいません、取り乱しました』

その後、客寄せのために着ぐるみで一通り歩き回った後、先程投げつけた頭を外し、ブース裏で一服していました。
あんまり暑くならなくて良かったね〜、なんて話をしていると、小学生数人が我々に近付いて来ました。
『ん?もしかして、着ぐるみ着たいの?』
「うん」
(壊れたら、結構出費大きいんです・・・「件名:○○ッピー左眼交換」とかで20万円近く・・・どうしましょう。子供達に闇雲にダメ!というのも可哀想だし・・・)
『・・・みんな、着ぐるみ2級、持ってっか?』
「ううん、持ってない」
『だよなぁ・・・じゃあ着れないな』
「なんだぁ・・・」
『ちなみに、絶対に内緒だぞ・・・(有名なねずみ)を着るなら、着ぐるみ1級が無いとダメなんだ』
「え!そうなの?」
『うん、だから今のうちに沢山勉強して、沢山スポーツしたら、きっと1級も取れるぞ!おじさんは勉強が苦手だったから2級しか取れなくてさ』
「ワハハ、じゃあ勉強頑張る!おじさんバイバイ!」

とりあえず着ぐるみは触っちゃダメよ、という任務は果たせました。

その後。
イベントの手伝いのバイトをしていた女子大生から、
「写真・・・撮ってもらって良いですか?」
『え?私?あ、いや、良いっすよ!えへへ』
小脇に頭を抱えていると、
「すいません、頭、付けて頂いて」
『何だと?』
「ひーっ」
『嘘だよ。はい、これでいいね?』
「ありがとうございます!」
離れたところで、さっきの小学生が笑っていました。

話はこれで終わりません。
翌年。

首を痛めていた私は着ぐるみを着ることができず、会場の整理に当たっていました。
遠くから子供の歓声が。
「おじさぁーん!」
『・・・ん?あれ?去年のガ・・・子供達!』
「勉強してるよ!」
「こいつメチャメチャ頭良くなったんだよ!」
『・・・ファッ!お、そ、そうか!勉強もスポーツもだぞ!頑張れよ!』
「うん、頑張るね!」

あれから20年。
子供達、着ぐるみに資格なんて必要ないって気付いたよな。ごめんよ。
でもきっと、私より立派な大人になってるだろうな。
もしかしたら、ジャンボリミッキーを踊っているのは・・・。

まだ退職に至りませんね。
このシリーズはまだ中盤です。ただ間違いなく早期退職はします。するんです。
気長にお待ちください。

部下のKくんの飲みかけのコーヒー。
昼休みの間にコーヒーゼリーにすり替えて待機。
「ん、んん?」
『Kくん、コーヒーゼリーも好きだって聞いて』
「あ、こ、これは嬉しいサプライズです!アーモンドグリコみたいな、一粒で2度美味しいやつです!スジャータ持ってこよ」

「僕の横の飴コーナーにある、マヨネーズドロップが全然減ってないんですよね」
『基本的に美味しくないからだろうね』
「そうなんですよ。出来れば早く無くなって欲しいんですよね。減るのはミルキーばかり」
『ミルキー・・・あ、そうだKくん、いい考えがある』
「おおっ、こ、これ、大丈夫ですかね?」
『人間の味覚なんて適当なところあるから、大丈夫』
「あ、ああ、もうドキドキします」

「飴もらうね〜、お、今日はミルキー入荷してるね〜」
「あ、え、えへへ」
「う〜ん、おっ、最近のミルキーって、意外と酸っぱいんだね〜」
「えへへ、えへへ、ふがっ」

「・・・僕、ダメです。我慢出来なくて、鼻鳴っちゃいました」
『○○さん、意外と味にうるさいタイプなんだね』
「ミルキーの包み紙でマヨネーズドロップを包むなんて、普通考えませんよ」
『次、ミルキーの代わりにコンソメでも分からんかも」
「流石に、流石にそれは!」

「飴、いっただきまーす」
「あ、は、はい、どうぞ」
「ミルキー頂きぃ」
「えへ、えへへ」
「ん?何これ!変な味する!」
「えへへ、えへへへへ、ふがふが」
「Kくん、何したの?言いなさい!」
「い、いや、これは、えーと、ふがふが」
Kくんのぶたっ鼻が止まらない!これはまずい!助けなければ!
『Kくん、歌おう!み、ミルキーはマヨの味ぃ〜』
「味ぃ〜」
「やっぱりお前らかっ」

ママの味じゃないミルキーを食べさせた罪は重く、ジンギスカンキャラメルの処分を命ぜられる不当判決が下されました。

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