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0129_そう言う日
「ほら、私ってひまわりが好きじゃない?」
電話口から聞こえる快活な母の声はまるで隣にいるかのように生き生きとしていた。実際は電車で30分程離れた地にいる。近くて遠い。
「あー、そうだっけね」
ヤマユリが好きだとは聞いていたけれど、と思うが口は挟まない。
「この間、新聞読んでいたら、公民館で上映会をやるんだってお知らせがあってね。昔の映画『ひまわり』。ほら、撮影地がウクライナで、ね、だから。私の好きな花だしと思って、嬉しくなっちゃって」
それこそ今見ているかのように浮かれた様子で母は言う。そして、カレンダーを見るとね、と続けた。
「その日ったらね、もともと予定していたジャズライブの日だったの」
「ああ、じゃあ映画は行けなかったのね、残念ね」
私がさも残念そうに言うと、母はそうでもないような。なんとなく、電話口から溢れん熱量で分かる。
「違うのよ、上映会はお昼でライブは夕方からだから行けたわよ。そうじゃなくて、そのジャズライブはね、いつも決まった曲を歌ってくれるんだけど、その曲って言うのが、なんとその映画の主題歌なのよ」
スロットで777が揃ったのかと思うほどに興奮した様子で母は言った。あなたももちろん私のこの気持ち、分かるわよねと電話の向こうで同意を求められている気がする。思わず頷く。
「もうね、私、『そう言う日』なんだなって」
「そう言う日?」
「そう、『そう言う日』。なんだか全ての私の幸せが繋がっている日ってこと」
ひまわりと『ひまわり』とジャズ、確かにこの日、母の好きはたしかに繋がっている。そこにドタドタと私の足にぶつかった。
「ママ!ばあば??ばあばなの?」
真夏に生まれた息子が満面の笑みで私に笑いかける。よじよじと私を登ると、手元のスマホに写る母に顔を見せた。カメラと画角を既に知っている幼児、今年4歳。
「まぁまぁ葵くん、元気そうねー」
「ばぁば!僕もうすぐ幼稚園行くの」
葵がニコニコとばあばに言い、その満面の笑みのまま私に顔を向ける。そうかと思えば斜め向こうの幼稚園の制服を見てまた笑う。
「葵くんはくるくる笑って、本当にひまわりみたい」
「そうなの!僕、ひまわりなんだよ」
そう言えばと、私は思い出す。
「僕、ひまわり組なんだよ!」
葵が得意気に言うとばあばは声をあげて笑う。
「あらまた今日も『そう言う日』!幸せだわ」
そう言って笑う母の顔こそひまわりのように大きな笑みだった。
今日もまた、そう言う日。
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