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0113_ベッドの上で

 ベッドってつまんないんだもの、そう言ったのはムーミン一家の友人である、ちびのミイだったか。私はベッドの上で薄い毛布を抱き締めながら彼の来訪を待っていた。確かにベッドはつまらないなと、ミイを勝手に身近に感じている。
 そろそろ暖房の暖かさがなくなって冷えつつあるこの部屋の特段こだわりのないシングルのベッドで私は今日も待つ。毎週土曜の晩だけ、あなたは私に会いに来るから、それまでの6日間を、眠って起きてを繰り返し、ただその時を待つ。
 18時になる頃、カチャカチャと鍵を開ける音がした。彼が来てくれたのだ。
 あーあ。
 私はいつもこの瞬間、猛烈に彼に会いたくないと思う。その想いから、毛布を握る手に強い力が込められる。そして私は今にも泣きそうになる。彼が来たならば、彼は帰ってしまうのだ。彼が来なければ彼は帰らない。
「こんばんは」
 私は掴んでいる毛布を放すことなく、引きずって彼を迎えに玄関に向かった。彼は、僅かに疲れた表情で笑ってくれる。くしゃりと歪む目元が、私は好きだった。
 早く帰らないかなぁと、私はふいに思う。
「こんばんは」
 私も挨拶をする。近くに寄ると、外から来た彼の寒気がじわじわと私に滲み、私はくしゃみをした。
「ああ、またそんな格好のままでベッドに一日いたのか。おいで、ココアを入れよう」
 彼はまるで自分の部屋のように入った。私は彼の後ろをついていき、またベッドに戻る。彼はそのままキッチンに向かうと湯を沸かし始めた。それから、来ていたコートを脱ぎ、私がクリスマスに贈ったマフラーを外し、鞄を部屋の隅に置く。新しい鞄だ。奥さんの趣味だろうか。とても綺麗な形をしている。ゴポゴポゴポとポットの湯が沸く。湯気が彼の姿を歪ませた。
「はい」
 少ししてベッドのサイドテーブルにココアの入ったカップを置いてくれた。私は両手の平でそれを挟むように持ち、熱に触れる。熱くて、少し痛い。
「さて、今日はなんの話をしようか」
 彼もまたカップを両手で持ち、横目で私を見る。
 好きだなぁと思う。好きだから、そんな風に私を見ないで欲しい。暖かくて甘いココアなんて作らないで欲しい。毎週決まった日時に来ないで欲しい。私の話を聞かないで欲しい。私の話に頷いたり微笑んで時々笑い声なんて聞かせないで欲しい。
「私ね・・・・・・」
 私が口を開くと、彼は柔らかく笑った。
 こうして1時間なんてあっと言う間にすぎる。私の拙い話を聞いて、彼はこの部屋を出る。また来週ねと言って来たときと同じ格好で帰っていくのだ。
 私は妹だから、本当に好きになったりなんかしないから安心してよ。お兄ちゃんがいるって、それだけでなんとか生きていけるから安心してよ。昔も今も一緒だよ。知っているでしょう。だからどうか安心して、来週も会いに来て。
 私は彼の帰りを見送り、またベッドに戻って来週の彼を待つ。
 彼を待つベッドの上は、つまらないけれど死ぬほど心地良い。

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★著者:あにぃ

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