スレッガーはミライさんのことを「なんとも思ってない」よ。

岡田斗司夫の「ガンダム講座/第36話:恐怖起動ビグザム(Aパート)」を愉しく視聴した。自分とは、アチコチで解釈が違っていて、オモシロかった。

3つ思った。一つはミライさんとスレッガーのこと。2つ目はスレッガーが急に目を見開いて立ち止まった理由(←これ自分では気に入っている)。3つ目はマ・クベとバロムのこと。

まず1つ目。タイトルにも書いたとおり、スレッガーはミライさんのことを「なんとも思ってない」よ。これは、誰でも一周目で分かることだと思っていたけど、案外そうでもないのかな。スレッガーがミライさんに対して「恋愛感情的なものをいだいている」と受け取る視聴者って割と多いのかな。

スレッガーがミライさんのことを「なんとも思ってない」というのは、「好いていない」という意味では勿論ない。仲間としての好意は持っている。「好きだけど、そういう意味じゃない」と言うときの「なんとも思ってない」。

イタリアの男は、一人でいる女性を見かけたら、声をかけるのが男の義務だと思っているらしいけど、ホワイトベースに来てからのスレッガーの振る舞いはその系。スレッガーは、実は他のエピソードではセイラさんにもちょっかいを出して、アムロに「窘められ」たりしている。といっても、別に本気でセイラさんを「モノにしよう」としているわけではないことは、本編を見れば分かる。困った兄のことで悩んでいるセイラさんの微妙な苦しみのようなものを敏感に察知して、彼なりのやり方で「元気づけて」いるのだ。多分、スレッガーは仲間が余計な「苦しみ」や「面倒」を抱えていることが「好きじゃない」のだ。だから、ミライさんとカムランのスッタモンダにも割り込んで行くし、成り行き次第ではミライさんを引っ叩いて叱りつけたりもする。スレッガーのこの「本気のおせっかい」が、なんだかんだ言ってもまだ18歳の元お嬢様であるミライさんの心のなかで、「この男性ひとは私のことで本気になってくれる!」に翻訳されて、恋の炎が燃え上がる、という仕組み。

いや、ミライさんがスレッガーに入れあげた理由は別にどうでもいいんだ。

重要なのは、「ミライさんの初恋」エピソードのキモが、「ミライさんの片思い」だと気づくこと。スレッガーとの「両思い」だと、このエピソードの味わい深さは半減する、ということに気づかなければならない。というか、普通は気づく。「両思い」だと、「戦場で咲き、儚く散った二人の恋」的なものになる。これはこれでまあ、良いエピソードかも知れないけれど、なんかアレ。

「ミライさんの片思い」だと俄然、味わいが増す。誰でも知っているように、恋だの何だのというのは、片思い状態のときがもっとも荒れ狂っている。つまり、片思い状態のミライさんは、恋の炎めらめらで、スレッガーの前に現れる。一方で、ミライさんのことは「何とも思っていない」スレッガーは、しかし、すぐさまミライさんの「状態」を理解して(だいぶ年上なので)、できるだけミライさんを傷つけないようにして、グイグイ来るミライさんをなだめつつ、ミライさんをふる。両者のこのズレが、味わい深さ。

そうそう、だから、指輪を預けたり、キスをしたりするのは、アレは、「告白した」ミライさんに「ごめんなさい」するスレッガーの精一杯の気遣いなのだ。つまり、ミライさんは、あそこで「ふられている」わけなんだけど、スレッガーが指輪を預けたり、キスしたりするもんだから、ミライさん自身はふられた事に気づいていない。しかも、戦場に戻ったスレッガーはそのまま戦死してしまうので、ミライさんの初恋は永久に宙ぶらりん状態に置かれてしまう。

つまり、「ミライさんの初恋」エピソードは、「お互いに愛し合っていると知った直後に、戦争のせいで死に別れる恋人たちの話」ではなく、「決死の覚悟で告ったら、とても嬉しいありがとう、と言われて、でもそれっきり二度と会えなくなった初恋の人の思い出」なのだ。後年、ミライさんはあれが自分の片思いだったと「気づく」のは間違いない。そのときには、スレッガーが嘗て言った「今の自分の気持ちをあまり本気にしないほうがいい」の意味も分かっているはず(まあ、30も過ぎればほとんどの人間は分かること)。それでまた、スレッガーの「大人の男」としての株が一段上がる。ついでに言えば、これは「アムロとマチルダさん」の「男女入れ替え・少し大人バージョン」。

2つ目。突然、何かに気づいたように立ち止まるスレッガー。岡田斗司夫はスレッガーが自分の気持ち(ミライさんに対する恋心)に気づいたからだと言っていたが、その解釈では、自分にはただただ不協和音。

一番ありそうなのは、単に、ミライさんのセリフのタイミングが少し早すぎただけ、という解釈(カネも時間もない『ガンダム』だもの)。長年これでいいと思っていたが、さっき、夢の中で別の解釈を教えられてぞっとした。それは、スレッガーがあの瞬間に「運命の女神が泣きながら自分を見ていることに気づいた」というもの。「あ、これって、俺が生きて帰ってこれないってことか…」と。これは今で言う「死亡フラグ」をスレッガーが感じ取ったというのではなく、もっと「戦場のジンクス的なもの」から、女の突然の涙の告白場面に自分が巻き込まれていることの「意味」を理解し悟ったのだ(そう考えると、ホワイトベースを再発進したあとのスレッガーの「無表情」もよく分かる)。

何しろ、ミライさんには、マチルダさんの死を「予見」した(「少し、間に合わないかも知れない…」)という実績もある。ミライさんの「虫の知らせ」は「本物」。伊達や酔狂で作者に「ミライ」と名づけられているわけではないのだ(と思う)。改めて考えてみれば、あの忙しい最中にミライさんがブリッジを離れてわざわざスレッガーに会いにいくというのは、相当に異常。ブライト同様、多くの視聴者は、「恋の炎に衝き動かされて居ても立っても居られなくなったのだね」と「暢気」に考えていたが、実はそうじゃない。ミライさんは、スレッガーの死を「感じ取って」、何が何でもこのタイミングで告白しなければ、もう永遠にその機会は失われると「思った」のだ。だからこその、あの大胆な行動。あるいは、ミライさん自身も、自分の行動は単に「燃え上がる恋心に衝き動かされただけ」であって、まさか、スレッガーの死の「予知」のせいでこんなことをしているとは思っていなかったかもしれない。いずれにせよ、重要なのは、ミライさんの「異常な告白」に遭遇して、最初「やれやれ、恋する女か、また、惚れさせちまったかな」くらいに軽く考えていたスレッガーは、ミライさんとすれ違った直後に、「あ! 俺、今、運命の女神(死の女神)の訪問を受けたんだ」と気づいたからこそ、あの目であり、あの表情なのだ。

3つ目は、マ・クベとバロムの対立。仮に、岡田斗司夫の言う通り、艦隊が加速の真っ最中で、カプセルを回収するとなると、方向を変えたり、減速したりして、進軍に大幅な遅れが生じる状況だとしても、マ・クベたちは大艦隊。脱出カプセル一つを回収するために、その大艦隊全体が速度を落としたり方向転換したりする必要は全くないはず。ムサイかなにか一隻をその任に当たらせればいいだけのこと。カプセル一つ回収したところで、「実害」は殆ど無いのだ。にもかかわらず、それすらやらないマ・クベの「サイコパス的実利主義者ぶり」を、あの場面は描いているのだ。この直後にソロモンから味方の兵隊を脱出させるドズルとの対照と、次回以降でのギャンでの「戦いぶり」への伏線を描いているのだ。マ・クベって、ああ、そういう人なのね、と。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?