一度も会ったことのない推しからプレゼントをもらった話


その文言を書けることが、純粋にすごいと思った。筆記能力の問題ではなく、意志の問題として。


私なら、と思う。私なら多分無理だ。それを思っていても、きっと書くことはできない。なぜか。その意志を表明したときに周りから向けられるかもしれないものに、その意志を明確にすることによって自らの言動に生じる責任の重さに耐えきれないからだ。

決して許されるものではない。それを許容するつもりはない。彼の意志に120%同意する。

それでも私には勇気がない。だから彼のように、この言葉を綴ることができない。



名前 チャウヌ
嫌いなもの 差別



彼の強さが、私には少しだけ、まぶしい。








半年ほど前、推しができた。韓国の男性アイドルグループ、ASTROだ。

踊ってよし、歌ってよし、喋らせてもよし、もちろん顔もよし。うるさくて仲良しで努力家でそしてうるさいグループだ。

先の文言はそのASTROのメンバー、チャウヌが『自分の履歴書を書く』みたいな企画で実際に書いたことだ。約四年前の話になる。



すごいなぁ、と思った。強いひとだなぁ、と。


差別はあってはならないことだ。絶対に。

でもそれをアイドルという立場で、公然と宣言できる十代の人間がどれだけいるだろう。

お化けとか、辛い食べ物とか、他にも嫌いなものはたくさんあるし、そういうのを書いたって全然問題ないし、というかむしろデビューして何年も経ってない爽やか系アイドルならそっちのほうが商業的にもウケがいいんじゃないのとか思ってしまうのだけれど、彼はそういうことは書かなかった。

それはきっと彼の意志だし、強さだ。

「綺麗事」
「言うだけなら簡単」
「あざとい」

そんな風に笑われるんじゃないか、そう思うと私は世界にとって当たり前のことを言葉に出すのを躊躇ってしまう。周囲からの視線や言葉に凛然と立ち向かえるだけの勇気がない。

だから、彼は強いと心から思う。






自分が生まれ育った国とは違う国のアイドルを好きになってから、私はいろんなことを学んだ。


韓国の儒教に基づく長幼の序を厳しく守る考え方、それに起因するヒョンやマンネといったカテゴリー。学校は三月はじまりで、アイドルの追っかけレベル100みたいな人たち(マスタニム)がアイドルの写真をバンバンとってあまつさえグッズ化してたりして。新曲を出したら超忙しくて睡眠時間はすごく少なくて、短い期間に怒涛の勢いで音楽番組やラジオ番組に出演して。

もともと新しいことを知るのが好きな私は新しい知識を得ることが楽しかった。知れば知るほど、彼らに近づけるような気がした。


近づいた気になって、足元を見て、今まで気付かなかったことに気づいた。


たとえば本屋さんの店先に陳列されている、韓国を嫌いさげすむ論調の書籍たち。

SNSやネットで飛び交う、悪意のある言葉たち。

100年にも満たないほど近い過去に、私が生まれ育った国がされたこと、そしてしたこと。

それらはすべて、私の人生にもとからあったものだった。ただ、私の目や耳やこころは、それを受け取らなかった。見て見ぬふりではなく、見えているのに見えていなかった。

なぜなら、それは私の生きる世界とは違う、遠い世界の、関わりの薄い事象だから。


今は違う。


私は韓国のアイドルを好きになり、彼らが生まれ育った国について少しずつ知り始めた。

そして見えていなかったものが見えるようになった。

率直に言う。しんどい。

私はただ、好きな人たちのことをもっと知りたかっただけだったのに、自分の鈍感さと厚顔さを思いもよらない形で突きつけられた。完全に背後から刺された気分だ。

知れば知るほどにわからなくなる。

日本に友好的な言動をすれば叩かれることもあるという韓国の社会で(もちろんそういう感情を持つ人がいることは、歴史を見れば当たり前だろうと思うし、誰にも咎められないことだ)、日本語の曲を出し日本で活動することが、彼らに苦痛を与えはしないだろうか。傷つけはしないだろうか。

もちろん彼らは商売だ。割りきっているだろう。音源が沢山の人に聞かれて、収入が入って、有名になることが最優先事項で、そのためならどんなことにでも挑むだろう。それでも心配になる。不安になる。


私は、自分が好きな人たちには幸せであってほしい。

だから、もしも異国のファンのためにしてくれていることや、しようとしてくれていることが彼らの痛みになるのなら、しなくたっていいと傲慢で不遜なことさえ考えてしまう。私には何の権限もないのに。

でも、しんどいけど、知らなければよかったとは思わない。

私の世界に新しい窓を開けてくれた彼らを、見たことのない景色を見せてくれた彼らを好きにならなければよかったなんて、絶対に思わない。



何度だっていう。私は彼らが大好きだ。

勇気はそこまでない。

悩んで、悩み続けていて、まだ答えは出ていない。

それでも好きだ。好きでいたい。好きだと胸を張って言いたい。もっといろんなことを知って、考えて、それでも好きだと言えるようになりたい。

そしていつか、なけなしの勇気を振りしぼって、私の大好きな推しのひとり、嫌いなものは差別だと言える強さを持つ彼に会えたら。

きっと私は泣く。泣いてしまう。

泣きながらでも、この言葉だけは絶対に伝えると心に決めている。


「あなたに出会えてよかった」


何年先になるだろうか。でも絶対に届ける。何があっても絶対に。

これは、優しくて強い彼が私にくれた、強さだ。



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