自分と「同類」であるマ・クベに甘い岡田斗司夫

岡田斗司夫のガンダム講座を毎回オモシロク観ている。

ソロモン戦の最中、ゼナとミネバを乗せた脱出用ロケット(退避カプセル)を救助する/しないで、部下(?)のバロムに意見されるマ・クベの場面の解説で、岡田斗司夫がまた「サイコパス」ならではなことを言っていたので、こちらもまた、余計なことを考えた。

因みに、岡田斗司夫は、自分と同類サイコパスのマ・クベがお気に入りなので、彼に対する評価も、一般人の我々から見ると「不自然」に高い。別の言い方をすると、彼に対して甘い。微笑ましい。

事の次第は次の通り。

マ・クベが、けっこうな大艦隊を率いてソロモンの救出に向かっているときに、ソロモンから発射された脱出用ロケットが探知される。マ・クベはそれを無視して先を急ごうとして、副官(?)のバロムにたしなめられる。で、しぶしぶ、バロムの言うとおりに脱出用ロケットの回収を命じる。

場面としてはこれだけ。ここで描かれているのは、マ・クベのサイコパスぶりであり、有能さではない。しかし、岡田斗司夫は自身もサイコパス(自称/元妻の指摘)なので、マ・クベのサイコパスぶりに気付けない。マ・クベのやろうとしたことを至極もっともだと思ってしまう。だから、マ・クベとバロムのやり取りに対して、「独自」のフカヨミをしてしまう(お陰で我々はそれを愉しめる)。すなわち、脱出用ロケットの回収によって救援艦隊のソロモン到着が遅れる理由を解説し、マ・クベひとりがそのことを理解しているとして、彼の有能さを指摘するだ。

いやいやいや。バロムもジオン兵Aも、宇宙世紀に生きる宇宙軍のプロの軍人なのだから、マ・クベや富野さんや岡田斗司夫程度の「宇宙航行の知識」がないわけがない。バロムもジオン兵Aも、岡田斗志夫が「マ・クベ(と富野さん)だけが気付いている」と自慢気に解説していた「脱出ロケット回収によって生じる遅れ」のことなど、充分に分かった上で、それでも宇宙の兵士にとって当然のこととして、脱出用ロケットを回収しようとしたのだ。

宇宙戦艦や脱出用ロケットで考えるからピンと来ないだけで、これを海上の軍艦と脱出ボートで考えれば、マ・クベの人でなし(サイコパス)ぶりがよく分かる。マ・クベは、つまり、外洋で漂流している味方のボートを見つけたのに、「見なかったことにして先を急げ」と言ったのだ。サイコパス以外のフツウの人は全員ギョッとするはず。でも、マ・クベ(と岡田斗司夫)にとっては極めて合理的なことなので、ギョッとするほうがオカシイ(というか愚かだ)という判断になる。

マ・クベは、後に、自身でギャンに乗り込んでガンダムと戦うときにも部下たちを囮として使い捨てて「平気」だったし、以前にオデッサで「駆け引き」に失敗したときには、核ミサイルの発射までやらかしている。つまり、人格的にはサイコパスなんだけど、じゃあ、サイコパスの戦争のやり方・取り組み方って何だって言うと、一言、「抽象的」戦争が抽象的なのがサイコパスの戦争。数字や面積や時間をこねくり回して、やれ作戦だ戦術だ戦略だとやるのが戦争だと思っている(まあ、一面、それが戦争なんだけどね)。

マ・クベの抽象的な戦争に対して、バロムやジオン兵A(やドズルや三連星やランバ・ラル)の戦争は、生身の人間たちの生き死に。つまりは、戦争とは何よりもまず、個々の兵士の命のやり取り。この認識の違いが、脱出用ロケットの回収に対する態度の違いになる。

そもそも、富野さんがマ・クベというキャラクターで描こうとしているのは、例えば、独りよがりな作戦を立てまくって大勢の兵隊を無駄死にさせた、辻政信に代表される旧大日本帝国陸軍の「優秀な」参謀たちのような「戦争を抽象的にしか考えない」タイプの人間。まあ、だから、シャアとも似てるんだけど、でもシャアは一応、最前線でモビルスーツに乗って戦ってるから、部下や味方や視聴者からは、うっかり慕われたり・崇められたりしている。

あと、ついでに書くと、「脱出用ロケットを回収していると、救援艦隊のソロモン到着が遅れる」というのも、よく考えると変。なぜ、脱出用ロケットひとつ回収するのに全艦隊が速度を落としたり進行方向を変えたりしなければならないのだろう? 50隻いるのか100隻いるのかは知らないが、そのうちの一隻が回収に向かえば済む話ではないのか? 他の艦は全て、そのままソロモンに向かって進み続ければいいだけではないのか?

まあいいや。仮に、脱出用ロケットを回収したせいで救援艦隊がまるごとソロモンに間に合わなかったとしても(岡田斗司夫の説ではそういうことになっている)、それを知って「本気」で腹を立てる兵士はいないだろう。戦争ってそんなに「単純」でも「簡単」でもない。目の前に助けられる味方がいたなら、そりゃ助けるのが当然だ(仕方ない)、と考える兵士がほとんどのはず。本気になって腹を立てるのは、マ・クベ(三連星に対して本気になって怒っていた)とか、キシリア(またいつか書くけど、マ・クベに専用MSギャンをあてがったのは、自分の手でオデッサの不始末の落とし前をつけろ、ということ)とか、あと、岡田斗司夫くらいのものだろう。



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