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0109_多色の毎日

 人は毎日生まれ変わると言ったのは誰だったか。私はそんな精神的な支えのようなやわな言葉は信じないけれど、案外に捉え方によってはその通りかもしれないと思った。
 昨日見たテレビ番組が、今日はクソつまらなくなっている。
 これが昨日の私と今日の私の違い、つまりは生まれ変わったために生じたことなのか、それとも本当にその番組がクソなのか。正解は分からないけど、結果として確かに昨日の私と今日の私とでは心情は変わっている。え、そう言うことなのか?そんな『気分の変化』を生まれ変わりとしてもよいのだろうか。なんだかずるい気がするので、私は他人でも確認してみることにした。
 昨日の近藤君は、大層嬉しそうな顔で退社していたのを覚えている。何でも、数ヵ月ぶりに会う彼女とのデートだと言っていた。色で言うならピンク色の雰囲気を纏っていたように思う。でも、今朝見た彼は茶色っぽい。
 昨日の良峰君は、資格試験の不合格が確定したらしく、濃い青を纏っていた。現在も変わらず濃い青のようだが何か変わったところがあるのだろうか。
 泉さんはひょうひょうとしている。今朝はどこかソワソワしているようだ。うっすらオレンジがかってみえている。
 惣島さんは昨日こそなんだかイライラして見えていたのだが(赤と黒が滲んでいるように見える)、今日はどうだろう、白っぽい。白って、どんな雰囲気なのか。
 ぼんやりと職場を見渡していると、妙に楽しくなってきた。
 つまらないテレビ番組も、いいことも悪いことも関係なく、ただ、私の狭い世界を見渡しているだけで、『何かを見つけられるかもしれない』ような錯覚を起こしている。人の雰囲気を見ているだけで面白いことでもなんでもないけれど、『何か』の片鱗はあるかもしれない。
「あ、佐伯さん、なんか楽しそうだけどいいことあった?」
 ポンと私の肩を叩いたのは泉さんだ。
「え、びっくりするくらい特に何もないですよ」
「そうなの?なんかちょっと笑っているように見えた」
 ふふふ、と笑って通り過ぎていく。
 私も、周りには少しでも楽しそうに見えているのか。
 そして、佐伯さんは柔らかく笑った。楽しく見えている私を見て、彼女は笑った。
 昨日笑って、さっきまでつまらなくて、今わずかに笑えた私だが、もしかしたら、明日まで待たなくても新しい私に変われるのではないか。そうなれば『クソつまらないそれ』はもしかしたら一瞬のことかもしれない。結局気の持ちようなんじゃないか。まあ、でもわざわざ気を変えようとしたわけではないし、キョロキョロしていたら色んな色が浮かんでいただけだ。
 存外、世界はカラフルなのかもしれない。

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