『3653日目』に寄せて その3

津波について簡単に述べます。その前にお断りしておきますが、上大岡トメ・上大岡アネ『生き延びるための地震学入門』(2011、幻冬舎)をかなり参考にしています。

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本の紹介文はこのようになっています。

「水、食料、防災や耐震も重要。でもさらに必要なのもの、それは正しい「知識」です。」
ご存知、上大岡トメと地震学准教授のアネ(姉)が教える初心者のための地震学。
日本に住んでいる限り、地震は必ずやってくる。これは、避けられない。では、サバイバルするためには何が必要なのか?水、食料、防災や耐震は、もちろん重要。でも、もっともっと必要なのもの、それは正しい「知識」です。「知識」はなにより大きな備えになる!!ベストセラー「キッパリ!」の著者上大岡トメが、実姉の上大岡アネ(京都大学大学院理学研究科准教授・地震学)に聞きたいことを聞きまくり、とことんわかりやすくマンガ化、図解しました。「地震はどうして起こる?」というもっとも基本的な疑問から、「いったいこれからどうなっていくのか?」という考察まで、生き延びるための知識(=地震学)を一所懸命まとめました。もう、わからないで終わらせないための、初歩から学ぶ地震学。※印税は、「あしなが育英会・東日本地震・津波遺児募金」に寄付されます。

実はアネは友達なので多少のひいき目もありますが、数多くの啓蒙書からこれを選びます。でも、わかりやすくてお薦めしたい本です。ちなみにアネは今は教授になっています。(上大岡さんは筆名ですので、上大岡研を検索してもヒットしません)

それと慶応大学の大木聖子さんのwebsite「レイ先生と大地君の謎解き地震学http://raytheory.jp/nazotoki/」も参考にさせていただいています。

さて、本題。

津波は多くは内陸型地震ではなく海域の浅いところで起きた海溝型地震で引き起こされる危険性があります。また、地震だけでなくゆっくりとした地殻変動や海底地すべりでも津波が発生します。

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http://raytheory.jp/nazotoki/tsunami/mechanism/ より

具体的には上の図で説明すると、海溝型地震では、海と陸のプレートの境界そのものを断層面とします(上)。陸のプレートの海溝近くでは陸のプレートの海底面は徐々にへこんでいきます(中)。板をたわめると真ん中が盛り上がります。そして地震が発生すると、固着がはがれて陸のプレートが一気にはね戻ります。すると、地震発生まで沈降だったところは一気に隆起して、隆起だったところは沈下します。隆起と沈降は、逆の場所で観測されます(下)。こういった海底面や地表の動きを「地殻変動」と言います。
 海水は海底面や地殻変動と同じように一気に移動します。この水の塊の上下方向の移動が津波のきっかけとなります。一部だけ沈降したり隆起したりした海水面は平らに戻ろうとして振動します。これがいろいろな方向に伝わっていく現象が津波というわけです。 この図では海溝より左側にある地域には引き波で、右側にある地域には押し波で、津波が到達します。

図8

海水は海底面や地殻変動と同じように一気に移動します。この水の塊の上下方向の移動が津波のきっかけとなります。

波浪と津波の違いについて述べます。波浪は海域で吹いている風によって生じる波浪は海面付近の現象で、波長は数m~数百m程度になります。一方で、津波は海底の地殻変動によって生じます。波長は数㎞から数百㎞と非常に長く、これは海底から海面までのすべての海水が巨大な水の塊となって沿岸に押し寄せます。上大岡トメ・アネの本では、子供用のビニールプールがあった時、水面に風を当ててたてる波が波浪で、プールの底を持ち上げてたてる波が津波だと説明していました。


図9

津波は、海が深いほど速く伝わる性質があり、沖合いではジェット機に匹敵する速さで伝わります。逆に、水深が浅くなるほど速度が遅くなるため、津波が陸地に近づくにつれ後から来る波が前の津波に追いつき、波高が高くなります。水深が浅いところで遅くなるといっても、時速36km、オリンピックの短距離走選手並みの速さで陸上に押し寄せるので、普通の人が走って逃げ切れるものではありません。津波から命を守るためには、津波が海岸にやってくるのを見てから避難を始めたのでは間に合いません。海岸付近で地震の揺れを感じたら、または、津波警報が発表されたら、実際に津波が見えなくても、速やかに避難する必要があります。

図10

津波の高さは海岸付近の地形によって大きく変化します。さらに、津波が陸地を駆け上がる(遡上する)こともあります。岬の先端やV字型の湾の奥などの特殊な地形の場所では、波が集中するので、特に注意が必要です。津波は反射を繰り返すことで何回も押し寄せたり、複数の波が重なって著しく高い波となることもあります。このため、最初の波が一番大きいとは限らず、後で来襲する津波のほうが高くなることもあるのです。

図11

近年の日本の大きな被害地震の例を下に示します。

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ゆっくりとした地殻変動が起きると地震波は大きくなります。津波は海底の変動量できまるので揺れが小さくても大きな津波が来ます。⇒警報が出れば避難してください。明治三陸地震は震度3で大津波が来ました。

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津波注意報は20㎝から出ます。

津波は、大変波長が長いので押したり引いたりする海の波とは根本的に違います。押したらしばらくは押し続けます。海面と同じ高さにいると、津波の先端と普通の波頭との区別はつきません。津波の場合は大量の水の塊が何㎞にもわたって続いているのです。これが沿岸地表に達すると大量の水の流れとなって押し寄せ続けます。押し寄せ続ける威力というのは絶大で、50cmの津波に人は耐えられません。

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東日本大震災での津波の被害は広範囲に及びました。リアス式海岸という地形が波を増幅させた面もあります。また、様々な研究成果により、海水の移動だけでは津波の高さを説明できないこともわかってきました。海底の調査から地滑りや土砂の動きが津波の高さを押し上げ、また細かい土砂が混じることで黒い津波となり破壊力を増したという研究結果も新聞各紙で報道されています(例えば朝日新聞2021年3月8日)。

図12

東北地方の津波の高さ

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津波の予報は検潮所での測定値を発表するので、被害をもたらす波よりも小さな数字が報道されます。高さの目安としてオフィスビルで階高4.5m(マンションで3.5m)が一般的ですから、そのビルの標高(平均海面からの高さ)+ビルの高さを考えてみてください。

梶原さい子『リアス/椿』より

倒れうるものはたふれて砕けうるものは砕けて長き揺れののち

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これは大崎市古川の地震計の記録(強震波形)です。計測震度が2程度に落ち着くまでわりと長い時間がかかっています。https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/kyoshin/jishin/110311_tohokuchiho-taiheiyouoki/index.html

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参考までに上は2016年の熊本地震の記録です。https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/kyoshin/jishin/1604160125_kumamoto/wave/Q4169CF001.png

どちらがどうというのではなく、揺れ方が違うのを理解していただけましたか?

地震波を再現した実験動画が公開されていますが、これの【2】木造住宅 -在来軸組構法-(2005年11月)を見ると阪神淡路大震災の地震波で住宅の一階がつぶれるまで1分弱になっています。つぶれたほうの家は筋交いなど今の新築住宅では必須となっている耐震構造が適用される前の建築物です。

https://www.bosai.go.jp/hyogo/research/movie/movie-detail.html#2

もう一首。

津波、来てゐる。確かに、津波。どこまでを来た。誰までを、来たのか。

梶原さんのご実家は気仙沼の早馬神社です。津波の被害にあわれました。神社のホームページによれば、「東日本大震災の大津波により、海抜12メートルの高台に位置する神社にも15メートルの大津波が襲い、拝殿、社務所、宮司宅が約2.5メートル浸水し全ての道具を粉砕した。気仙沼市唐桑町の宿浦地区ではこの神社のみが残った。」と言います。

津波警報等の発令の記録は以下にまとまっています。最初は14時49分に出ています。到達時刻も記録がないところもたくさんあります。

つらつらと長くなりました。

最後に国土地理院による地殻変動のページを紹介します。

地球が生きている限り、地震は起きます。地盤が割れた場所と深さによっては津波も来ます。わたしたちは常に次の災害に備えていかねばなりません。短歌に込められた思いは次へ伝わっていくことでしょう。

とりあえず、ここで締めます。

お付き合いありがとうございました。

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