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ロシア語のмирは「世界」と「平和」という意味を持つ〜ロシアについて伝えたいこと〜

数日前、ロシア人の友人とロシア語の魅力を配信するYoutubeチャンネルを立ち上げました。

そして昨日、彼女からこんなメッセージが来ました。

Юко, я немного волнуюсь, что твой канал сейчас будет не очень популярным из-за новостей в мире...Сейчас люди ненавидят Россию. Если это случится, прости...

(ゆうこ、せっかく立ち上げたYoutubeチャンネルだけど世界情勢のせいであまり人気がでないかもしれない…今、みんなロシアのことが嫌いだから。もしそうなったらごめんね…)

このことについては、毎日少しずつ大きくなっていく新聞の見出しを見て私も不安を感じていたことでした。しかも彼女が謝ることでは全然ないです。

チャンネルの人気についてはぶっちゃけどっちでもよくて(そもそも私の動画制作力が追いついてない…)、これ以上世界中の人々がロシアから遠ざかって行くこと、平和が揺らぎはじめていることが辛いです。

日本では、ロシアについてメディアで取り上げられる内容は批判的なものが多いです。誰もが「恐ロシア(おそロシア)」という言葉を聞いたことがあるように、日本ではロシアのことを怖い国だと思っている人が多い気がします。私はモスクワへ留学経験がありますが、出国の日に母に言われたのは『お母さんはあんたが戦場に行くと思ってる』でした。

昨今の世界情勢について、ロシア人の友人と話していても食い違うことが多いのは、日本とロシアでは報道の視点が異なるからかもしれません。

Россия не агрессор. Мы не знаем всю правду. И может быть никогда не узнаем. И даже если узнаем, мир никогда не признает, что ошибся. Я верю в историю, людей и свою страну.

(ロシアは侵略者ではない。私たちは全ての真実を知ることはできないし、おそらく一生わからないと思う。それにもし真実を知り得たとしても、世界はそれを過ちと認識することもない。私は歴史と、人と、自分の国を信じる。)

歯磨き粉のチューブが、正面から見ると四角形、横から見ると三角形、上から見ると円形に見えるように、見る立場が変われば情報は形を変えます。全てが真実で、全てが虚像かもしれない…それは問題が大きければ大きいほど複雑になるのでしょう。

では、真実とは何か?それは自分が肌で体験したことです。自分の魂が震えた出来事は、それは私にとって真実だと思っていいと感じています。

私はたった1年だけですがロシアを肌で経験したものとして、ロシアに友人を持つものとして、4年間ロシア語に向き合ったものとして私の見たロシアについて発信します。

小心者の私は、一旦Youtubeでロシア関係の内容を配信するのはやめようかと思いました。こんな記事をnoteに書くつもりもありませんでした。

しかし、私を愛してくれた人たちの暮らすロシアの少しでも明るい側面を照らせるように、また、政治的側面とその地に暮らす人々とのギャップも感じて頂きたく、これからいくつかエピソードを紹介します。

シベリアに抑留されていた祖父の一言

私の祖父は第二次世界大戦の際、シベリアに抑留されていたそうです。幸い無事に帰国し、90歳という大往生で今世に幕をおろしました。

そんな祖父が生前私に話してくれたのが、シベリア抑留時代の思い出です。私がまだ18歳くらいのことだったと思いますが衝撃的な内容でした。

ーおじいちゃんはな、戦争の時シベリアに抑留されとったんや。

ーえ?シベリア抑留って…よう帰ってこれたなぁ。ロシア怖かった?

ー全然怖いことないよ。ロシア人の人らはみんな優しかった。食べ物ももろて、ようしてもろて、ロシア語も教えてもろた。だから今でもちょっと話せるんやで。

祖父はそう言って、ロシア語で年賀状をくれました(文字は知らないそうで、ロシア語を全部カタカナ表記にしたものでした)。

この話を聞いた時、私はすでに大学でロシア語を専攻していました。発音の美しさと神秘性に惹かれて選んだロシア語でしたが、祖父のこの一言で私はロシアに留学することを決めました。

当時、ロシアに留学すると告げると大半の人が不審そうな顔をしましたが、私の気持ちは変わりませんでした。戦時中シベリアに抑留されていた祖父が「優しかった」と言うロシアです。その真相を確かめるべく、大学2年の秋にモスクワへ向かいました。

ロシアは寒いけど、体感温度は+2℃

モスクワで一番驚いたのは、ロシアの人たちの人間性です。ロシアでは初対面の人に笑いかける文化がないので(逆に初対面から笑顔の人には気をつけたほうが良い)一見冷たい印象を受けますが、仲良くなると親身で面倒見の良い人が多いです。それに、人類全てを「家族」と認識しているようなおおらかさも感じます。


地下鉄があったかい

例えば、地下鉄に乗ると数人の若者が一斉に立ち上がって席を譲ってくれます。ロシアの地下鉄ではこれが普通で、老人や女性、子供が乗ってくると男性は席を譲るそうです。これに感動していると「日本は違うの?」と聞かれて耳が痛かったです。

また、列車が急停車した際つんのめってこけそうになると「つかまりな!」と言って四方八方から手が伸びてきて支えてくれます。ロシアでは痴漢がほとんどないので、みんな冤罪なんて気にせず助けてくれます。


呼びかけがあったかい

それから、これは言語や文化の特徴かと思いますが大学の先生や友達のお母さんが名前を呼んでくれる時の装飾が豪華絢爛です

ーあぁ私の太陽であるユウコチカ*!おはよう!今日も元気?

ー私の愛おしい小さな娘ユウコや、手を洗っていらっしゃい?

なんと言うか、この手のフレーズにはたくさんの種類があって、呼びかけられるたびにくすぐったくなります。私の友人も、お母さんからは何歳になってもこんな風に呼びかけられるそうで(子ゾウちゃんって呼ばれててそれは褒め言葉なの?!って思ったけど)、少しくすぐったそうに、でもこんな風に呼ばれるので親密で少し甘えやすい素敵な雰囲気が、1日に何度も生まれていました。

*〜チカ:愛称の一種。「ゆうこリン」や「ゆうチャン」みたいなイメージ


教会があったかい

ロシアの宗教といえばロシア正教が一般的で、日本の神社仏閣と同じくらい頻繁に教会を目にするのですが、教会の前には大抵物乞いをしている人がいます。そして、驚いたことに多くの人が通りすがりにポケットから小銭を出して入れていきます。どうしてみんなあんなに施しをするのかと尋ねると

ー今は(お金が)自分のところにあるだけ。持っている人は分けることができるでしょ?

と言うようなことを言われて赤面しました。私はそんな風に考えたことはなかったし、大道芸を見た後でもチップも入れずに立ち去ることが多かったからです。

ロシアでは駅構内や地下道などで歌や楽器を演奏している人も多いのですが、そんな人たちへのチップも日本よりはるかに弾んでいるような印象でした。この経験の後、私も「お陰様への感謝」を忘れないようにしようと強く思いました。

それに、どちらかと言うとお金は貯金して死守しようとするの日本とは違い、よりお金を循環させるような考え方があるように感じました(あくまで印象ですが、ヒトからヒトへのお金の循環のハードルが低いように感じられました)。


おばあちゃんがあったかい

そして、あったかい経験で最上級と思われるのが雪道で出会ったおばあちゃんのエピソードです。

ロシアのクリスマスは1月7日なのですが、この日私はロシア正教のクリスマスを見ようと雪道を一人教会へと歩いていました。マルシュルートカと呼ばれる乗合バスのような交通手段もあったのですが、教会の場所がいまいちよくわからなかったので徒歩より詣でけり…といった状況でした(SIMフリーの携帯を持っていなかったので、ロシアでは事前にパソコンで地図を調べ、暗記して出かけるとスタイルでした)。

いつまた雪が降ってくるかわからない寒空の下、雪かきのされていない歩道に足を取られながら歩いていると向こうから坂を登ってくるおばあさんが見えました。もしかしたらおばあさんだったら教会の場所を知っているかもしれないと思い声をかけようとすると、なんと向こうから声をかけられました。

ーあら!親愛なる私の娘よ!こんな雪の中どこに行くの?

ー教会に行くんですけど…教会への道を知りませんか?

ーまぁそうだったの!教会はこの道を突き当たりまで行って、左に曲がりなさい。少し行けば右手に見えてくるわ。

ーありがとうございます!

ーここから先はもっと雪が深いから、気をつけるのよ!

私は実の娘ではないし(この呼びかけは初対面の相手にも使うのか〜)、あら久しぶり〜!みたいな会話のスタートだったので人違いかと思いましたが、ロシアではきっと取り留めもない日常の1コマなのでしょう。雪道で一人心細かった私は元気を取り戻し、無事教会にたどり着くことができました。

北方領土についてどう思っているか聞いてみた

留学中、何人かの人に北方領土についてどう思っているか聞いてみたのですが、だいたい同じ答えが返ってきて

ーあれは日本に返したほうがいいよね。

ということでした。在学中歴史を担当していた先生に聞いてみると

ー難しい質問ね…ロシアに暮らす一般的な市民はたいてい、北方領土は返したほうがいいと思っているわ。私もそう。でも、政治的にはそうすることができないから難しい問題ね…

私の印象としては、やはりそこに暮らす人たちと日本で報道される政治的な側面との間にはものすごいギャップがあるなということです。

最後に

ここまで読んでくださってありがとうございました。ロシアに生きる人たちの温かさが、少しでも伝わると嬉しいです。

ロシア語で「平和」と「世界」は мир(ミル)という単語で表現されます。単独で「世界」を表す言葉はないそうです。

※他にもсвет(スビェット)という言葉に「世界」という意味がありますが、この言葉は「光」という意味でよく使われます。

世界は平和や光と対になっている…

世界と平和が、常に一つでありますように。


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