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短歌63(自意識過剰な歌)

「心の花」2023年3月号掲載

プラスティック製の造花の質感でショクダイオオコンニャク聳え立つ

温室のベゴニア赤黄オレンジに承認欲求見せつけている

風呂桶をガシガシ磨く夫には天才型でないと言われて

夕飯がひとりきりなら胡麻和えをボウルから移さずに食べてる

きしきしとザクロの種を噛んでいる始まりばかりいつも楽しい

トランクスのボタンを閉めて憎まれる頻度で思い出してほしいよ

結局はうつらうつらとした朝の角膜だけをまだ寝かせたい

店先を埋め尽くしたるシクラメン花弁はぴんと寒空に向く

ショクダイオオコンニャクって見たことある?
インドネシアのスマトラ島の限られた場所に生えるサトイモ科の植物で、花が咲くと高さ3m以上になる。
造形としては水芭蕉みたいな形をしている。
ちなみに水芭蕉もサトイモ科だ。

独特な形で、大きさも大きいことが特徴的だが、それ以上に開花期間の短さも特筆すべき点だ。
2年に1度、そして咲いても2日間で萎れてしまう。

東京では調布の神代植物公園でこの植物を目にすることができる。
ある日朝起きると、昼夜逆転の夫が「ショクダイオオコンニャクを見に行こう」と言ってきた。
私はそのカタカナが聞き取れなかった。
よくよく話を聞くと、Twitterで「ショクダイオオコンニャクという2年に1回しか咲かない花が昨日咲いたから見に行こう」ということであった。
私は面白そうなことが大好きであるし、夫に付き合わされているおかげで超フッ軽になっていたので、すぐに身支度をして出かけた。
神代植物公園へはおそらく、飯田橋から三鷹まで中央線に乗って、それからバスで行ったのではないかと推測される。
そこまでは覚えてないけど。
でもえらい遠くて、時間がかかったことはよく記憶している。
飯田橋→三鷹→バスのルートだったとすると、自宅から2時間くらいかかる。

初めて行った神代植物公園は広くて、温室が充実していて楽しかった。
その温室の一番奥にショクダイオオコンニャクはいた。
「木」ではないはずなのだが、サイズが大き過ぎて茎や花はプラスティックみたいな頑丈な素材に見えた。
前日に開花したということで、見に行った時にはかなり斜めになってしまっていたのだけど、それでも初めてみたショクダイオオコンニャクの花はなかなかに感動的だった。

それから数年後。
吉祥寺病院という精神科の病院に2度入院した。
この吉祥寺病院から神代植物公園までは徒歩30分くらいで行ける。
2度とも任意入院だったので、外へ散歩に行くことが許されていて、よく神代植物公園で遊んでいた。
神代植物公園と、そこから閉鎖病棟へ戻る道すがらのことを短歌に詠み、今年の心の花賞に応募した。
さて、その連作はどこまで上にいけるか。
それはまた後日のお楽しみ。

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