『コロンボ』メモ:10-01(第19話)『別れのワイン』ANY OLD PORT IN A STORM

原題は、ことわざ「any port in a storm:困っている時には誰の援助でも受け入れる/急場凌ぎの案」をヒネッタもの。直訳すると「嵐の時にはどんな港でもいい」で、日本語のことわざで言えば「溺れる者は藁をも掴む」あたりだろう。英語では、「港」も「port wine(ポートワイン=甘口の強いポルトガル産の赤ワイン)」も、どちらも「port」。

▼(2020/12/24)
兄のAdrianはカネを、弟のRicはワイン工場を、父親から遺産として譲り受けた。まもなく、兄は譲り受けたカネを使い切り(おそらく高級ワインの収集に消えたのだろう)、ワインにも商売にも興味のない弟は、ワイン工場の経営等一切合財を兄に任せることにした。つまり、事件が発生した当時も、ワイン工場のオーナーは弟のRicだということ。だから、「うがい薬にもならない」安売りワインで商売をしているマリノ酒造(Marino Brothers)に工場を売ると決めた弟に対して、兄は「無力」だったのだ。AdrianとRicは腹違いの兄弟。

▼(2022/06/22)
このエピソードは、犯人である兄のAdrianの方には同情が集まり、弟Ricはどうしようもない放蕩者のように思われがちだが、よくよく考えてみれば、どちらも「道楽のために金を浪費している」という点では同じ。つまり、必ずしも、「女」や自動車に金をつぎ込むのは放蕩で、ワインに金をつぎ込むのは高尚とは言えない。よくよく考えてみれば。

▼(2023/10/19)
リック(Ric)って、てっきりリチャード(Richard)だと思っていたけど、エンリコ(Enrico)だった。劇中のテレビレポーターが「エンリコ・カッシーニ」と言っている。エンリコの「リコ」で「リック」?

▼(2023/10/19)「エイドリアンのチラ見」
真相を知っている我々は、コロンボが、ワインの銘柄を当てたり、ワインセラーを見学させてもらっているのを見て、コロンボが公式に殺人事件の捜査に来ているかのように思ってしまいがちだが、本当は違う。エイドリアンのオフィスとワインセラーは、「公式」には、リックの死とは何の関係もない場所。だから、コロンボは、表向き、エイドリアンにワインの手ほどきを受けるために彼を訪問している。それがよく分かるのは、二人で建物の外に出たときに、エイドリアンがコロンボに対して、「この人、まだ帰らないのかな」という感じの「チラ見」をし、それに気づいたコロンボが「あ、もうこんな時間だ。じゃあそろそろ」という場面。他のエピソードで、コロンボがはっきりと事件の捜査のために自宅なり仕事場なりに押しかけてきたときの犯人は、もっとはっきりと「もういいですか?」「もう帰ってください」という態度を取る。しかし、このエピソードのエイドリアンは、普通の訪問客に対する「もう帰ってくれないかな〜」という態度。

▼(2023/10/19)「5000ドルのワイン」
エイドリアンはニューヨークで5000ドルのワインを競り落とすが、今日の今日まで、そもそも、当該のワインを競り落とす目的でニューヨークにまで行ったのだと誤解していた。事実に気づいてしまえば、秘書のカレンさんが「必要でしょうか?」とやんわり反論することからも、あれが、突発的な出来事であることは明らかなのだが、なにしろ、こちらは、5000ドルもするワインを急に思い立って買うわけがないと、勝手に思い込んでいるから、前もって、あのワインが目的でニューヨークに来たのだと決めつけてしまっていたのだ。つまりこうだ。ニューヨークに向かう飛行機の中で、エイドリアンが秘書のカレンさんに対して、弟のリックに5000ドルの小切手を送るよう指示している(「弟はアカプルコに居る」と思っているかのように見せかけるため)が、結局、その5000ドルは、弟の手には渡らず、自分のところに戻ってくることを知っている。なんせ、弟は、彼の殺人計画によって、今まさに死のうとしているのだから。エイドリアンにとって、この「浮いた」5000ドルは、一種の「臨時収入」で、だから、突発的に高額ワインを買ってしまった。しかし、この「ぴったり5000ドルの無駄遣い」が、賢いカレンさんに「真相」を教えてしまったという面もあるに違いない。


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