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リンクとの関係性から読み解く『ブレワイ』『ティアキン』のストーリー

(このレビューにはティアキン・ブレワイのネタバレがあります)

2023年も様々なゲームが発売された。その中でも、5月に発売された『ゼルダの伝説 ティアーズオブザキングダム』は一際注目を浴びた作品である。はじめに言っておこう。このゲーム、買って損はない。シリーズ続編としても単体作品としても楽しめる作品で、遊びのボリュームもたっぷり。僕は5月にこのゲームを買ったが、12月になった今でも全然楽しめる。ゲーム本編をクリアした後も楽しめる要素がたくさんあるので、是非遊んでみてほしい。

その上でだ。今作のストーリー展開・ゲームデザインには気になるところがある。それはリンクの忙しさだ。今作のリンクは前作『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』と比べて、とにかく忙しい。普通に考えたらほぼ1人でハイラルとゼルダを救った前作の方が大変なはずだが、今作のリンクは外回り中の営業マンか!って思うほど、常に気忙しく動いている。この気忙しさの正体は一体何なんだろか。

色々考えたが、今作のリンクは「勇者でない時間」をほとんど過ごせないのが、気忙しさを感じる最大の理由ではないかと、僕は睨んでいる。

そもそも、リンクはリンク単体で勇者足り得るのだろうか?

答えはおそらく「No」だ。「勇者」は救い出す対象である「姫」や力の象徴となる「剣」、倒すべき対象である「宿敵」がいて初めて、「勇者」足り得るのだ。したがってリンクはただ己の生を生きるだけでは「勇者」足り得ず、ゼルダを救おう、ガノンを倒そうとする、その関係性の中で「勇者」になるのだ。マスターソードを抜くことが一大イベントになるのも、剣を抜くことでリンクはより一層「勇者」に近づくからといえる。。

「ゼルダの伝説」は「姫」ゼルダを救う「勇者」リンクの英雄譚として、ストーリーが進んでいく。これはブレワイもティアキンも同じだ。一方でブレワイが斬新だったのは、勇者ではないリンクを十分に楽しめることだった。

一旦視点をリンク視点から魔物視点、特にボコブリン視点に変えてみよう。

ボコブリンがリンクを襲うのは、リンクが「勇者」だからではない。実際にプレイすると分かるが、ボコブリンはリンク以外の人間も襲うし、鹿などの野生動物も襲う。ボコブリンがリンクを襲うのは、「目の前に狩るべき存在がいるから」、それだけである。ボコブリンとリンクの間にある関係性は、狩るか狩られるか、それだけしかないのだ。

そう考えると、ボコブリンは「勇者」リンクの活躍を阻む障害物ではなく、「勇者」としてハイラルを動き回るリンクを、「狩人」、そしてただの人間にしてくれる存在なのだ。(対照的にイーガ団やハイラル城にいる魔物やガーディアンは「勇者」リンクの活躍を阻む障害物として機能している)

実はリンクを「勇者」から引きはがす存在はボコブリンだけでない。馬宿や馬宿にいる人々、通行人、ミニチャレンジを持ちかける人びと、キノコ、魚、獣、川や山、砂漠や雪原。こういった様々な存在がリンクを「勇者の英雄譚」から引きはがし、解放してくれるのだ。

実際にプレイしてみると分かるが、ブレワイには「勇者でない時間」が結構ある。特にはじまりの大地でパラセールをもらってから、カカリコ村に行く道中では、ゼルダの声が聞こえることもなく、旅を楽しむ余裕があるのだ。オープンワールドというゲーム性も相まって、ブレワイは思う存分寄り道を楽しめる作品になっている。ハイラル城にいるゼルダそっちのけでハイラルを駆けずり回っていた方も多いのではないか。そして寄り道の楽しさとはそれすなわち、「勇者」リンクが野生に還る楽しさなのである。

対してティアキン。ティアキン最大のミッションはガノンを倒すことでなく、ゼルダを見つけることだ。したがってゼルダそっちのけでハイラルを旅することは、このゲーム最大のミッションを無視することになる。

そこでティアキンでは、プレイヤーによる「ゼルダネグレクト」を防ぐための工夫が施されている。その一つが地理的配置だ。

空島で特殊な能力を得て、ラウルに別れを告げた後、リンクは空島から飛び降りる。ハイラルのほぼ真ん中、しかも監視塔のすぐ近くにだ。空島から監視塔は早くて10分、遅くても30分~1時間で着いてしまう。僕は2つのルートを試してみたが、出会った敵はそれほど多くなかった。その結果、リンクが「勇者」としての存在から引きはがされる前に、監視塔に着いてしまう。ちなみに地上に降り立ってから監視塔に着くまでの敵や人物をカウントするとこのようになった。

ティアキン
ルート①:ボコブリンの拠点×1、ボスボコブリンの群れ×1
ルート②:ボコブリンの拠点×1、ボコブリン×2、ホネブリン×2、擬態木×1、NPC×1(深穴近くで休んでいる)

比較対象のため、ブレワイの道中も調べてみた。

ブレワイ
ルート①:ボコブリンの拠点×5、リザルフォスの群れ×1、チュチュゼリー×2、NPC×9 ボックリン、川×1
ルート②:ボコブリンの拠点×5、騎乗ボコ×5 チュチュゼリー×2 エレキース×1 NPC×3 オコバ、川×1

(明らかにブレワイの方が遭遇する人・魔物の数が多い)
ブレワイ・ティアキンのチュートリアル後の移動ルート。ブレワイは長距離移動かつ川を越えなくてはならないのに対し、ティアキンはスムーズに移動が行える。

監視塔に着くと、プルアやロベリーなど見知った面々(プルアは大分ビジュアルが変わっているが)に出会い、ゼルダを探すことになる。さらにハイラル城付近で捜索している兵士もリンクのことを知っている。そしてハイラル城でゼルダの人影を見つけ、ゼルダに関する情報を集めることになる。最後にプルアからパラセールをもらい、リンクは各地方に赴くことになる。

オープンワールドのゲームなので、監視塔を無視してゲームを進めることも出来るが、そうすると監視塔のワープ・飛び上がり機能、パラセール、回復できる拠点・ウツシエが解放できず、縛りプレイみたいになってしまう。実際のところ、初見プレイだと監視塔に立ち寄るのはほぼ避けられない。

そして監視塔に着いてからは、とにかくゼルダを探すよう迫られる。リト・ゲルド・ゾーラ・ゴロンシティではゼルダ関連のトラブルが発生しているし、馬宿に寄ればゼルダの噂話。加えて偽ゼルダなる存在も出てくる。どこにいってもゼルダゼルダゼルダ… このように、ティアキンではリンクが「勇者」から「普通の人間」になって旅をする余裕があまりない。私はそれが気忙しさに繋がっているのではないかと考えている。「ブレスオブザワイルド」が文字通り「野生の息吹」を感じる作品ならば、「ティアーズオブザキングダム」は「王国の英雄譚」によりフォーカスした作品になっている。

加えてブレワイで出会ったNPCとの思い出がリセットされているのがなんとも悲しい気持ちになった。テリーやボックリン、サクラダまで初対面のように接してくるのは、おいおいおいという感じだった。正直馬だけじゃなくて、その辺りも引き継ぎ要素は欲しかったなと。

ではティアキンは失敗作かというと、決してそうではない。新要素のウルトラハンド、スクラビルドは遊び方を無限に膨らましてくれたし、魔物の種類も増え、メニュー画面の使い心地も上がっている。そしてなによりストーリーが良い。ゲーム内でゼルダを探させまくるのも分かるくらい、ゼルダが物語に大きく関わっている。今作は間違いなく「ゼルダの伝説」だった。

加えてストーリーをクリアした後も、このゲームをプレイすることを強くおすすめする。先ほど述べた「常にゼルダを気にかけなければならない」気忙しさから解放され、思う存分好き勝手にハイラルを冒険できる。魔物を狩りまくる「狩人」になるもよく、お宝を探す「トレジャーハンター」になるもよく、ゲームの自由度を活かして魔物や住民にいたずらをしかける「厄災」になっても良い。前作にあった自由度の高さが好きな人は、クリア後の方が楽しめるかもしれない。

このゲーム、非常にボリューミーなので、やり残したところがあるプレーヤーも多いだろう。年末年始のこの期間、もし時間があればもう一度ティアキンをプレイすると、またドハマりするかもしれない。


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