梨『かわいそ笑』を読んだ感想 ネタバレ有

 ホラー作品です。ド直球のホラー画像グロ画像ドーン!は無いです。死体描写、虫描写はちょっとリアルでグロいので注意。この著者の作品に関してはほかの読者の感想や解釈も追いながら楽しむのがいいと思っているので、他人の感想を読んでなるほどなと思ったことも書いたりしていきます。この著者の作品はたくさん読んできてるというのと「興味を持って中身をチラ見した時点であなたも当事者だよお〜」系のホラーが最近流行っているのもあって、オチとカバー裏の仕掛けを見ても、お前も関係者だからな?気づいていないでは済まされないよ?という念押しを本文でしつこくされても、まぁそうでしょうねぇという感じではありました。私は鈍感なのであまりこたえてませんが、本当に怖がりで繊細で暗示にかかりやすい人は読まないほうがいいかもしれない。
 とても面白かったので、ホラー愛好者には一読をおすすめしたいです。好き嫌いの分かれる個性豊かな書きぶりではありますので、Amazonレビューなど参考にしてください(私はハマったので星5のレビュー文を投稿してしまった)。著者がTwitterでリンクを公開しているweb上の作品群は無料で読めるので、そちらも。梨.psdで検索したらアカウントがヒットします。

第一話 これは横次鈴という人が体験した怪談です.docx

 第四話とリンクしているようです。第一話~第五話で起きた出来事の時系列は必ずしも書かれている順番通りではないのかな?前後していたり同時進行だったりするのかも。名前を明らかにされていない語り手が、大学生ぐらいの頃ネット同人活動で交流のあった同年代の「りん」さんについて奇妙な思い出を語ります。どちらも性別は女性っぽい。りんさんの大きな特徴は中途半端な風水・スピリチュアル趣味。体系的に研究しているわけではなく、半端な知識を自己流にアレンジしたおまじないなどしていたようです。ある時語り手はりんさんの部屋に鍋パーティをしに行きますが、彼女の妙な言動(鬼門は右上から左下で悪いものが溜まるから或る人の顔と名前を斜め方向に引き伸ばして印刷したものを配置して魔除けにする云々)と寝室から聞こえる謎の物音を不気味に思います。語り手が遠慮がちに指摘してもりんさんが普通のそぶりでとんちんかんなことを言うのがいよいよ不気味で、その印刷された人は誰なのかとか寝室に何かいるのか等はっきり問い詰められず、そそくさと帰宅します。時が経つにつれ生活や趣味の変化で同人活動や交流もご無沙汰となり、放置していた個人サイトに久々にアクセスしてみたところりんさんと思われる人からの謎の一言メッセージが来ていました。語り手はあああの子だなと思っただけで、少ししてからサイトごと削除します。
……という体験談を、筆者(梨)が40代の女性から聴いていたのが今までの記述であることが明らかにされます。更なる後日談として、最近語り手の旧友から「変なビラが近所にまかれている」と写真が送られてきて、そのビラというのがあの「りん」さんの顔写真と本名を斜めに引き伸ばしたものだったということが語られます。語り手が昔りんさんの部屋で見た写真は誰か男性の顔写真と名前だったので、いまになって何故りんさんの顔写真と名前が加工されたビラがまかれているのかよく分からない、でも彼女が趣味程度の知識で儀式っぽいことをやった時にたまたまよく分からないものと繋がってしまったことも考えられますね、学者さんが研究しているような由緒正しい儀式じゃなくたって、ていうかそういう古来の儀式ももともとは誰かの思いつきレベルのものだったとかありそうですし。とやたら饒舌に喋る語り手の様子がいつしか異様なものになっていることに筆者(梨)は気づきます。しばらくしてから双方は挨拶をし、インタビューが行われていた喫茶店を後にします。
 このくだりの後、mixiトピック「同人で起こった怖い体験を語ろう」という掲示板へのある投稿が挿入されます。投稿者によると、仲間を集めて漫画や小説を集めたアンソロジー雑誌を作ることになった時やりとりをしたうちの一人がどうも変で、自分視点の恐怖体験を小説にしたような不気味な原稿(同人してて仲良くなった人の家に行ったら明らかにその人がおかしくなっていくという内容)とともに自分の文だけは縦書きにして欲しいと執拗に要求してきた、しかもその言い方が実際は「縦書き」ではなく「右上から左下に」という表現で何度も頑なに繰り返していたのが異様だった、というのです。

【第一話特記】
 この話に出てくる「りん」さんが横次鈴なのかな?「りん」はハンドルネームとして名乗っていたそうなので本名の鈴の読みは「すず」かもしれない。筆者のこれまでの作品の傾向として登場人物の名前にはなんらかの意味を込めていることが多いので、ためしに「横次」と検索したところ全く関係のない「横浜」ばかりヒットし横次という語句についての情報は見当たらず、この時点では特別な由来のある苗字でも固有の意味がある語句だというわけでもなさそうだなと判断しました。
 第一話のタイトルはなんだか引っかかる。怪談は体験者が怖い目に遭ったことを自分視点で語るものだと思いますが、りんさんが横次鈴だとすると「横次鈴が体験した怪談です」というタイトルと噛み合わなくなると思うのです。あれ?語り手が怖い思いをしたんじゃないの?自宅アパートで不気味な振る舞いをして語り手を怖がらせたのが横次鈴だよね……と混乱しましたが、りんさん視点だと何か寝室で動き回る変な存在を持て余していて、自己流の変な札のまじないをおこなうほど困らされていたようなのでやっぱりりんさんは横次鈴と考えていいのか?それとも、りんさんの本名は「◯◯りん」で、語り手の名前が横次鈴なのか?そもそもこのインタビューをdocxファイルで保存してタイトルつけたのは誰?著者(梨)?それとも著者(梨)がデータを入手した時点ですでにこのタイトルになっていた?
 インタビューの語り手自身がやばくね?というのも気になります。筆者の作品では怖い体験談を語る語り手自身がなんかやばそうだぞという演出がよくあるので、これもそうかもしれない。変な出来事に触れておかしくなったのか、最初からおかしくてなんらかの意図があって敢えてフェイクを交えて筆者に体験談を語っているのかは不明。mixiの投稿者に妙な要求をして気味悪がられた人がまさにこの語り手ではないかという気もします。となると、りんさんの右上から左下発言を変だと言っていた語り手が右上から左下という表現に固執していたことになりどうも不穏。鍋パが行われたのは12月下旬で、mixiの投稿は8月24日となっている。二人が鍋パをした翌年に同人誌をめぐる変なやりとりが起きたのか?いずれも西暦何年の出来事かは明記されていないので、各出来事の前後関係は不明。ていうか前半の語り手が怪しすぎる。体験談として筆者に語った内容が本当の出来事ではない可能性すらあるが、いったん保留して第二話へすすむ。

第二話 behead-コピー-

 ネット上に伝わる出典不明の不気味なとある画像についての話。私は昔からネット閲覧は好きだったけれども第一話にあるような同人創作文化には疎く、ここで触れられる洒落怖や怖い画像スレのほうが馴染みがあります。まず、中年男性が自身のブログで「むかし怖い画像スレで制服姿の女性の首から下を写した写真がこの画像の詳細知りませんかっていうコメントと一緒に何度も貼られてて気になってた。本来は首から上も写ってた写真を編集したものらしいという噂を聞いて元の写真を見てみたいけど、なんか不気味だよね」と語る文章に続いて件の画像と思われる粗い写真とQRコードが載せられています。怖い画像だったら……とビクビクしながらQRコードを読み込んだところ、アングラな匿名掲示板の抜粋だったのでひと安心。2015年のログで、2000年代にはすでに出回っていた件の画像についてアレ何だったんだろうね?と複数名で語っています。「実は死体画像らしい」「初出はどっかのマイナーな掲示板で、壁に虫が~とか動けないとか吐きそうとかラリッた感じの文章の直後に投稿されたらしい」「一時期それの詳細をしつこく知りたがってる奴らが何人か書き込みしてた。そっちも電波入ってる感じの文体で気持ち悪かった」「何年も前の話だしさすがにもう探されてないかな」と投稿が続き、最後に何者かが「今も探していますよ。」と投稿して終わっています。
 続いて、『ヤバすぎる実話怪談 暗黒の章 第六話 欠けた心霊写真』という作中作が紹介されます。大学生の洋子さんが思いがけなくもオカルト話で意気投合した友人から見せてもらった奇妙な心霊写真(=首から下が写った制服姿の女の子の写真)の話を、インタビュアー(著者の梨氏とは別の人物?)に説明しているようです。まず、この話に出てくる洋子さんの友人が色々とおかしい。洋子さんとは別の友人にばったり会った時「せっかくだから」とケータイで撮った写真があとで心霊写真であることに気づいたという話だが、そんな再会の場面で、壁にもたれている相手を背景もわからないぐらい画面いっぱいにおさまるように接写するだろうか。本当はもっと広い範囲の画角で撮ったけど変なものが写り込んだ箇所はトリミングしたので要はこれは心霊写真の一部だという説明も、トリミングする前の箇所にはなにが写っていたのかという問いに対する「顔が違っていた」という返答もおかしい。別人の顔だったってこと?人間離れした化け物のような形相になってたってこと??いくらオカルト好きとはいえそんな写真を保存しておく洋子さんの友人も、写真のデータを欲しいと頼んだ洋子さんもまぁまぁおかしい。メールでデータを送信するのは抵抗があるから欲しいならあなたのケータイのカメラで直接この画面を撮ってくれる?という要望も、それに素直に従う洋子さんもおかしい。ありがとうと言ってとても嬉しそうな様子だったという友人の言葉と態度は、果たして純粋に面倒な要望に沿ってくれたことへのお礼だったのか同好の士を見出したことへの喜びだったのか……。それを境に部屋でふとした瞬間に視線を感じるようになった、不気味に思って機種変のタイミングで勢いで画像を消去してしまったけどちょっと後悔してる、またあの写真を見せてほしいけどその子急に休学しちゃって音信不通なんですよねー、と洋子さんは話を結ぶのだが、二人とも色々おかしいと思う。心霊写真を見せてきた友人がヤバいか、洋子さんと友人の両方がヤバいか、洋子さんがヤバくて尚且つ作り話をしているかのどれかだと思いました。

20210908.wav
 アングラ掲示板を見ていて怪奇現象に見舞われた男性のインタビュー書き起こし。男性やインタビュアーの素性は明かされていません。薬物を過剰摂取した体験を実況する人と、それにコメントする人たちが集まるスレッドに「すず」というハンドルネームの女性が実況書き込みをしていて、どうもバッドトリップ(快感ではなく体調不良や幻覚など精神不安に見舞われた状態)しているような文章のあと何の脈絡も無く死体画像を投下したっきり書き込みが途絶え、男性含め他のユーザー達は戸惑います。男性はグロ画像スレッドをチェックする習慣があり、有名な画像はだいたい知っているのですが「すず」が投稿した死体画像(日本人らしき制服姿の女性が首をつった腐乱死体)には見覚えが無く出どころが気になったので、グロ画像スレッドに投稿して詳細を知っている人が居ないか訊こうと考え、その画像をパソコンに保存します。保存した画像を見ていて撮影日時が数日前と新しいものであったことになんとなく不審感をおぼえたのを皮切りに、うつむき加減であらぬ方を見ていたはずの死体画像と目が合う、自身は薬など飲まないのにバッドトリップ時に見るような虫の幻覚や体調不良に襲われる、浴室に逃げ込むとあの女性の死体がいて「やりなおせなくなっちゃった」と話しかけられる(すぐに消失)といった怪奇現象に襲われます。なんとか回復した男性がさすがに例の画像を削除したうえでさっきのスレッドを再訪したところ「すず」が戻っていて、バッドトリップで混乱してめちゃくちゃな文章を投稿してしまったこと、今は回復したこと、死体画像はネットで拾ったものを誤ってアップロードしたので既に削除したことを説明しつつ詫びる投稿をしてみんな納得する流れになったものの、自分以外にも薬を服用していないのになんだか体調が悪いと訴えるユーザーが多かったのが気になったといいます。決定的な出来事は、その後寝ようとした男性が見た幻覚(?)でしょう。ロングヘアで部屋着っぽいラフな服装の女の人が部屋に入ってきて、当時ひとり暮らしであった男性のものとは明らかに違うパソコンを操作して例の死体画像を開き、首から上の部分を見えないようにトリミングして閉じ、浴室のほうに向かって「ごめんごめん、カメラに映しちゃったからいけなかったんだよね」と半笑いで話しかけるそぶりをして、男性のほうを見ることなく浴室のほうに去って行く。かたまってその様子を見守ることしかできずにいた男性は必死に布団をかぶって目を瞑るうちに寝てしまい、翌朝恐る恐る浴室などをチェックしても誰かがいた痕跡などなかったといいます。

 男性が話の締めくくりで話す


・もしグロ画像スレッドで「すず」さんが顔部分をトリミングしたあの画像を投稿していたらと想像して気持ち悪くなったのでその日を境にあの掲示板に行くのはやめた

・あれから何年も経って住む場所をかえて病院に行ったりしているのにあの死体がたまに家に出てくるしほかにも変なことがいろいろあった

・いま思うと「すず」さんもそれに耐えられなくて、自分がみるおぞましいものをバッドトリップの幻覚で上書きしようとしていたのかも

・もしあの画像を見つけたら僕にも教えてくださいね

という内容が怖かったです。特に、あれだけ怖い思いをさせられて持っているのがいやになったから画像を削除したはずで今も生活に障りがでているのに、またあの画像を求めているのがよくないものに魅入られてしまっている感があります。もっと考えると、あの時同じように掲示板を見ていた人達のなかで彼と同じような体験をしている人が複数いてもおかしくないなというのが、なんか嫌な予感がします。

【第二話特記】

この第二話から「ん!?」と思って文を読み進めながら表紙を何度も見ました。表紙の制服姿の女の子はケータイの画面を開いていて、生きているように見えます。作中で描写される制服姿の女の子の写真は首から上をトリミングされていたり、顔まで写った死体だったりします。「制服姿の女の子」がキーパーソン(人かどうかはわからないけど)っぽいのは確かですが、登場してくる画像の様子が話によって微妙に違っているのは何か意味があるのでしょうか。何かヒントが……と思い表紙の女の子が見ているケータイ画面を凝視したけど、よくわからなかった。
 前半に出てくる洋子っていう名前は「洋子の話は信じるな」からきているんじゃない?という他の方の感想を見て、思いつかなかったなあと感心しました。昔オカルト掲示板で取り沙汰された有名な行方不明事件で、TV取材を受けている行方不明者の父の後ろに謎のメモが映り込んでいるとして色んな憶測が飛び交っていたのです。ということは、洋子さんの体験談はやはり嘘が混じっていると考えるべきなのでしょうか。
 私はずっとオカルト掲示板の男性が認知していた「すず」というユーザーが横次鈴なのかと思っていましたが、これまた他の読者の「本名をネット掲示板で名乗るかな?正体は洋子で、何らかの関わりがある横次鈴の名前を拝借したんじゃない?」という考察を読んでおお~と思いました。確かに死体のほうが鈴ちゃんで、書き込みしたのが鈴ちゃんの関係者って考えたほうがつじつまがあうかも?オカルト掲示板男性が幻覚で見たという浴室の死体とパソコンで画像編集する女の人が実際に起きたことだったらという仮定のもとで、だけど。
 第二話タイトルのbehead-コピー-ですが、beheadは首を刎ねるという意味のほかに河川などの源流を付け替えるという意味もあるらしく気になりました。コピー、とつけくわえた意味も気になります。怪異が色んな人に伝播していくうちにおおもとの原因というかキッカケ自体が変容していくことを示唆しているのではないかと思ったのです。


第三話 受信メール(15)

 匿名の女性が、昔こういう不気味なメールを続けて受け取ったのです、一度は気持ち悪くなって消してしまったのですが今は訳あって調査を再開しているので、物書きであるあなたを通じて情報提供を呼びかけて欲しいのです、という経緯を説明するメッセージを恐らく対面ではなくEメールで分割して著者(梨)に送っていると思われます。
 洗い晒しとネット検索してみると確かに死者儀礼のひとつで流れ灌頂(かんじょう)・水かけ供養とも呼ばれる儀式で、死者の魂を救済し次の生まれ変わりへと促す意味合いがあると書いてありました。まず気になるのは、怪文書メールの主は「あらいさらし」と呼んでいること、本来の洗い晒しを自己流にアレンジしているように見えること(むしろ名前を書いた布だか紙だかを汚して消すまいとしているように見える)、供養したいはずの男性にむしろ悪意を持っていること、なぜか廃トイレの死体のそばで儀式を行なっていることです。ここにも制服姿の女の子の死体が出てきますが、第二話までに登場した画像との違いは

・腐乱死体だが首から上は見切れている
・制服が学校指定のものではなく安っぽいコスプレ用途の物を思わせる
・制服のお腹あたりの布地が四角く切り取られている

の3点でしょう(ここでも思わず表紙の女の子を何度かガン見した……)。
 私が想像したのは、皆んなに好かれるタイプの或る男性がいて、制服の女の子が男性に心惹かれてアプローチしていたけれども病んでる系の思い込みが強いタイプゆえいろいろあった末に当てつけ自殺をして、制服の女の子に歪んだ執着心を持っていた儀式者が男性を呪おうとしているのではないかということです。三角関係みたいな感じで。制服女子に対しては「あんな男に執着した挙句に死んじゃって、ほんと馬鹿な奴」という怒り嘲り、男性に対しては「制服女子から手を引けって忠告してやったのにこっちを変人扱いして冷たくあしらいやがった」という恨みがあったのかなぁと……。あらいさらしメールにある恨み言を読んだうえでの印象です。あらいさらしをしている謎の人物も不気味ですが、15通目の著者(梨)へのメールを読むと、この匿名女性もなんかヤバい人っぽいなと思われます。ここで鈴ちゃんの名前を出すということは、横次鈴の関係者なのでしょうか。今まで語られた変な儀式を踏襲するように、「よこつぎすず」と斜めに書いた稚拙な画像を添付したのもこの匿名女性っぽいし。第一話、第二話に出てくる登場人物のいずれかと同一人物である可能性もあります。

第四話 ##name1##

 入れ子構造になっていて、いま読んでいる文章は誰がどの立場で公開しているのか?というところで混乱しました。

まえがき、こっぱずかしい青春小説、mixiトピックの怖い体験談抜粋、微電波コピペ保管庫ログNo. 52 No.112、あとがき 

は、同一人物がなんらかの意図をもってあちこちから拾ってきたものを一つの作品としてまとめて紹介しているようですね。なんらかの意図というのは、読者に対して「あの子のことをずっと忘れないでいて欲しい」「あの子が可哀そうな目に遭う存在であることを意識に焼き付けてほしい」ということに思えました。素直に話の流れに乗ってあの子=横次鈴とした場合、こっぱずかしい青春小説を連載していたのは横次鈴だけれども何らかの事情で小説を書いていられるような状況ではなくなった(死亡、重篤な病気やトラブル等)、小説の内容から見るにもともと周囲から浮いていて家族との関係も冷えていて不満を抱える夢想家だったという印象です。そんなつもりじゃないのに次々と男の子から言い寄られる描写は完全に願望でしょう。一番気になるのは微電波コピペ保管庫ログNo. 112の投稿者の正体と、この投稿者と複数エピソードのまとめ主が同一人物なのかどうかという点ですが、なんとも判断できません。でも、こっぱずかしい青春小説とmixiトピックの投稿者以外の文章はぜんぶ同じイカレポンチが書いたんじゃないかという気がしています。微電波コピペ保管庫ログNo. 112の内容がなまなましくて夢だったのか現実に起きたことなのか分からないな~と感じましたが、実際に公衆トイレで人が死んでいたら警察沙汰になって鈴ちゃんと仲が良かったらしい投稿者も激しく追及されるはずなので、やっぱり夢なのかなあ。後述の第五話で明晰夢や幽体離脱の方法が出てきて、現実と幻覚がリンクする的な記述もあるので「夢の出来事だけど現実にも影響をあたえている」という解釈でいいのかなと思いました。
 投稿者は鈴ちゃんと親しかったようですが、ふつうの友達としてというよりはオカルトに傾倒している鈴ちゃんを利用しているみたいです。もっと心霊体験をさせたかったのに死ぬなんてとか、再度死に直してもらおうとか、死体の写真を撮って掲示板用のデータはこれでよしとか、不穏なことを言ってますし。
 次の『ヤバすぎる実話怪談 奈落の章 第二十三話 続・欠けた心霊写真』は、第二話に出てきた『ヤバすぎる実話怪談 暗黒の章 第六話 欠けた心霊写真』の後日譚のようですが、語り手の洋子さんの口調が以前とは違うようだという描写が意味ありげに複数回なされています。かつて首から下の心霊写真を見せてきた旧友はあの写真みたいに女子用学生服を着て、「同じ格好をしていれば全部あいつのほうにいくから」「あの子は途中で死んだけどまだ心の中で生きているから終わらせられない」「死んでいても生きているから続けられる」などと、背後にうごめく学生服姿の異形の声を必死にかき消そうとしてか大声を出しています。この学生服を着た化け物って鈴ちゃんなんですかねやっぱり。
 私の想像だと、オカルトかぶれの横次鈴が自己流の呪いを色々やった結果じぶんに災いが色々跳ね返ってきて(呪い行為が常にじぶんに跳ね返ってくる危険性があることは多くのオカルト掲示板で語られています)、死んでも死にきれず異形として存在し続けることになりそれが周辺の他人の好奇心や悪意を巻き込んで伝播し続けているといったところなのかなぁ。ちなみに、第四話のタイトルはweb上で小説を公開していた人には馴染みのあるコマンドらしい。読者が主人公の名前を好きに設定できるみたいな、たぶんそんな感じ。横次鈴ちゃんは色んな読者に怪談を体験させられてるってことですね。
【補足】素人のweb小説を垣間見る恥ずかしさをもっと味わいたければ、インターネットで「くぅ~疲れました コピペ」で検索してみてください。あと、電波という言葉はおかしい人の意味不明な文章を指す俗語としてネット上でよく使われていたのですが今はどうかわかりません。私が知っている有名な電波系文章は「消えたとて浮かぶもの」です。ネット検索したらすぐヒットします。参考までに。


第五話 0×00000109

 このタイトルの意味は何なんだろうなあ。言及してる人がいなくて分からない。第五話がこれまでのつじつま合わせ、解説的な位置づけだとは思いますが依然としてよく分からない部分が多いし、スッキリする謎解きのようなものはありません。あーもしかして……こういうこと?と各自がふんわり想像してイヤな気持ちになるためのパートです。


 とりあえず全体を通して私の解釈をまとめると

・横次鈴という存在が呪いの受け皿にさせられているが、彼女が実在の人物か否かはもはやどうでもよくなっている。

・死体写真の顔が違う、怪談の語り手が以前と様子や話し方や雰囲気がまるで別人のようにちがうという描写から、呪い手も呪われる対象も「もう誰でもいい」段階に至っている。

・一連の出来事の発端が何なのかも今となっては大した問題ではない。いまや関係者全員が呪い手、呪われ相手、媒介者になり得るのだという事実だけがある。

・悪意(=他者を呪う原動力)は必ずしも大きなトラブルの加害被害関係や愛憎のもつれだけに存在するのではなく、アイツの言動が気に食わないから不利益を被りそうなのを黙っていようとか、誰かを犠牲にしてでもとりあえず自分は助かりたいとか、気軽に不躾な好奇心を向けるとか、そういう些細なところに存在するありふれたものである。

・筆者(梨)に話を提供した関係者たちも筆者(梨)も、読者を呪いに巻き込むと同時に巻き込まれている。

・というわけで読んだあなたもめでたく関係者です笑

というフワッとしたものになります。

【余談】
・最初のQRコードを読み取ると例のあの子のTwitter鍵アカウントにリプライを送る画面が出てきますが、この仕掛けに乗っかったほうが作品的にいいんだろうなと思いつつ、身に染みついた「知らない相手に不用意なリプライを送るのは失礼かつタブー。ひっそりと鍵アカにしている相手なら尚更」という規範意識が働いて即キャンセルボタンを押しました(だから私はセーフだよと言い張るつもりは無いが、Twitter作法が身についたなぁとしみじみしてしまった)

・気に入りすぎて紙の本もKindleも両方買いました

・そういえば結局「横次鈴」の横次ってなんなのよと思っていたら、他の人の「よこつぎすず→洋子つぎ鈴→洋子の次は鈴ってことじゃない?」という感想を見ておおーっと思った。……つまりどういうこと?(※2022.11.02追記 別の人が、あの有名なホラー小説『リング』の原作者である鈴木光司の名前を分解したり同じ読みの別字をあてがったりして作ったのが横次鈴という名前なのではないか?呪いや恐怖が人から人へどんどん伝播するというモチーフも共通しているし。との考えを述べていてもうそれが正解じゃん!と思いました。この辺は自分ではまったく何も思いつかなかったので完全に人頼み。こういう謎解きができる人はすごい)

終わり

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