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2021年のGOTY 長い待ちの期間を帳消しにする力強さ

2021年が終わろうとしています。

2020年は緊急事態宣言の影響もあって多くの人がゲームをプレイした年だったと思いますが、2021年は世間の情勢が少し落ち着いてきた(慣れた?)こともあってか昨年のほどの盛り上がりはなかったように思います。メジャーメーカーによる大作ソフトが例年に比較すると少なめだったことも影響しているのかもしれません。当初予定していた年内のリリースができずに、延期したタイトルが多くあったと記憶していますが、その一方でリリースが絶望視されていた作品が突如として登場して強い存在感を放ってもいました。今年の私のベストテンには不思議なことにそんな突然やってきたタイトルが多くなっています。

1.ウマ娘プリティーダービー
2.メトロイド・ドレッド
3.ふゆから、くるる
4.NO MORE HEROES 3
5.ノックアウトシティ
6.還願 Devotion
7.月姫 A piece of blue glass moon
8.Pikmin Bloom
9.メガトン級ムサシ
10.Unpacking

10位の『Unpacking』はマウスを使用したポイント&クリック操作で引っ越し荷物の荷ほどきをするゲームです。画面内には一切荷物の主は映らず、プレイヤーは荷物を片付けるのみ。人生のターニングポイントで引っ越しを経験する方は多いと思いますが、荷ほどきを通して部屋に住む人の背景が見えてくるのがおもしろい。言葉に依存しないストーリーテリングがお見事でした。言葉に依存しないという点では、6位の『還願』の一人称視点だからこその主観的体験と見える範囲が限定されることによる恐怖演出の上手さも素晴らしかった。『還願』の場合は音声を用いていますが、これもまた会話シーンといえるものはほとんどなく、どこからか聞こえてくる声はSEのような使い方でもあります。演出中心で説明し過ぎないストーリーテリングはともすれば意味不明になってしまいますが、この2作品は非常に上手い。

非常に上手いと言えば、2位の『メトロイド・ドレッド』のレベルデザインの秀逸さや絶妙な難易度調整には匠の技を感じました。広いフィールドを探索していく中でも自然と行くべき道が分かるような誘導の上手さ、手ごわいボス戦も敵の攻撃パターンが見えればノーダメージクリアも可能な調整などアクションゲームの教科書のような上手いゲームでした。『Unpacking』や『還願』ほどではないにせよ、実は本作も言葉によらない演出が特徴的だったりします。

言葉によらないストーリーテリングを褒めてきたところで、3位の『ふゆから、くるる』はノベルゲームです。すみっこソフトが制作してきたSF四季シリーズの最終作ですが、すみっこソフトの活動が停止状態となったためにシルキーズプラスが制作を引き継いでこの度の完結に至りました。テキストは1作目から書き続けている渡辺僚一さん。完全に分岐なしの一本道、選択肢もほぼなし、立ち絵とCGだけで構築してスクリプトで過度な演出を加えることもしない純度の高いノベルゲームです。それでも飽きずにプレイできたのは、物語の面白さとテキストの上手さによるところが大きいです。閉鎖された空間で見つかる首無し死体を巡ったミステリーかと思えば、生きること・(性愛も含めた)愛すること・次代に伝えることを描いたスケールの大きなSFへと展開していく構成の妙に惹きつけられます。作中に「祈りのチェス」という概念が出てくるのですが、とてもロマンチックで渡辺僚一さんの優しい部分が感じられる設定でした。テキストの良さに加えてキャストの皆さんのハマりっぷりも特筆すべきでしょう。特に主人公役の月野きいろさんの演技の幅広さが作品をドライブさせていた感覚があります。

冒頭で書いたようにリリースがないと思われていた作品が突如としてリリースされ、結果的に私のベストテンに入ることとなりました。9位の『メガトン級ムサシ』は何年も前からタイトルだけは聞いたことがあったのですが、その後の続報がほとんどない状態から今年に入って映像も出てきて東京ゲームショウに出展、アニメも放送、リリースという怒涛の流れ。長い開発期間とレベルファイブにとって久しぶりの新規IPということもあってか異常な熱意を感じる作品でした。ロボットのデザインが永井豪や石川賢風などこかで見たスーパーロボット感にあふれ、カスタム要素として基盤に載せるパーツを選べるなど随所にこだわりを感じる作品です。

時間がかかったからこその熱量といえば、10年以上前から噂のあった7位の『月姫 A piece of blue glass moon』は2000年リリースの同人ゲームのリメイク。オリジナルの感覚もある程度は残しつつも、完全新作ともいうべき思い切った変更は開発スタッフがオリジネイターだからできる判断だと思いますし、単なる焼き直しにはしない強い意志を感じました。4位の『NO MORE HEROES 3』も10年以上ナンバリングの新作がなかったシリーズの復活作で、時間が経ってしまったことでの変化にやや寂しさがありつつも、待たせていたファンへのサービス精神に溢れた作品でした。先に挙げた『還願』もリリース自体は2019年だったものの、中国の首相をネタにしたオブジェクトがあったことが問題となって約2年の間販売停止となっていたのが今年になって自社サイトから再発売されたので、ある意味で待たされたゲームです。

そして、待ったという意味では個人的に一番待っていたのが約5年前の発表時から気になっていた1位の『ウマ娘プリティーダービー』です。最初のアニメ化の放送時もばっちりチェック、5分アニメ「うまよん」もみつつ、事前登録が始まれば即Twitterをフォロー。アニメが盛り上がる一方でゲームの情報が一切出てこないことが気になりつつも、いつの間にか始まった公式YouTubeチャンネルまで見てしまう始末!「事前登録3周年www」とネタにされていてもきっとリリースされると信じていたらアニメの第2シーズンの発表、ゲームのリリース、直後からスーパーヒットという流れに信じていて本当に良かったと思いましたね。スマートフォン向けのアプリという市場は流行り廃りのスピードが速く、長い開発期間の間により時代に即したものを目指して大幅な作り直しをしたそうです。その結果これだけ売れているから大したものです。実際、今のスマートフォンの端末の性能をフルに活かしたようなモデリングの細かなキャラクターに始まり、縦持ちに適した画面設計、派手なライブシーン演出とクオリティの高さは間違いなく最高峰。今後の市場の大きな試金石となることは確実です。

そうした質の高さに加えて、毎回のキャラクター育成がドラマチックで思わず熱中してしまうことも良い部分です。育成はランダム要素が多く、頑張って育てていても次のターンでやる気が下がってしまったり、レースで良い結果が出せなかったりもします。多くのゲームではこういった要素は忌避されがちですが、表情豊かに頑張るウマ娘たちを見ていると労わってやりたくなる気持ちが勝るのです。トレーナーとして活動するプレイヤーはレースの際には実際の競馬のようにただ見守ることしかできません。応援行為でゲージがアップするといったこともなく、ただただ観戦するのみ。手塩に掛けて育ててきた愛バを応援するのです。だからこそ、燃える。熱くなる。実況付きで進行するレースの場面では、第4コーナーを曲がって最後の直線に差し掛かるころには思わず声が出るほどに熱いレースとなります。ギリギリで差し切って初めてG1で勝った時のうれしさたるや!まだプレイされていない方は是非この感動を体験してみてください。

統一感のないベストテンだと思っていましたが、作り手の熱量の高さという点では近いものがあったかもしれません(無論、どんなゲームも作り手は熱意をもって制作しているはずです)。2022年は期待値の高いAAAタイトルが大量に待ち構えていますが、果たしてどうなることやら。来年もよろしくお願いします。

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