下ネタが苦手だって話

私は下ネタが苦手だ。

「うんこ!おしっこ!w」みたいな汚い話も得意じゃないし、「セックス!勃起!w」みたいな卑猥な話も好きじゃない。

私の友人はみんな私がその手の話題が苦手なことを知っているので、あまり会話の中で振ってはこない。たまに振ってくる人はいるけど、「私そういう話しないからw」「小学生みたいなこと言わないでw」とか言ってごまかすし、しつこかったらキレる。

こんなんだから「あの子はよっぽど免疫がないんだ」みたいに思われている。

でもここ数年で、その苦手さを克服してきた気がした。

私は現在大学4年生で、そこそこに恋愛をしてきて、彼氏もいる。友人と話していると、恋バナに発展しやすい。そして、性的な話にも発展しやすい。耐性が付いたんだなと思った。

◆◆◆

ある時、友人A宅に泊まった時。


友人A「ごめん…あのさ…(私)が苦手だっていうの知ってるんだけど…(私)が彼氏さんと夜どういう風に過ごしてるか聞きたくて…」

「なんだそのくらい普通に話すよ、あんまり大っぴらにできる話でもないから聞きにくいよね、気遣ってくれてありがとう」

友人A「え…?大丈夫なの…?嫌だったら全然いいんだよ…?」


友人Aは私の発言に大層驚いた顔をしていた。正直私は友人Aがなんでそこまで気を遣ってくれているのかが分からなかったが、「だんだん耐性がついてきたから平気だよー」と軽く笑って、恐る恐る聞いてみたもののあっさり受け入れられて困惑している友人Aと、各々の夜の話をした。

友人Aと別れた後、ゆっくり考えてみた。なんで友人Aはあんなに気遣ってくれたんだろうか。そして私はなんでそんな疑問を抱くくらい、性的な話をしたにも関わらず平気でいられたんだろうか。

確かに、「この手の話題をする人ってどこにでもいるから、避けられないんだなぁ」と気づいてからは多少話を振られても我慢ができるようになった。嫌だと言ってもしつこかったらキレてしまうが。でも、友人Aとした会話は何も不快ではなかった。我慢しながら話した記憶は一切ない。「耐性がついた、ついてないの問題なのか?」「そもそも私が本当に苦手なのは”下ネタ”なのか?」私はしばらく頭をひねっていた。

◆◆◆

数か月後、別の友人BからLINEがきた。


友人B「くだらないんだけどさ、彼氏に『ティエンポって漫画を読んでてさ』って話をされて、めっちゃゲラゲラ笑っちゃったんだよねwww」

「ティエンポ!?!?ってwwwほんと小学生みたいwww」

「『エ』を抜かしたらアウトじゃんねってwww」

「(私)に下ネタ話すのはばかられるけど、このレベルならいいと思ってる」


不快だな、と思った

なんでこの話は不快なんだろう。とはいえ、この程度の話は”耐性”がついたので我慢ができる。我慢はできるが、楽しいとは思わないしやはり不快な事には変わりなかった。


「このレベルは下ネタとしてギリなラインだなー」


友人Bも私を気遣った上でのこの話題だったので、私も気を遣ってこう送った。本当にギリギリだ。


友人B「(私)はえぐい下ネタみたいなのがアウトなんだろうな」

「小学生以上の内容というか」


違うなぁ

別に排泄物の話をされても平気だし、男性器の話をされても性行為の話をされても平気だし、なんならオーラルセックスやアナルセックスの話をされても平気だ。しかし共感性羞恥や、共感性で痛みを想像する(これに名称はないんだろうか)のはあるので、あまりマニアックな話は好きではないが…。

ここで気が付いた。「そうか、私はネタにして笑うような話=下ネタを気持ち悪いと感じるんだ」と。


「えぐい≒グロいのは普通に苦手。それより笑いのネタとして話すのが嫌だなぁ」

「性的な話、なら平気だけど、下ネタ、は苦手っていうか」

「それはそれとして、これくらいのレベルなら下ネタとしてギリ耐性はあるけど」

「性行為、性器、発達…みたいな話は構わないけど、『おっぱいw』みたいなのは苦手」

「話し口が上品にならないのが苦手……って言ったらわかる…?」

「……っていう一連の説明、難しいからやっぱり私は性的な話が苦手で~って言った方がいいんだろうな」


最後のは、多少の嫌味を込めてしまった。


友人B「笑いのネタか~!線引き難しいよな」

「結局『下ネタ苦手で』って言った方が手っ取り早いってことだね…それでいいと思う!話してくれてありがとう!」


伝わってんのかこれ???????????

線引き難しいのか???手を叩いてゲラゲラ笑うような、口にするだけでニタニタ笑うような話し方や話題が苦手だと思っているけど、もしかして「性的な話=面白い話」っていう認識になってる???っていうか最後適当に返信したな…。一回ゲラゲラ笑った話を送ってしまった手前、気まずくなって切り上げたんだろうか。なんにせよ、面倒だからこの会話切り上げよう!という意図を感じた。

◆◆◆

友人Bとの会話を経て、小さい時から下ネタが嫌だなと思っていたのは、みんなそれを面白はずかしと盛り上がるためのネタとして話してきたからだと気付いた。この話題を嫌がってる人がいても、嫌がっている事実それすらもネタにする。話す当人にネタにする意図がなくとも、丁寧に話をしようとしても、そういうワードを口にするだけで、周囲はネタにしてニタニタと笑うのだ。何回も見て、気持ち悪いなと思ってきた。

私は女子校に通っていたが、高校の時の保健の授業で、あるビデオを見た。性教育のビデオで、妊娠についてや性行為、コンドームの装着の仕方を教えるものだった。性について知るには、女性の身体だけではなく男性の身体についても学ばなければいけない。ビデオの中では、男性器が勃起する仕組みについて教えてくれていた。

私はその時間ずっと吐き気がしていた。それは内容に対してではない、周囲の生徒の反応に対してだ。

生徒たちは、3Dモデリングされた男性器が勃起するのを見て、「フゥ~~~~~~~~~~!!!!!!!!」と盛り上がりゲラゲラ手を叩いて笑っていた。

心の底から気持ち悪かった。

その教室内は、教育ビデオをネタにして盛り上がり学ぶ気のない生徒、性的なものを見ること自体を汚らわしいこととして嫌そうな態度をとる生徒、恥ずかしそうに机の上だけ見ている生徒、真面目にビデオを見ていると「えーw興味あんのw」と茶化してくる生徒……そんなのばかりだった。

堕胎についても先生から説明があった。しかし、人工妊娠中絶の話は「怖~い」「嫌だ痛そう~」という印象が付いただけで、その雰囲気から結局「怖くて痛いから望まない妊娠をしないように適切な行動を取りましょうね」という話になり終わった。

そういうことじゃないだろう。性教育って、そうじゃないだろう。

間違いなく自分の身体に関することで、もしかしたら(高確率で)自分の人生に直結することで、何よりも生命が関わっている。どうして、ただの笑いのネタだと思っているんだろう。性の知識が無かったことで苦しんだ人がいるという話、何回も何回も聞いたじゃないか。

授業がどうでもよくなるほどに知識を持っていた?恥ずかしさから茶化していた?それで他の生徒の学習の学びを邪魔していい理由にはならないだろう……これは論点がずれてしまうけれど。

どちらにせよ、性に向き合う大切さが伝わっていないことだけは分かった。16歳の時、今から6年前だ。みんな、今はどうやって向き合ってるんだろう。友人Bは、その時に授業を一緒に受けた人の一人だ。私は気持ち悪さから泣くのをこらえていたので、彼女がどんな風にビデオを見ていたのかは、分からない。

◆◆◆

やっぱりもう世間の中で「下ネタはおもしろい!w」という雰囲気ができあがってしまっていて、みんな性的な話を面白いor極度に汚らしいものとしての印象を持ってるんだと思う。だからあの教室はあんな地獄絵図になったんだと思う。

確かに、性的なものは人の興味をそそる。なんであんなにそそるのかは私は不勉強で理屈で説明できない。でも、あんまりにもそそられるのでそれのファンタジーができあがってしまった。アダルトビデオやエロ漫画の類だ。あれらはファンタジーすぎる。フィクションだ。でも、みんなあれをファンタジーと認識できない。性の知識が足りないからだ。だからファンタジーを現実と混同してしまって、結局それを「現実に起こりうるもので(実際は起こり得ないが)(ファンタジーと混同中)、最高潮に面白いもの」という風に認識してしまう。

※あれらをファンタジーじゃない!と言っている人がいるらしい。そうですね、確かにスー〇ーマ〇オの動きを再現する人も世界にはいますもんね....ゲームはファンタジーだけど、再現する人は現実ですもんね……はいはいほんとだー(棒)

大人たちは、子供がそんなことに興味を持たないようにと性的なことをなるべくなるべく遠ざけて、「興味を持つこと自体が悪いもの」と教えようとする。そんな人ばかりじゃないけど、扱うのが難し過ぎて腫物のようになっているのが現状だ。

私が今まで「下ネタが苦手」だと思っていたのは、みんなの目に触れるものが正しい性の知識よりもファンタジーの方が圧倒的に多い上に、腫物になってしまった性の話を「下ネタとしてしか扱う方法を知らなかったから」なのだ。だから、ネタにされている性の話を気持ち悪いと思ったし、性の話はネタにされるようなもので気持ち悪いものなんだと思っていた。実際、両親は性の話を気持ち悪いもの、知ってはいけないことだというように私に扱って見せていた。

そういう背景もあり、いや、なかったとしても性の話はデリケートだ。なんでそんなにデリケートなのかは私は不勉強で理屈で説明できない。でもとにかくデリケートだということはわかる。デリケートであるということだけがただひたすら事実として存在する。では、そのデリケートな話をどうやってしようか。

デリケートな話を先にネタとして知ってしまうと、ネタなので、真面目な話は面白くないから聞きたくない。あんだけ笑っといて今さら真面目な話をするのも気恥ずかしい。それか、ネタとして知って「気持ち悪いな…」と思ってしまい、真面目な話も気持ち悪いように感じてくる。

もしくは、デリケートだから心にダメージを負わないように、ゆっくり少しずつ口にしようとする。すると、「恥ずかしい話じゃないんだから!」と、おおっぴらに話せば話すほど良い!みたいな感じの人が出てくることがある。それか、性の話自体を良くないものと思っている人が多いから、「なんでそんな話するの!」と怒られたり嫌がられたりする。そんなのに巻き込まれたくないので、今度は口を閉ざす。

こんなことで、デリケートな話をする機会は無くなる。話をしないので、何の知識をつけることもなく、でも人生は性的なことから逃れられないことが多いので、手探りでなんとかしようとする。そして何かがあった時、人々は、大人は、烈火のごとく怒り軽蔑の眼差しを向ける。なんだこれは。

私が言いたいのは、こんなにもデリケートな性の話を話のネタにして笑ったり、話している相手の気持ちをないがしろに扱ってほしくない、ということだ。

私が友人Aと会話をした時に不快感がなかったのは、自分と彼氏の性に対する考え方、そのギャップに対する悩み、性行為に関する認識の違い、性行為をした時の感じ方など、そういう話を丁寧にすることができたからだった。内容によって話すことに対する恥じらいこそあったが、ネタにして笑うようなことなんか一度もなかったし、彼女は私の心にズカズカ入ってくるような話し方は一切しなかった。

性的な話をしているのにこんなに心が穏やかだったのは、21年生きて初めてのことだった。これが21年生きて初めてだった、ということにも驚いた。

彼女と6年前に出会えていたらな、と考えた。

◆◆◆

この世にはいろんな種類の面白さがあって、それぞれが弾劾されるべきものではないと思う。ただ、もし人と性的な話をするときがあればせめて少しだけでも意識していただきたい、「これは人の身体にまつわる、心にまつわるデリケートな話である」と。

楽しむことは構わない、その場で面白がることも構わない。というか私にはもう止められないので諦めている。でも、せめて「この会話の中でだけ特例的にネタとして楽しむのであって、ファンタジーを楽しむのであって、性的なこと=面白いネタ…というわけではない」ということを念頭に置いてほしい。ついでに、そもそもネタとして扱っていいものでもないということも、一意見として頭の片隅に置いておいてほしい。

友人Bの話も、面白いものだということは理解できる。だけど、私にとっては苦痛だった。本当に申し訳ないが、本当にその面白さが理解できないのだ。理解できない上に、それを面白いと思う感性を気持ち悪いと思ってしまうのだ。そしてそれを「面白いもの」として笑うことを強要(これは意地悪な言い方だが)される……苦痛だ。でもその苦痛が理解されず、あわや「気取ってる」「めんどくさい」と思われることもある。友人Bはそんなこと思っていないだろうけど、あのLINEでは壁を感じてしまった。ここまでくると価値観の違いなのでどうしようもない。好みの問題なのかもしれない。いや、好みの問題だけならまだいい。

でも、「下ネタは面白い」「下ネタを面白がれない人=純粋ぶってめんどくさい人」「性の話はそれ自体が気持ち悪いから興味を持つべきではない」と思われていることで、正しい知識が行き届かず、傷つく人や困る人がいるんだとしたら。そんな人を生んでしまう価値観・風潮が存在するなら、私はそれを変えていきたいと思っている。

この世間の風潮を作っているのは、今を生きている私たちだ。私たちのうち誰かが一人Twitterで「XはYだと思う」とつぶやくだけで、それを見た人に「こんな考え方もあるのか」「そうかなぁ」「確かにそうなのかもしれない」と、小さな小さな影響を与えられる。そしてその小さな影響が積み重なった時、見た人の中では賛同していなかったとしても「XはYなんだ」という一つの仮説が根付く。この仮説をたっっっっっっっくさんの人が持った時、それは風潮として世間に顔を出すんじゃないだろうか。

◆◆◆

これをここまで読んでくれたあなたはどうだろうか。大切な、デリケートな話をネタとしてしか消費できていない…なんてことはないだろうか。

あなたが頭の片隅にこのnoteを入れてくれれば、あなたの言葉、対応が少しだけ変わると思う。変わってほしい。そしてそのあなたの言葉、対応一つで、きっとこの社会の風潮は変わる。一緒に変えてほしい、あの時泣くのを堪えていた16歳の私をこれ以上増やさないために。

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