マ・クベ問題:あの壺とキシリア様

岡田斗司夫ゼミ(限定)を毎週愉しく視聴しているが、今回は、木曜日のショートゼミの方を観ていて、「いや、ちょっと待て」と思ったので。

マ・クベがキシリアを崇拝している理由を教えてほしいという視聴者(?)からの質問(?)に、岡田斗司夫が答えて、マ・クベはキシリアを崇拝しているのではなくて、ジオンの中で伸し上がっていくのに、キシリアにくっついているのが一番だと判断したからだ、とか、なんとかカントカ…

斗司夫先生、相変わらず、サイコパスだなあ。

マ・クベといえば、何はなくとも、「あれはいいものだ!」の「断末魔」。マ・クベは知らなくても、「マ・クベのいいもの」は、日本人の3人に1人は知っていると言われるくらい有名な、その、マ・クベの「断末魔」を、今ここに正確に書き起こせば、「おお、ウラガン、あの壺をキシリア様に届けてくれよ。あれはいいものだ!」となる。

因みに、「ウラガン」とはマ・クベの側近的な部下。「キシリア様」とはマ・クベの上司で、ザビ家の長女であるキシリア少将のこと。

問題は、マ・クベがこのセリフを発したのが、乗機のギャンがガンダムのビームサーベルに切り裂かれて爆発する直前だったこと。当然、マ・クベもそのまま爆死するしかない。つまり、だから「断末魔」。しかも、呼びかけているウラガンに対して、実際に無線などで通信しているわけでもない。なぜなら、あの時、コロニーの外にいたホワイトベースは、コロニー内のアムロ(ガンダム)と通信ができない状態だったのだから、同じようにコロニーの中と外に別れていたマ・クベ(ギャン)とウラガン(チベ)も通信はできたはずがないからだ。つまり、マ・クベの「あれはいいものだ!」は、言ったところで誰にも届かない、マ・クベの「心の叫び」。

次の瞬間に死んでしまうと悟った男の「心の叫び」に、昇進のためにへつらってきただけの女の名前など出てくるわけがないことは、サイコパスではない我々には分かりすぎるくらい分かる当然のこと。 崇拝していたり敬愛しているからこそ、最後の最後の瞬間に、ああ、本当は自分であの壺を届けて、あのひとの喜ぶ顔が見たかったなあ、と思うわけだよ。第一、昇進目的でキシリアにおもねってきたのなら、自分はもう死んじゃうんだから、今更、壺を渡す必要なんかない。

と、ここまで書いてきて、ちゃぶ台返しみたいなことも、言えば、言える。というのは、マ・クベは、あの壺(「いいもの」)がものすごく大事だったので、自分が死んだあと、あれが粗末に扱われることがとても心配だった。ジオンの最高権力者の一人であるキシリアに渡しておけば、彼女はその価値を理解してくれるはずだし、安全な場所に保管もしてくれるはず、と思ったのかもしれない。この場合は、必ずしも、マ・クベがキシリアを崇拝してなくてもいいことになる。死の間際にマ・クベの心に浮かんだ像は、キシリアの姿ではなく、「あの壺」だという点も、この考え方を支持しているように見える。

でも、実際は、そうじゃない。もし、あの壺のことが気がかりなら、マ・クベの断末魔のセリフは、「ウラガン、あの壺のことを頼んだぞ、あれはいいものだ!」で全然構わないからだ。キシリアの余地はない。

自らギャンに乗り込んだのも、そのずっと前に、アッザムの操縦桿を握ったのも、単に「直属の上司」に対して「部下として」いいところを見せようとしたのではなく、「崇拝している女性」に対して「男として」いいところを見せたかったからだ。でなければ、マ・クベのような「冷徹」で「計算高い」男が、あんな危険を犯すわけがない。例えて言えば、他のことについては非常に理性的で、合理的で、「損益計算」に長けたアタマのイイ人達の多くが、自分で子供を産んで育てるということを、ついうっかりやってしまう、アレと同じことが、マ・クベのアッザム操縦やギャンでの出陣にはある。要するに、生き物としての「本能」に背中を蹴飛ばされて、純粋な知性活動からすれば「バカなこと」に足を踏み入れてしまっているのだ。

ついでに書けば、壺を託されたウラガンは、あの直後、チベもろともホワイトベース(セイラさんのGファイターだったかな?)に葬り去られているので、たぶん、きっと、あの壺も、キシリアのもとに届くことなく、宇宙の塵になったのだろう。

そもそも、マ・クベはなんであの壺をあの時、手元に持っていたのだろう? 確か、ソロモン救援艦隊の司令官としてキシリア直々にグラナダから送り出され、ソロモンの辺りに残って、ソロモン隊の生き残りの救出活動などをやって、そのまま、テキサスコロニーでガンダムに挑んだわけだから。まあ、ずっと「持ち歩いて」いたんだろうね。ものすごくお気に入りで。それで、ソロモンが陥落して、戦争の雲行きが怪しくなってきたときに、或る種の「終活」的な気分になって、「この壺、すごく気に入ってるけど、これからどうなるか分からないから、思い切ってキシリア様に贈呈しよう」と決断したのかもしれない。いや、したのだ。

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