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打ちのめされるほど大きな劣等感と無力感 #初恋ざらり

めっちゃ好きなドラマです。
今期の中でとかじゃなくて、人生の中で最も好きなドラマのひとつになりました。

このドラマをきっかけに小野花梨さんが出演されている作品を観まくったり、原作であるざくざくろさんの漫画『初恋、ざらり』を購入したりしました。
好きなドラマを観てる時間は至福ですね。

主人公の上戸有紗は、一見どこにでもいる可愛らしい女の子ですが、軽度知的障害と自閉症という障害を抱えて生きています。みんなが普通にできることでも、彼女にはできないことがたくさんあります。

勤め先の運送会社でも普通には働けません。健常者ではありえないミスを連発したり、非常識な言動を繰り返したりします。日常生活においては、料理や洗濯が上手にはできません。何をするにしても要領が悪く不器用です。

観ている分には愛らしいと思うばかりですが、本人や周囲には複雑な思いがあります。

自分が周囲とうまく馴染めないことや、周囲から呆れられていることや、周囲に迷惑をかけていることは自覚できるのに、どうすれば普通にできるのか分からない、あるいは分かっても実行するだけの能力がないという地獄のようなもどかしさの中で、それでも彼女は求められる業務をそつなくこなせるように努力します。しかし努力すればするほど、それが実を結ばないことがどんどん彼女を苦しめていきます。

ドラマでは25歳の設定ですが、おそらく彼女は生まれた時からこのような苦しみを抱え続けて生きてきたんだと思います。

彼女が抱えているであろう劣等感や無力感と同じものを私も感じる時があります。SNSでドラマの感想を追っていると、私と同じように有紗に共感している人もたくさんいるようです。

障害の有無に関わらず、劣等感や無力感は人を打ちのめします。劣等感や無力感を抱えたまま人は平気で生きていくことはできません。

特に障害のある有紗は、ことあるごとに劣等感や無力感にさらされながら日々を送っています。このドラマは、丁寧に丁寧にそのことを描いています。ドラマを観ているとすごく胸が痛くなります。それは彼女が気の毒だからではなくて、彼女を通して、普段の自分が見てみぬふりをしている劣等感や無力感が再現されてしまうからです。気にしていなかったはずの放置していた傷を直視させられるようで、のほほーんとは観られませんが、本当にすごいドラマです。

「もしかして、私って、岡村さんにとってなくてはならない存在?」(4話の終わり)

と自分から質問できるほどまで岡村さんからの絶対的な愛を感じていた有紗ですが、その直後に障害のことを告白したことで、その愛が揺らいでしまうんじゃないかという不安に振り回されていくことになります。

以前、友達から容姿や個性のことを相談された際に、私は彼女に「そのままでいいと思うよ」と返事をしたのですが、後になってその言葉が彼女を傷つけていたと知る機会がありました。彼女は私以外の人からも同じようなことを言われたそうで、それに対して彼女は「変わらなくて生きていける人はいいよね」「変わらなくていいならどうして自分は辛いのか」「このままで誰が愛してくれるのか」ということを思ってしまった、ということを打ち明けてくれました。

自己肯定感を高めることができるのは本人しかいないと私は思っています。どれだけ他人から愛されても、その実感を得ていても、自分で自分を愛していなければ不安が消えることはないと思います。

しかし周囲から否定された経験のある人は、自己肯定感を低くすることによって傷つくことを回避して、なんとか生き延びてきました。今さら自己肯定感を高くせよと言われても難しいです。だからせめて誰かに自己肯定感を高めるきっかけを与えてほしい、誰かに心から愛されたり認められたりしたい、そう考えるのは自然なことではないでしょうか。私は今でも自分を心から愛することができなくて、恋人さえできればこんな自分も変われるんじゃないかと思うことがあります。でもそれで全てが変わるわけではないことも本当は分かっています。

自分で作ったカレーを自分で「まずい」と思っていたら、ほかの誰かが「おいしい」と言っても信じることはできません。それどころか、あらゆる言動を本当は「まずい」と思っていることの証拠に仕立てあげて、どうにかして「まずい」と言わせてしまいそうな気さえします。相手を信じられたとしても「おいしい」と言い続けてもらわなければきっと不安になってしまうと思うし、逆に「まずい」と言われたらそうだよなと思って落ち込むだけです。でも自分で「おいしい」と思えたら、そのカレーが存在することを苦々しく思うことはなくなるはずです。

そんなことすぐにはできないし、「おいしい」とまでは思えなくても、いつか「まあこんな味のカレーが存在することは悪いことじゃない」と思えるようになりたいと私は思っています。

この先、ドラマ「初恋、ざらり」はどのような展開を迎えるのでしょうか。どうか有紗ちゃんと岡村さんには幸せになってほしいです。携わっている全ての方にお礼を言いたくなるほど素敵なドラマです。本当に出逢えてよかった。来週も、そして最終回も楽しみにしています。

未読のかたはぜひ原作も読んでみてください!



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