マガジンのカバー画像

安良の小説

18
これまでに書いた小説があります。ジャンルは、歴史・逆噴射小説・銀英伝二次創作などです。
運営しているクリエイター

#逆噴射小説大賞2020

IKESU

「潮見ちゃん、こっちこっち」  マスク姿の検死官が、ブルーシートの合間から手を振っている。  ホトケは濡れたタブレットに突っ伏していた。最近、ネットの最中に死ぬ者が増えている。拙僧は合掌して現場検証に加わり、アスファルト上の被害者をあらためた。 「これ見て、潮見ちゃん」  検死官がホトケの下半身を指差した。 「脚のうっ血がひどいし長時間座ってたんだろうね。あと存命中に失禁」 「またか」  拙僧は死体の隣でZAZENを組んだ。 「ハラギャティボジソワカ」  念仏を唱えながら

フジミ・イン・フシミ

 1868年1月26日、土方歳三率いる新選組は伏見奉行所脇に布陣した。  翌日、徳川本隊八千が大坂より鳥羽街道を北上する予定だ。『君側の奸を除くべし』としたためての直訴軍。新選組は本隊の右翼として、支援前進の手はずである。 「おう斎藤、彦根藩の高台陣地は準備万端か」 「はい副長。前面の薩長軍に対し、我らと十字砲火を張る構えです」 「ならいい。今度こそ、連中の勝手にはさせねえ」  土方の気持ちが、斎藤には痛いほど分かる。  先の長州征伐、徳川の永代先鋒彦根藩は英ミニエー銃の

ワケアリ物件の賃借人

体が動かない。だがこれは夢だとはっきり感じる。明晰夢だ。 暗い顔をした男がヨロヨロ近づいてきて、俺の隣に横たわる。どんよりした表情。猜疑心、頭痛、SHIT、そして痙攣。多分、不眠からの薬物過剰。 目の前で繰り返される永久の別れ───金縛りの1割は霊障。 そんな話、俺に言わせれば冗談にもならない。ここじゃ毎晩、無念を抱いて死ぬ男と添い寝だ。進退きわまった憤りだけが伝わってくる。 俺にしてやれる事なんて何もない。そう言い訳するや不意に男の姿が消えた。俺は目が覚めていた。ベッド