『コロンボ』メモ:21-02(第42話)『美食の報酬』MURDER UNDER GLASS

最初から最後まで凝った料理がいろいろと登場し、最後にはコロンボ自身が調理した「肉炒め」を犯人に振る舞う愉しいエピソード。

また、コロンボが初めて登場する場面も凝ってる。犯人が警察に呼ばれて犯行現場のレストランにやって来ると、コロンボの部下が、奥の席で食事中のコロンボのところに行って何かを耳打ちし、二人揃って犯人の方を見たかと思うと、今度はコロンボが部下に耳打ちする。そして、最後にコロンボが犯人に向かってニコヤカに手招きをする。もう完全に『ゴッドファーザー』。「売出し中」の若いマフィアか、相談事のある市民が、マフィアのドンにお目通りを願ってる場面を彷彿とさせる。間違いなく意図的

あと、殺されるヴィットリオさんの吹き替えの人が丹下段平の人なので、断末魔が殆ど「立つんだジョー!/力石くんが死んだ〜!」にしか聞こえないのも愉しい。ヴィットリオさんのところのシェフのアルバートの吹き替えの人は、たぶんバカボンのパパの人なので、やっぱりバカボンのパパがコロンボと話してるように聞こえて、これも愉しい。

『コロンボ』は当然いつも吹き替えで観ているのだが、時々、英語のセリフのニュアンスが伝えきれてない日本語吹き替えになっていることがあって、その「発見」もオモシロイ。今回のエピソードにも「発見」があって、それは、最後の最後の犯人とコロンボのやり取り。輒ち、コロンボが調理した「肉炒め」を口にした犯人が料理を「絶賛」するあそこ。

日本語吹き替えでは「コロンボさん、あんた料理人になるべきだった」となっている犯人のセリフは、英語では「I wish you had been a chef」。ニュアンスとしては「あなたがシェフだったらなあ」ということ。日本語吹き替えだと、単に、「料理人としての才能が抜群だ」と言っているように聞こえるし、だから、コロンボの吹き替えのセリフの「ありがとうございます」も、単に、料理人としての腕前を褒められたことを喜んでいるように聞こえる。しかし、英語の「I wish you had been a chef」には、「あなたは実際には刑事だけど、刑事じゃなくて、シェフだったらよかったのになあ」という「現実を嘆く」ニュアンスがある。つまり、この犯人のセリフには二重の意味があるのだ。

ひとつはもちろん、コロンボの料理の腕前を褒めて「シェフじゃないのが惜しい」という意味。もうひとつは、「もしもコロンボが刑事なんかやってなくて、最初から(犯人が殺人を犯す前から)シェフだったら、自分(犯人)は逮捕されることもなかったのになあ」という意味(ちょうど、前エピソード「死者のメッセージ」の「あなたが姪の事故を捜査してくれていたら…」の逆)。だから、犯人に返すコロンボのセリフも英語では「I understand」(分かります・そうですね・でしょうね)になっている。コロンボが犯人に返した言葉は「ありがとうございます」ではなく「あなたの言いたいことは分かりますよ=私が刑事で残念でしたね」なのだ。

勿論、「料理人になるべきだった」→「ありがとうございます」のやり取りでも、コロンボの刑事としての腕前を犯人が褒め、犯人の「真意」を理解したコロンボがそれに対して礼を述べているという風に理解できるけれど、英語のセリフほどにはわかりやすくはない。単に、犯人はコロンボの料理の腕前を褒め、コロンボはそれに対して礼を述べている、と取られがち。

じゃあ、どうすればよかったのか?

犯人の「I wish you had been a chef」は、だから、そのまんま、「あんたが料理人だったらよかったのになあ」にしたらよかったのだ。その方が、二重の意味がもっと伝わりやすかったはず。で、コロンボのセリフを「ありがとうございます」から、「気持ちはわかりますよ」とか「おっしゃりたいことは分かります」とか「でしょうね」にしたら、もう完璧。犯人の「なるべきだった」とコロンボの「ありがとうございます」が、ぼんやりする原因。


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