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脳腫瘍(頚椎腫瘍 4)

 11月19日(金)脳のMRI。これは念のためということだった。
 夕方、中井先生から手術についてお話があった。

 まず、向こう側からライトが当たるようになっている曇りガラスのボードに、MRIの写真を並べて見せられた。
 首の下の方に大きな腫瘍があり、右横に伸びて骨からはみ出している。腫瘍に押されて右側の神経が迂回路のように曲がっている。見るからに痛そうだ。
 なるほど、これが痛みやしびれの原因なのか。

 先生が首の骨の模型を使って説明を始めた。
 首の骨は7本あって上から順に番号がついているが、腫瘍は1番下の7番の骨のところにできている。7番の中央から右の骨をはずして腫瘍を取り出すが、大きいから左側の骨もはずさないと取り出せないかもしれない。
 はずした骨の代わりに骨盤の骨を削ってつなぎ、ワイヤーで留める。何年かしたらワイヤーは取り出せばいいし、そのまま残しておいても構わない。

 この神経(押されて曲がっている神経)はもうだめだから切ってしまう。

 腫瘍がそっくり取れるかどうかはわからない。取っている途中で崩れてしまって全部取り出せないかもしれない。取り残しがあるとそこからまた大きくなるが、大きくなったら再手術すればいいし、しないで済むかも知れない。

 手術中大量に出血したら輸血しなければならない。アンヌさんは自己血を採る時間がなかったから日赤の血液を使う。
 これはエイズやB型肝炎に感染するおそれがある。

 腫瘍は脊髄にできているので硬膜を切って取る。切ったところは縫うのだが、縫っただけでは縫い目から中の髄液がしみ出してくるので、糊をつけてしみ出るのを防ぐ。
 この糊は血液で作られており、これまた感染症にかかるおそれがある。

 ここまで聞くと、もう運を天に任せるしかないという気持ちになった。ふうっとため息をつきたいところだったが、話はこれで終わりではなかった。
「もう一つ、小脳にも腫瘍がある」
 そう言って、中井先生が別の写真を指し示した。
 見ると、黒々とした脳の中に、首の腫瘍と同じか、やや大きいくらいの白い塊が写っていた。
「良性だろうけど、首の手術が終わったらなるべく早く、脳外科へ行って診てもらって。ここには脳外科がないから、どこか他の病院で。どこでもいいよ。紹介状を書くから」

 私はただ呆然としてしまい、ものも言えなかった。
 一体いつからこんなものができていたんだろう? 全然気がつかなかった。晴天の霹靂とはこのことだ。

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