キシリアを絡めればよく分かるマ・クベ

マ・クベというキャラクターは、直接の「上司」であるキシリアとの関係性で見れば、割合わかりやすくなるのは、分かっている人には分かっている事実。

その前に、多分、これで三度目の「バロムにたしなめられるマ・クベ」について(これで終わりにする)。あの場面は、「優秀」な軍略家であるマ・クベに欠けているものを描いた場面。ソロモン戦でのドズルの負け方(部下たちを戦場から脱出させ、自身は単身ビグ・ザムで特攻をかける)が、オデッサ戦でのマ・クベの負け方(味方が巻き込まれることも構わずヤケクソで核ミサイルを発射し、自分は「こっそり」ザンジバルで戦場から逃げ出す)とは正反対であることをまず描き、念押しで、家族を脱出させるドズルと、その脱出ロケットすら回収しようといないマ・クベを描いてみせている。それは、バロムの言うように、「兵士の気持ち」を分かっているかいないかの違いなのだが、もっと言ってしまえば、戦いの場で自分自身の命を危険に晒した経験があるかないかの違いのこと。つまり、端的に言って、マ・クベはこれまでずっと「安全」なところから、作戦だの指示だのを出してきただけの軍人なのだ。

そこで、大問題になるのが、その直後の、専用モビルスーツ「ギャン」を駆ってのマ・クベの出撃。それまでのマ・クベの描かれ方からして、どう考えても自ら進んでモビルスーツに乗り込み、ガンダムと「一騎打ち」をするはずがないのだ。

その「答え」が「キシリア」。

そうそう。言ったそばからあれだけど、マ・クベはギャン以前に、ガンダムと「一騎打ち」をしている。アッザムで、ガンダムに「喋らせた」あの戦いだ。しかし、あのとき、マ・クベのそばにいたのが誰あろうキシリアだ。キシリアに、「私も一緒に乗ってどんなもんか見てやるから、おまえがやれ」と言われ、マ・クベは、不承不承アッザムの操縦桿を握って、ガンダムと対峙したのだ。しかも、あのとき、アッザムに同乗したキシリアは勿論、マ・クベ自身も、この空飛ぶ巨大モビルアーマー(アッザム)が、たかが一機の連邦のモビルスーツにまさかヤラレはしないだろうと、高をくくっていたのはマチガイない。要するに、まあ、安全だと思っていたのだ。実際、ヒヤッとさせられはしたが、アッザムはやられることもなく、キシリアもマ・クベも戦線を離脱している。

だから、キシリアなのだ。マ・クベがギャンに乗ったのも、キシリアに「お前自身でやってみせよ」的なことを言われたからであって、決して、自分から進んでそうしたのではないのだ。

どうしてこんな事になったのかは、子供にでも分かる簡単な話で、オデッサでの不始末の落とし前をつけろ、ということ。マ・クベがオデッサで犯した「不始末」は全部で3つ。1つ目は、戦いに敗れ、オデッサを連邦に奪還されたこと。2つ目は、南極条約を無視して核ミサイルを発射したこと。3つ目は、南極条約破りまでして発射した核ミサイルで、連邦軍に何の被害も与えられなかったガンダムに核弾頭を切り落とされたからねこと(もしかしたらレビルの首くらいとれたかもしれないのに)。

まんまとオデッサから月に逃げ延びたマ・クベだったけれど、実はもう「居場所」はなかったと考えていい。キシリアにしても、ジオンにとってアホほど大事なオデッサを奪い取られたマ・クベの始末に「困った」はず。で、ソロモンからの救援要請があったのを「幸い」に、マ・クベを救援艦隊に乗せた。うまくソロモンを救えたら、オデッサでの不始末は帳消しになるし、うっかりソロモンで戦死したら、それはそれで構わないというのが、キシリアの思惑。勿論、キシリアと「同類」で尚且キシリアを崇拝しているマ・クベは、キシリアのこの思惑を百も承知。だから、グワジンの艦橋のマ・クベは憂鬱で、上の空で、ギリギリ。だから、脱出ロケットなんか無視しろよ、と、つい本音を口走ったりする

ソロモンは落ちた。マ・クベも死なずに済んだ。しかし、ここでまたキシリアが登場。マ・クベに言ったはず――お前専用のモビルスーツを用意した。性能は連邦のガンダムと互角か、それ以上だ。お前にも男子の面子というものがあるだろう。オデッサでの借りを返せ――的なことを。実際、キシリアは、シャアに対して、ぶっつけ本番で完成度80%のジオングに乗って出撃するよう命令しているし、劇場版では、そんな命令をするのは、エルメスを落とされた帳尻は合わせをしてもらうためだとはっきり言っている。だから、同じようなことは、マ・クベにも当然言っている。

じゃあ、マ・クベが、嫌々、泣きながら、ガンダムと「一騎打ち」をしたのかというと、それは違う。マ・クベはマチガイなくキシリアを崇拝している。キシリアと自分は「同じ価値観」だが、「キシリア様に比べれば私などはまだまだだ」と心底思っている。実際、アッザムに二人で乗ったときにも、それを痛感する場面に遭遇している。輒ち、もはやこれまでとなって、基地を自爆させるくだりだ。基地を自爆させろというキシリアに対して、マ・クベは驚いて、「は、しかし、あそこにはまだ兵士どもがおりますが」と、うっかり異を唱えてしまう。それに対してキシリアが「構いません。なによりも国家機密が優先します!」と答え、結局、マ・クベは「承知いたしいました」と言って、キシリアの指示通りに鉱山基地を爆破する。後に、オデッサでマ・クベが同じようなことをするけれど、〔ドライさ・冷徹さ〕のかくが違う。マ・クベにとってキシリアは「女王様」なのだ。だから、女王様が喜んでくれるなら「なんでも」する。お前自身の手でガンダムを倒せと言われれば、たとえ「付け焼き刃(シャア談)」だろうと、「女王様」のために「喜んで」、「私用に開発していただいた」モビルスーツに乗り込むのだ。

マ・クベが、ギャンに乗り込んだもう一つの理由は、シャアに対する嫉妬。軍人としての手柄云々ではなく、自分マ・クベとキシリアとシャアとの「或る種の三角関係」が、マ・クベのアタマの中で出来上がっていたということ。マ・クベから見れば、「どうも、キシリア様は最近、マ・クベよりもシャアとばかり話している気がする」妄想。シャアがキシリア様に寵愛されているのは、彼奴きゃつがモビルスーツに乗り込んで直接ガンダムとやり合っているからだ。ならば、この私マ・クベも!――という具合。

と、くどくどと書いてきたけれど、マ・クベの死に際のセリフさえ聞けば、誰にでも分かること。人間は死ぬとき、愛する者の名を口にするものだからね。マ・クベにとってそれは、キシリア様と「あの壺(北宋の壺)」と、もしかしたら、ウラガン?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?