憑依型の演技とは?プロになるために必要?【声優養成所講師が解説】
どうも、福原安祥です。
ナレーターをしたり、声優養成所の講師をしたり、会社の経営をしたりしています。
今回のテーマは『憑依』です!
前回解説した『声優が役になりきる方法』という内容の続編みたいな感じなので、そちらから読んでもらえると理解が深まると思います。お時間があるときにチェックしてみてくださいね。
今回は、演技における「憑依」についてなんですけど…簡単にいうと「憑依=乗り移る」ってことです。イタコみたいなことですね。
イタコっていうのは簡単に説明すると、死者の霊を呼んで自分の体に宿すことで、亡くなった人としゃべることができるっていう、巫女さん的な人のことです。
演技の世界で「憑依」というと…「役が演者に乗り移ること」をいいます。
こういうタイプの俳優さんや声優さんのことを「憑依型」っていったりします。
Twitterでも見かけますし、僕の動画にコメントを書いてくれた人の中にもいました。「今日のレッスンは役が憑依した感じがあったなぁ」って。
試しに「憑依 声優」というワードでTwitterやGoogleで調べてみると、かなりの数がヒットしました。みなさんも一回調べてみるといいと思います。
この「憑依」…あなたもできることならしたいと思うんですよ。
役が自分に憑依すれば役のままでしゃべることができるわけなので、確実に高い評価を受けることができますよね。
では、憑依することは果たして可能なのか?
そして、可能であるのなら、どうやったら憑依できるのか?
…このあたりが気になる方も多いと思います。
というわけで、今回は「憑依型の演技」について解説していきますね!
動画で見たい方はこちらをどうぞ。
あんじょーメソッド(YouTubeチャンネル)
声優志望が憑依型になる方法は?
結論から言っちゃいます。
憑依型になる方法は…
ありません!
残念ながらありません!
そしてもう一つ残酷なお知らせがあります。
声の仕事で生活できてない人が言う「憑依」は…
勘違いです。
ここまで読んでイラっとした方もいると思うんですけど、勘違いしたままだと声優人生が終わっちゃうので、ガマンして目を通してくださいね…。
まず整理しておきたいのは、「憑依型の人」ってどういう人なのかというところです。
憑依型の人っていうのは、ズバリ「天才」なんですよ。
もう一度言いますけど、憑依型の演技っていうのは、役が自分に降りてくる状態のことですよね。
これ、冷静に考えてみてください…
スゴく危ない人じゃないですか?
例えば、あなたの知り合いの男性が米津玄師のファンだとします。
その子があるときあなたにこう言いました。「俺、米津玄師めっちゃ好きでさ~米津玄師のことずっと考えてたら、昨日の昼くらいに米津玄師が降りてきて、数分くらい米津玄師だったわ…」
コイツどう思います…?
そうとう厳しいですよね。笑
声優業界にいる人や声優業界を目指している立場の人であれば、「憑依」っていう言葉はあまり抵抗がないと思うんですが、日常生活で考えるとなかなかヤバいことを言ってます。
じゃあ、「憑依」っていうヤバイことをできる人ってどういう人かというと…「天才」なんですよね!
天才ってどういう人かというと…ヤバい人なんですよ!笑
天才って五感や感性が強すぎて社会に馴染めない人が多いです。
いろんな雑音が周りからブワーって入ってくるので、人と普通に関わること自体が難しい。
こんなふうに圧倒的な感性を持っている人、それが「天才」なんです。
ここで憑依の話に戻ります。
アレ?ということは…?
Twitterや僕が教えている声優養成所生の中で「自分、けっこう憑依型なんですよね」って言ってる人が多いってことは…声優志望にはめっちゃ天才が多いってことになりません?
そんなわけありませんよね。。
もし本当に天才だったら、憑依型を名乗る人全員がプロになれるはずなので。。
逆にいうと、自分で「憑依型です」って言っちゃう人って、「自分は天才です」って言ってるようなものなんですよ。。
だから、生徒に「自分は憑依型なんです」って言われると、僕のほうが恥ずかしくなっちゃうんですよね…。
「自分は天才です!」って言われてる気がして「お、おぅ…」ってなっちゃうんです。
というか!
そもそも、声優には憑依の演技は向かないんですよね!
声優は憑依の演技に向いてない
声優の収録現場ってどういうものかご存知ですか?
1つの大きな部屋があって、そこに長めのソファがあって、ソファの正面にマイクが3~4本立ててあります(動画内では図を書いて説明しているので、チェックしてみるとよりわかりやすいと思います。)。
声優さんたちはみんなソファに座って、自分がしゃべる順番がきたらマイクの前に行って、終わったらソファに戻ります。マイクを交代で使っていくというわけです。
「自分がしゃべったら、次にしゃべる人のためにどく」という一連の動きを「マイクワーク」っていいます。
ちなみに、自分が入ろうと思ってたマイクを別の声優さんが使っていてマイク前に入れない場合は、空いている別のマイクに移動するっていうことも大事です。これがマイクワーク。
つまり、シチュエーションによっていろんな場所のマイクを使わなきゃいけないので…自分の演技に集中するのがスゴく難しいんですよ!
自分の演技にずっと入り込むことはできません。なんだったら「憑依する時間」もありません。。
さらにマイクの前には、声をあてる映像を確認するためのモニターが3~4台並んでいるわけです。
自分の担当するキャラクターがしゃべるときには、「口パク・尺」があります。それを映像で確認しながらしゃべります。
例えば、尺が10秒だったら10秒以内でセリフをしゃべらなきゃいけないわけです。
こんなふうに、マイクワークやセリフの口パク・尺など…声優には制約がいろいろあるんです!
逆にいうと、こういう収録方法なので「冷静になる時間が絶対にある」ってことなんですね。
冷静になって…憑依できます?
難しいと思います。。
なぜ自分が「憑依型」だと思うのか?
ここまでで、「声優は憑依型の演技は向かない」ってことがわかってもらえたと思います。
じゃあ、なぜ多くの人が自分の演技を憑依だと勘違いしてしまうんでしょうか?
例えばなんですけど、あなたの友達を思い浮かべてみてください。
その友達が、変なヤツから面と向かって悪口を言われているとします。「お前バカなんだから黙っとけよwは?うざっw調子乗んなってw」みたいな感じです。。
でもあなたの友達はいいやつなので、場の空気を乱さないために黙ってるとしましょう。
この状況、どう思います?
めちゃくちゃムカつきませんか?
そのときあなたは、その友達に感情移入しているわけです。
これなんです!
感情移入を憑依と言っちゃってるってことなんですよ!感情移入と憑依って完全に別物なんですけどね。。
前回もお話ししたとおり、役のことを理解したければ、台本から情報をいっぱい読みとってそれについて考えまくるしかないんです…。
恋愛と一緒ですね!
好きな人ができたら、まず情報を集めなきゃいけませんよね。
「恋人はいるのか」とか「どんなことが好きなのか」とか、そういう情報を仕入れなきゃ近づけません。
例えば、好きな相手が「自然が好き」って言った場合、初めてのデートで六本木に行くのは絶対ダメですよね。笑
緑がいっぱいの公園に行くとか、田舎のほうに行ってみるとかの行動って、「相手は自然が好き」っていう情報があって、それについて考えないとできないことなんです。
この例は好きな人に近づくためのアプローチですけど、役でも一緒です。
「付き合うために、好きな人に憑依してやる」って…怖いですよねそんなヤツ。。
役作りっていうのは、めちゃくちゃ頭を使うんですよ。
厳しいことをいいますけど、「憑依型」を自称してる人たちって頭を使う作業から逃げてるだけで、「キャラクターの雰囲気をなんとなく掴んでる」状態なんです。
これだといい演技は絶対にできません。。
ただ!憑依型の演技ができる人っていうのが本当にいるとしたら!
その憑依型の演技には、デメリットがあるんです…
憑依型の恐ろしいデメリット
憑依型のデメリット1つ目は…「危険」です。
実は、憑依型ってめちゃくちゃ危ないんです。
さっきからお話ししてますけど、憑依型の演技っていうのは役が降りてくることです。
つまり、自分の体を役に貸してる状態。なので、自分が自分で制御できないことがあります。
どういうことかというと、自分で自分のことを制御できないので、私生活に支障が出るとか役から離れられなくなることがあるんです。自分に戻れなくなっちゃうわけですね。
そうなった結果、あるハリウッドの俳優さんは…メンタルが役のままで、ビルの上から飛んで亡くなりました。
ビルの上から飛んでも大丈夫な「役」なんですよ。憑依している状態だと、「飛べるはずだ」って思っちゃうわけです。
なので、これを読んでくれているあなたは、軽々しく「憑依」って言っちゃダメだぞって思ってほしいです。
さて、憑依型のデメリット2つ目は「憑依待ちになる」です。
憑依型を目指している人って役が降りてくるのを待つので、降りてこないと「降りてこない!」ってパニックになっちゃうんですよ。
この状況を本人は、「降りてきたときは調子がいい」「降りてこないときは調子が悪い」っていうふうに言っちゃう。
こんな不安定な人を現場に出せると思いますか?
出せません。
なので、演技をしていて、役と繋がった気がする瞬間があったとしても、「役が憑依した」と表現せずに「役のことがわかってあげられたな」っていうふうに思ってくださいね!
今回のまとめ
今回は『憑依』の演技について解説しました。
憑依型に憧れる気持ちってスゴくわかるんですけど、軽々しく口にするもんじゃないぞっていう話でしたね。。
これを読んでくれたあなたは、憑依っていう偶然的なことに期待するのではなくて、「役のことを考えまくる時間」を大切にしてください!
ただ、役のことを大事にしてめちゃくちゃ考えた結果、それでもオーディションに落ちちゃうこともあります。
そのときは、他の人のほうが役について考えていたのかもしれないですよね。
オーディションで結果が出ないときも、「次はもっと役に近づこう!」と思って頑張ってほしいです。
実際の役作りの方法に関しては、過去に解説した『実戦形式!声優の役作りの方法』という内容をチェックしてみてください!
それではまた。
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