2022年神奈川チェス選手権、開催物語


この度、2022年神奈川選手権を開催しました。
チェスの地区大会開催の流れ、お金の感覚、押さえておくべきポイント等、貴重なノウハウが多く得られました。
せっかくなので、備考録代わりに思い出せる限りのことをここへ書き出しておこうと思います。
なお、当たり前ですがこれは2022年の話で、来年以降は要件が変わる可能性があります。
また、別のスタッフが行ったことも、さも自分がやったかのように書いています。運営みんなが主語、そんな感じだと思って読んでください。

3行でまとめると

  1. スイスマネージャ―の設定間違いに注意、個人の注意力に頼るなかれ

  2. チェス大会は財政的に厳しく、労力に対して割に合わない

  3. でも周りからの感謝の言葉を聞くと、なんだかんだ開催して良かったと思える

開催動機

地区選手権は全日本チェス予選を兼ねていて権威があるわりに開催地区が少なくて残念、せっかくなのでいつか自分の地元でも開いてみたいと学生の頃から内心思っていました。そんな中で迎えた1月頃、就職という転機から2年経って生活が落ち着いてきたので次は何か新しいことにチャレンジしたいという気分が高まっていました。
周りに地区選手権開いてみたいと言ったところ、是非開いて欲しいという意見がいくつか出て、こういうものは勢いが大事!と思い、開催を決定しました。
(引っ越して地元の埼玉開催ではなくなってしまいましたが、本質的な問題ではないでしょう)

要件確認(1月9日)

まず、日本チェス連盟(NCS)に地区予選の要件についてメールで問い合わせました。地区予選は2-3月に行われるため、時期的に今からの申込みでは開催できない可能性もあると思っていましたが、要件は意外と緩く、何通かやりとりした結果、以下の通りだと分かりました。

  1. 大会開催は1月下旬から4月上旬に行う

  2. 4/11までにシード権者を決める

  3. 開催権料の8,000円を払う

  4. 主催者が NCS 公認クラブである

同じ都道府県で複数の別々の公認クラブが開催することも可能だそうです。
NCS としても地区予選へのできるだけの支援をするという好意的な回答を得ました。

大会開催の可否判断(1月9-13日)

大会は開くと決めたら即開けるものではありません。大きなハードルは以下の2点だと考え、それをクリアできる見込みを立てることにしました。

  1. 大会会場の確保

  2. 黒字開催可能であること

大会会場の確保

神奈川県内でチェス大会を開けそうな会場をネットで漁りました。しっかりした持ち時間の大会にしたいと考え、丸一日、2日間連続で借りられる会議室を探しました。(今思えばこれが無謀で、無難に1日制にすべきだったと反省しています)この条件が非常に厳しく、使用料の安い公民館系が全滅しました。

そんな中でも辛抱強く探した結果、料金と利便性のバランス取れた産業貿易センターを見つけました。ここは丸一日(9:00-21:00)借りられ、料金は 27,720 円です。2日間借りて合計55,440 円です。
17時までにすることで料金を安く押さえることも考えたのですが、21時まで借りれば1日目夜に荷物を置いて帰れることと、当日何か起こって長引いたときのリスクを考えて、ケチらずに丸一日借りることにしました。
幸いにも4/2-3 が丸々空いているということで、早速予約を行いました。また、問い合わせて分かった、キャンセル料が前日までなら0円という点も決め手の一つでした。というのも、コロナの状況次第では大会を中止する必要性もあると考えられたためです。
ちなみに、キャンセル料がかからないということもあり、この段階では検討室の予約を行っていましたが、参加者が伸び悩んだ結果からキャンセルしました。

黒字開催可能であること

上述の会場費と合わせて、思いつく限りの必要な支出を書き出しました。こちらがその時のメモ書きです。

これにより、ラフな見込みですが、参加費6500円の時の損益分岐点は22人だと分かりました。周りから神奈川なら20人は堅いよ〜とか煽られたのもあり、黒字化可能と判断しました。(今思うと激甘すぎて笑っちゃいますね笑)

開催準備1(1月13日〜)

公認クラブ登録


開催が決定したので、NCS へ公認クラブ登録を行いました。
こちらは必要事項とNCS公認クラブ一覧ページに載せる自クラブへのウェブリンクをメールでNCSへ送り、地区大会開催権付き登録料を指定の銀行口座へ振り込めば完了です。

大会要綱作成

これは過去の他の地方選手権の要項を下敷きにして適当に作りました。ポイントとして、写真使用の承諾を要項に入れて事前に包括的許可を取っておくこと、タイブレークを事前に明確に定めておくことが重要だと思います。
参加費を当日現金払いにしたのは、大会開催中止の可能性を考慮したものです。この際、現金払いによる事務作業軽減のため、参加費は1000円単位に修正しました。

また、チェスの大会に出てくる人はお金が欲しくて来る訳ではないという考えのもと賞金を無くし、代わりに名誉を提供しようということで賞品の盾を大幅にグレードアップすることにしました。

要項ができ次第、NCS へメールで送り、NCS ウェブサイトへの掲載をお願いしました。

我々の工夫した点は参加申し込みを Google Form にしたことです。これにより、参加者リストの管理がとても楽になったと思います。
また、連絡先メールアドレスへの受領完了メールをもって申込み完了としていましたが、この受領完了メールは手動で送っており、想定外の問題があればここで申し込みを弾く運用でした。
ただ、今思うとこの受領完了メールを手動にする一手間はミスの可能性(宛先をbccにし忘れる等)などを考えると割に合わない気がして、次があれば自動化したいと感じました。
なお、後にNCS IDは大会結果報告に必ずしも必要ないと分かったので、次があれば必要事項から削除したいと思います。

開催準備2(2月28日〜)

盾の発注

盾を発注しました。
届いた実物を見て、やっぱりかっこいい盾があると頑張ろうというモチベーションが湧きそうで良いと思いました。

大会賞品の盾

学生参加費の値下げ

大学の後輩から学生の参加費を下げて欲しいと要求があがりました。
既にこの時点で参加者数が伸び悩み、単価を下げることは少し怖くはあったのですが、学生で金儲けするなと自分自身が学生の頃によく思っていたこと、普段の川崎チェスクラブの活動には学生がよく来てくれていることに報いたいという気持ちから値下げを決めました。

会場費関係

前述の通り、参加申込者が伸び悩み、赤字回避のため検討室のキャンセルを行いました。
この時に当日の利用手順やコンセントの有無等を確認しました。特にコンセントが無いと致命的なので、事前に確認しておくべきだと思います。

また、ほぼ同時期に大会会場から会場費を振込を求められました。粛々と指定の口座へ振り込みました。ちなみに、我々は初利用のため事前振り込みを求められましたが、次からは後日振り込みで良いそうです。

東京チェス選手権へ参加

NCSから、大会開催するならば勉強にもなるので東京チェス選手権へスタッフとして手伝いに来ないか?と誘われたので、二つ返事で承諾しました。NCSの大会はアービターはほぼ一日中立って見回りが必要等、肉体的にかなりハードでした。しかし、ここで受付のイメージ、ラウンドごとの動き、スイスマネージャーの使い方等を教わることができ、とても勉強になりました。

ちなみに、NCS のスタッフはボランティアという名前ですがお手当が出ます。正直、まぁまぁ嬉しい額で、自分も含めた初参加のスタッフはこんなに貰えると思っていなかったと言っていました。(もちろん普通のイベント系バイトよりは少ないですが)

また、当日大会運営を手伝ってくださるというアービーターの方をNCSから紹介頂きました。1日目のみで良ければという条件でしたが、特に初日が不安だったのでありがたく応援をお願いしました。

チェスセットの受け取り

盤駒時計はNCSから借りることにしたため、大崎のNCS事務所へ取りに行きました。宅配で届けてもらうことも可能とのことでしたが、お金をケチりってハンドキャリーしました。

注意点として、NCS から借りる時計には電池が無く、自分で用意する必要があります。自分自身がそのことを知ったのが開催日前日の夜で動揺しましたが、幸いにも自分の家にあった電池ストックを確認したところ十分な数があり、事なきを得ました。また、今回は15セット借りたのですが、重量がかなりあり、担当者は重すぎてタクシーを使いたいとボヤくほどでした。というか、大会当日は使っていました。

スタッフマニュアルの作成

東京チェス選手権を見習い、事前に自分が想定している当日の流れを記したマニュアルを作成しました。スタッフ各自で何をすべきか事前に共有することで、各自で自主的に動いてもらうことを期待したものです。

スタッフマニュアル(持ち物)
スタッフマニュアル(タイムテーブル)
スタッフマニュアル(作業内容)
スタッフマニュアル(会場レイアウト)

大会前日(4/1)

スタッフ事前ミーティング

開催日前日夜にスタッフ事前ミーティングをオンラインで行いました。
スタッフマニュアルを共有して終わりでも良かったのですが、ニュアンスが伝わりやすいこととちょっとした疑問も質問をしやすいであろうことから、ビデオ会議を行いました。
内容としては、ほとんど自分がスタッフマニュアルを読み上げる時間でしたが、実際に説明しているとマニュアルのミス(ボード番号のずれ等)にも気づき、事前に修正ができました。PC関連の細かい話(プリンタードライバ関係等)をすり合わせできたり、顔を合わせることで話しやすい雰囲気になるという利点が実際に得られたと思います。ちなみに、対局時計の電池問題もここで発覚しました。

横断幕作成

後回しでズルズルと引きずっていた横断幕をようやく作成しました。ワード等で文字をページいっぱいまで拡大し(google document はフォント大きさに上限があるため、ページ設定でa5用紙を指定する必要あり)、コンビニでA3用紙に印刷したものを正方形になるよう端を切り取ることで完成です。我ながら、手作りにしてはまぁまぁの出来だったと思います。

当日張り出した横断幕の様子

大会1日目(4/2)

起床

0R とも形容される最大の山場でしたが、寝坊という強敵に打ち勝ち、見事起床に成功しました。荷物を抱えて、会場へ向かいます。

会場準備

途中でトラブルがありつつも、スタッフマニュアルに規定した作業は時間的余裕をもって終えることができ、9時10分頃には受付以外の作業が完了していたと記憶しています。

トラブルとして、まずスイスマネージャ―を運用するPCで印刷できなかった点がありました。プリンターとの相性が悪かったのか原因は不明ですが、バックアップとして持ち込んだ予備PCへ大会設定ファイルを共有し、そちらから印刷するという運用で問題を回避しました。ただ、この変則的な運用のせいで chess-results に神奈川選手権が3つも出現するという問題も起きました。この原因も正しく分かっていませんが、大会設定ファイルを他のPCで触ったり、別ファイルとして保存してそれを読み込むと別大会として扱われてしまうのでは?と推測しています。

更に、盤の向きが90度ずれていることにも途中で気が付きました。向きについてスタッフマニュアル等で明確にスタッフ間で共有しておくべきだと反省しました。

受付処理

受付はスムーズに進んだと思います。
これが当日のスタッフ用受付用紙です。

受付用に用意したリスト

改めて見返すと笑っちゃうぐらいセンスの無い形式だったと思います。
まず、NCS ID 等、受付処理に不要な項目存在し、更に悪いことに左側に来ています。代わりに受付に必要な学生の有無と受付チェックマークが右側に来ており、名前と離れていて対応がわかりにくいです。また、表の背景色が縞々になっておらず、行が見えにくいです。次の機会ではこのあたりは改善ポイントだと思います。
ちなみに、受付担当者は受付チェックマークを名前の左横に付ける運用へ勝手に改善して処理してくれていました。

ペアリング

1Rペアリングに関してはかなりドタバタがありました。

まず、直前キャンセルが3件発生しました。うち2件はリストから選手を削除してペアリング組み直せましたが、1件はぎりぎりだったため対応が間に合いませんでした。これは2R開始時点でリストから当該選手を削除して修正しました。
更に、1日目が全て事前byeの方が1人正しく設定されないままペアリングが組まれてしまいました。しかし、幸か不幸か、その方は前述の直前ぎりぎりのキャンセルされた方と組まれていました。気づいた時点で難しい判断だったのですが、時間的制約と結果的にも不要なbyeが無くなることもあり、ペアリングを有効としました。

今思えば、ここは開始時間を遅らせた上で、問題を全て修正してペアリングを組み直す手もあったかと思います。しかし、1R で大会全体への影響も小さいだろうという考えが自分の中で決め手になりました。スイスマネージャーにも少し慣れた今ならば、直前でもさっさと組み直して差し替えられたと思います。とはいえ、あの時点ではベターな選択だったと思います。

対局中

特に問題は起きずに進行しました。
スタッフは基本的に後ろに控えて読書等で時間を潰し、対局が終わったらサインをしに行くという運用でした。たまに対局終わりに気づかずに選手が呼びにくるということもありました。これには賛否があるかと思いますが、対局終わりという一瞬のためにスタッフが対局場に張り付くのはスタッフの負担に対して必要性があまりないと考え、このような運用にしました。
おかげでスタッフの疲労は対局時間中はほとんど溜まらなかったと思います。東京チェス選手権では自分自身ここがつらかったので、後方で座っていられたのはとても助かりました。

余談ですが、対局時間中は余裕があったので、他のスタッフにしばらく任せて見学者の方と少しだけ後方でチェスを指しました。その方は少し前に川崎チェスクラブへ問い合せメールを送ってくださった(おそらく)チェスはじめたての方のようで、せっかく来て頂いたので少しでもチェスを指させてあげたいという思いからでした。とても満足されていたので、指してよかったと思います。

大会2日目(4/3)

ペアリング

少し慣れたおかげか、初日よりもスムーズに進んだと思います。

ただ、6R対局直前に、スイスマネージャ―のタイブレーク設定に誤りが見つかりました。慌てて修正して、張り出した順位表を差し替えました。タイブレークは最終順位へ大きな影響があるため、気づいた時は肝が冷えました。気づけて本当に良かったと思います。

また、遅くなってしまいましたが、1Rペアリングに関して事情説明をきちんと行っていなかったことから、念のため選手全員の前で説明を行いました。何か意見やコメント等ある方はいないか聞きましたが、特に出なかったのでみな納得してくれていたのだと思います。

表彰式

表彰式ができる形に机を並び変えつつ、スイスマネージャ―で最終順位の算出を行いました。この時、机の並び替えを参加者が手伝ってくださり、とても助かりました。

表彰式では、まず自分から大会に対する簡単なコメント、スタッフへの感謝を言い、表彰に移りました。1, 2, 3位の方の発表、拍手、盾の贈呈と記念撮影、全日本権利者へは賞品はないので発表、拍手と記念撮影のみを行いました。また、神奈川県初代王者である1位の方から簡単なスピーチを頂きました。

片づけ

机を元の位置に戻します。これも参加者の多くが手伝ってくれ、とても早く戻すことができました。その後持ち込んだ荷物をまとめ、撤収準備完了です。

撤収前にホワイトボードを使い、簡単に大会の反省点をスタッフと話し合いました。
やはりスイスマネージャ―による混乱が最大の反省点だということになり、次からはダブルチェック等、個人の注意力に頼らない運用を徹底しようという話になりました。
また、対局中にスタッフが後方で座っている点について、残っていた選手の方にコメントを貰ったところ、特に気にならないという話でした。スタッフの負担を考えると、今後もこの運用で良いと思いました。

大会後

結果報告

大会結果をNCSへ報告します。chess-results に上げた大会リンクをNCSへメールで公式戦報告用メールアドレスへ送るだけで大丈夫です。

しかし、この報告のメールやり取りで、繰り下げ処理はクラブ側で行った上でNCSへ報告する必要があることが判明しました。NCS側でも全日本への出欠確認は改めて行うそうですが、その時は繰り下げ処理をしないそうです。
これは完全に予想ですが、地区大会ではあまり厳密にこの繰り下げ処理を行っておらず、明確なルールとして公認クラブへ共有されていなかったのではないかと想像します。
4/11 までに権利者を確定する必要性から、急いで権利者に出欠を取りました。結果的に辞退者はいませんでしたが、結構焦りました。

会計

会計処理を行いました。結果は、、、421円の黒字です!!!
いやー、ほぼ収支ちょうどとは、我ながら天才的運営感覚ですね!(会計に入れていない、交通費などはプライスレス^^)
正直、労力に対して収支が全く割に合っていないですが、趣味なので仕方ないです。大幅な赤字でないだけましだと割り切りました。

2022年神奈川選手権、会計

大会の反省

今大会を総括すると、3大反省ポイントは以下だと思います。

  1. 大会初開催ならば、規模は1日制等にしてスモールスタートすべき

  2. スイスマネージャーの設定は複数人でダブルチェックの体制を整えるべき

  3. 全日本権利者の処理方法を事前に明確にし、選手へ公表しておくべき(特に繰り下げ処理)

最後に

書き忘れたことが多い気がしますが、既にたくさん書いて疲れたのでこれでよしとします。上手く文章の流れがまとまっていない気もしますが、リファクタリングの元気もありません。備考録ですしこれもよしとします。

全体的な感想を言うと、タスクの量とトラブル対応が大変で豆腐メンタルの自分にはかなりしんどさがありましたが、みんなから(嘘だったとしても)良かったと言ってもらえると達成感がありました。地区大会開催は地味に心の中にあった夢だったので、やって良かったと思います。
来年以降開催するかはその時の自分のやる気と相談ですが、継続は力なりという言葉の通り、できるだけ開催したいと考えています。

最後に、参加選手の皆さん、スタッフの皆さん、協力してくれたNCSの方々、改めてありがとうございました。
今後も日本チェス界が末永く繁栄するよう祈り、記事の終わりとします。



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