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ツアー報告番外編 『第7回はじめての王国ツアー』

お久しぶりです、楽しいインド案内人アンジャリです。この数日、弊社企画ツアー『第7回はじめての王国ツアー』でインドの俳優ラーム・チャランさんのお宅へ訪問したことへの反響について考えをまとめていました。

まず申し上げておかないといけないのは、私が企画するツアーは、俳優に会うことを目的とは決してしていないということです。

このツアーで訪れるハイデラバードは、歴史があり、見どころ多く、食都であり、なにより、皆さんが愛するテルグ語映画のスターたちが暮らす街です。そんな皆さんが楽しめる要素がたくさんある土地を、限られた時間で最大限楽しんでいただくことがこのツアーの目的です。

また、ツアー中に起こる突発的な出来事へのリスク判断や責任の一切は主催者である私にあり、お客様にはありません。

スターの自宅とお手紙企画

さてインドでは、大スターのお宅はGoogleマップに記載されていることが多く、地元のファンにもよく知られていたりします。

映画『バーフバリ』の主演俳優プラバースさんのお宅については、ツアーのなかで門前に伺うことについて了承を得ています。そして訪問するときは都度、事前に日時や人数をお伝えしています。これまで門前訪問してきたお客様の節度ある行動に、絶対的な信頼を持っていただけていると思います。

また第7回の今回は、有志の方が取りまとめた日本全国からのプラバースさんのお誕生日祝いのお手紙を、ツアーの皆さんとご一緒にお宅にお届けしました。

このお手紙企画、当初は、小包でインドに郵送し→弊社ツアーの現地ガイドが受け取り→お宅まで手持ちでお届け、という予定でした。が、ツアー催行が決まったので、国際郵便事情が不安定ななかハラハラするよりも、ツアーと一緒に手持ちで運ぶほうが安心だよね、となった次第です。

そのほかにも、「いつもの日本人のあのツアー」が届け、その模様をSNSでお伝えすることで、インドの関係者に「インドに行きたくても行けないファンが日本にはもっともっといます。だからいつか来日してください。新作もぜひ日本公開お願いします」というアピールができるかなという思惑もありました。

お宅訪問の注意事項

門前訪問はNGと仰る俳優さんもいますので、マップにお宅が記載されているからOKというわけではありません。

プラバース邸については、個人旅行の方がアポなしで訪れる場合、「少人数、騒がない、短時間で済ませる」等を守り、心のなかで愛と信頼の花束を捧げていただければ問題はないと思います。お手紙は門前の警備員さんに「渡してほしい」とお願いしてみてください。モノや食べものはセキュリティ確認のご負担をかけてしまうのでやめたほうがよいです。

また、SNS上でインド側のファンとして日本のファンに近づいてくる人物には十分な注意をしてください。どんなバックグラウンドの人物なのかSNSだけでは分かりませんし、実際に会っても、信用できる相手かを見定めるには見極める判断力が必要ですし時間もかかります。

インドと日本のファン同士の交流がしたい。
俳優と知り合いだから会わせてあげる。

そんなことを言ってくる人物がいても、まずは警戒心MAXでいてください。いい人もいれば、当たり前ですが、どこの世界にも悪い人もいます。言っていることは単なる口実で、外国人女性と知り合いたいだけの人もいますし、最初は善意の人だったとしても、会ったら邪心が生まれてしまう場合もあります。あるいは、先方に悪意はなくても、こちらが振り回されて疲弊してしまうこともあります。

日本とインドは価値観も文化習慣も道徳心も、共通する面もありつつ、大きく異なる点も多いです。すべてを拒否する必要はありませんが、ひとりで会うとか、車や密室に入るとか、そのような行動はしないでください。

お子様の誕生祝い

さて、そんなこんなの背景があり、コロナ明けの4年ぶりの第7回ツアーでは、一部のお客様から、先ごろ第一子が誕生したラーム・チャランさんにお祝いをお届けしたいというご要望がありました。

チャランさんは現在、お父様のメガスター、チランジーヴィ邸にお住まいと聞きました。こちらも公になっている場所ですので、人を介して関係筋に連絡し、門前に日本からの(安全性を確認した)お品をお持ちしてよいか尋ねていました。

先方には、ツアーの概要、参加者の概要と人数、私のプロフィールなどをお伝えし、了解を得られた場合のみ、門前に伺うこととしました。不確定ですし、もともと予定していた旅程が優先ですし、ご要望をいただいたお客様以外の方にはこの時点ではなにもお伝えしていませんでした。

私は長年インターネッツオタク界に生息してきました。そして「楽しいインド案内人」と名乗り始めてからはSNS発信でここまでお仕事できてきた面が大きいです。だから顔の見えない相手に突然きつい言葉をかけられることがあっても、それは立ち位置的にしかたないといいますか、ある程度「仕事だしね」と割り切ることができます。普段はエゴサはしないのですが、そういう機会があった際には、「いったいなにが火種になったのだろう」と学ぶ機会として捉えています。

ただ、お客様はそうではありません。今回について言えば、ほとんどのツアー参加者は直前までなにも知らなかったし、皆さん何ひとつ迷惑になることも悪いこともしていませんので、私の段取りの未熟さ甘さが招いた事態に、まずはお客様に対して大変申し訳なく思いました。

ここまでで既にとても長くなってしまったので、今回SNS上でいろいろと問題となっていた、「みんなこれが知りたかったんだよね」という点を次に書きます。

訪問の経緯

以下、差し障りがない範囲で書ける事実を、できるだけ詳細に冷静に書きますが、ところどころ私の心の声がもれ出でる記述になりますことお許しください。

事前のアポイント → 前述の通り、「先方の了解を得られたら門前にお品をお届け」という前提でしたが、あれこれ質問があったり説明したりのやりとりを当日まで続けるも、はっきりした回答はなし

→ その日は朝からとても充実した1日でもあり、すべての予定を終えてホテルへ戻る途中、「(2時間後の)◯時に受け取り対応するので来て」との連絡が入る

→ 急きょ予定変更してお宅へ向かうことに

その際、閑静な住宅街に大型バスで伺うのはご迷惑になるため、1.2キロほど手前から徒歩で向かいました。ハイデラバードのセレブたちは丘の上の高級住宅街に住んでいます。皆さまには、徒歩移動はあまり想定されていない、真っ暗で周りの様子も分からない、しかし不意にライトアップされた豪邸が現れたりする急勾配の坂道を登っていただきました。皆さま、ただお祝いの品物を届けるためだけに、訳もわからず私が促すままに汗だくになりながらよくついてきてくださったと後から振り返って思いました。

→ チャランさんご夫妻が同居されている、お父様のメガスター・チランジーヴィさんの広大なお宅に到着。門の脇には小さめの戸建てくらいはある警備室。その横は、我が家の近所の児童公園くらいありそうな広場。奥に邸宅がそびえている。

→ 駐車場スペースに通される。ズラリと何台もお高そうな車が並ぶ。その脇の運転手さんたちの詰め所的なお部屋に案内され待機。大勢のスタッフさんや警備の方に囲まれ厳戒態勢

→ いつでもお祝いを渡せる体制でスタンバイしていたら、奥様のウパーサナさんが出ていらした(えっ?)

→ 「これお祝いです」とお渡ししようとしたら、チャランさんご本人が会うと言われ、中へどうぞとお招きいただいた(えっっ?)

→ ゆったりした外階段を上がると、高台からの夜景が美しい中庭。プールあり。水面にライトアップの灯りがゆらゆら揺れる。その横の、スライドドアを閉めると屋内になる仕様の「オープンエアの客間」といった風情のお部屋に通される

スターのお宅は、そのままメディア取材を受けたり表敬訪問の客人対応ができるような中庭があることが多いです(プラバース邸もそう)。プライベートな居住区はもっと奥にあり、こういった場は、ほぼパブリックスペースといってよいかと思います。ホテルのロビーのようなものかなと。

→ チャランさんがカーラ姫を抱いてにっこりご登場、ライムちゃんがトコトコついてくる(えっっっ?)

皆さんがハッと息をのむ気配を感じました。事前に「私たちは国外からの訪問者なので、感染予防のため、ごく短時間で済ませる」と皆さんにはお伝えしており、どなたも騒いだり叫んだりはなし(せめて拍手で盛り上げればよかったと自分の気の利かなさにあとから地団駄踏む…)

→ 「今日、数時間前に撮影中に顔に怪我をして傷があるのでマスク姿で申し訳ない」と奥様及びご本人より説明あり(えっっっっ? 大丈夫なんですか…?)

顔に傷ができてしまったため撮影は中断したものの、お怪我自体は軽傷とのことでした。ホッとしつつ、そんななかで会ってくれるとはなんというお方かとうまく言葉が出ませんでした…。私は通訳のため脇に立っていたのですが、「さっき帰宅したばっかりなんだよ、ほらこれ見て」と一瞬、マスクを外してくださいました。たいへん痛々しく、一刻も早く回復されるよう五体投地したい気持ちでした…。

後から思うに、このお怪我で撮影中断したため、ご在宅だったのですね。

→ カーラ姫は撮影NGとのことで(存じております…)、ウパーサナさんが皆さんのカメラやスマホを預かると言いかけ、私が「撮影はNGで…」と通訳し終わる前に、皆さん察して光の速さでバッグ等にしまわれる。その様子を見て、ウパーサナさん「あら」とびっくりされた模様

インド人ファンだったらカメラを預かるくらいの対応をしないとコントロールできないところ、皆さんの素早さは日本人ファンへの信頼をまたひとつ得るものだったと思います。

→ カーラ姫はスタッフに託され、すぐご退場(豪邸すぎてスタッフ何名いるのか分からない)

→ とにかく集合写真だけ撮らせていただいて一刻も早く退散しようと気が急き、皆さんに隊列を組んでいただき集合写真。

→ チャランさん、「せっかくだから個別写真も撮ろう」といい、「皆さんはマスクを外したら?」と促される(えっっっっ?)

→ ひとりずつ並んでいただく。効率よく流れ作業で写真撮影…と思ったら、チャランさん、ローテーブルにスッと腰を下ろしてしまう。そして最初の方に、「あなたのお名前は?」とお聞きになり、名前入りのサインをし、二言三言、言葉をおかけになり…。効率ってなんですか。

これ17名が終わるのいつになるのでしょうかと焦りつつも、落ち着きはらったチャランさんを眺めていたら、この方はこうするとお決めになったのだ、だったらもうお任せしよう、とハラをくくることができました。必要そうなところでは私も通訳に入ったり、見守るウパーサナさんとお話したり。

ちなみに、皆さんはなにも準備する余地がなかったので、仲介してくださった方がサイン用にチャランさんのブロマイドをご準備くださっていました。至れり尽くせり。

こちらはお祝いの品を運んだ参加者の方が、万が一のためにずっと持ち歩いていた垂れ幕

以上が大まかな経緯です。

この先は、このような手厚い歓待の背景にあると考えられること、そしてこぼれ話などが続きます。ご興味ある方はお付き合いください。

インドの俳優さんと業界構造

ここまでお読みになって、日本の芸能界ではまずありえない話に驚かれた方も多いと思います。

インドには、いわゆる日本でいうところの「芸能事務所」というものがあまりありません。私が知る範囲で、あることはあるのですが、例えば「ミュージカルシーンのバックダンサーを所属させて派遣する専門事務所」のように、映画を支えるその他多数の出演者のためのものでした。

スター俳優たちのほとんどが、家族や親族など近親者がマネジメントや対外交渉を担当していると聞きます。映画の主役を張るトップスターたちは、その多くが「何世代にもわたって一族をあげて映画界で活躍する家系」の出身です。ちょっと日本の歌舞伎界に似ているのかな、と思います。

そんななかで、親族ではないけれどスター陣営にいる人たちがいまして、日本でいうところの広報担当者とでもいいましょうか、スターを支え、ファンを代表するような立場の方たちがいます。

持ちつ持たれつ

今回、このような大歓待を受けたのはいったいなぜだろう。ツアー参加者の皆さんのなかにも、そのように不思議に思われた方がいらっしゃったようです。以下、私の主観も入りますが、大筋は間違っていないだろう理由です。

第一に、こういったご招待を決めるのは、まずは俳優さんの周囲の関係者です。前述の、スター陣営にいる広報担当者などです。彼らの意図は、日本のような遠方から、ファンがわざわざスターに会いにきたことをPRすることにあります。

過去にこのツアーのプラバース邸訪問がこういった関係者側のSNSに投稿され大バズりし、ついにはインドのメジャー誌の記事やニュースになったことがありました。グローバル展開するボリウッドではなく、一地方映画界とされてきたテルグ語映画の俳優が日本にまでその名を轟かせているのは、ラージャマウリ監督もいつだったか触れていましたが世界でも類をみない現象であり、俳優の格をさらに押し上げ、ステイタスにもなります。

だから今回の訪問についても、会わせていただけたのは、まずはそのような明確な意図がありました。人数やプロフィールなど聞かれていたのはそのためです。

私としては、先によくしていただいていたプラバース陣営への義理がありますし、お客様たちもそういう展開になるとは予想だにしていない状況でしたので、PRに協力はしたいが、極力、カドが立たず、かつ、なりゆきでその場に居合わせただけともいえる私の大切なお客様たちの意図しない露出にならないといいな、というのが正直なところでした。

事後1か月ほど、先方でどのような話がされていたのかはわかりませんが、間に入ってくれていた方のご配慮もあり、皆さんをなるべく特定しない形で出たのが、先日のチャランさん側の関係者による「お子様誕生のお祝いに日本から訪問」の投稿だった次第です。

あくまでインド側へのPRアプローチだと思っていたので、私のほうでは写真や文面の細かいチェックはしておらず、日本側のファンの方にとっては、背景や経緯がよく分からない投稿となりました。

ご説明が遅れたことについて

私にとって、自分が企画したツアーに貴重な時間とお金を費やして参加してくださったお客様は、なによりも大切な存在です。ご旅行中の楽しい思い出を最大限、守ってさしあげたいと考えています。

これらの投稿がトレンドにまで上がった際、まず思ったことは、下手に情報を出すことで、批判の矛先がお客様に向かい、せっかくの良い旅にケチをつけては申し訳が立たないということです。このツアーの費用は決して安くはないですし、お休みを調整するのもそれぞれに大変な思いをされていますし、ましてや行き先はインドですので、普通の方はそうそう何度も気軽に行けるものではありませんのでね。

これまでこういった不意のラッキーに恵まれた方たちがそのエピソードを披露されたとき、一定数の心ない言葉を投げられるのを見てきました。

厳しい言葉を連ねている方たちはインドの事情をご存知ないし、ましてやこれまでやりとりがあったわけでもない、見ず知らずの方たちです。利害関係がない相手にそこまで説明する義務はないのではないか。

今回のことも、仮に言葉を尽くして説明しても、私が私の視点で見たことや経験したことは他所様には違う印象を持たれてしまうこともある。だから、大切なものを守るために、ここは何も語らないで沈静化を待とう。

数日前までそのように考えていました。
でも、そういうの、ちょっとよくないですね。

私が少々やさぐれている間に、ご自身はなんの関係もないのに、ツアーのこれまでのことや私のことを説明してくださっているフォロワーさんや過去のツアー参加者の方々がいることを知りました。中には私を心配して直接連絡をくださる方もいらっしゃいました。ちょっとひと言では表せないほどありがたいことです。

思えば私が「楽しいインド案内人」としてここまで来られたのは、SNSのつながりの、こういったやさしさのおかげではなかったか。案内人を名乗るなら、伝えられることはすべてお伝えして、すこしでも分かっていただく努力をするべきではないか。

そう思うに至り、この文章を書いています。

訪問こぼれ話いくつか

というわけで。インドに行きたくてもなかなか事情が許さない人たちの想いも一緒にお届けしたいとプラバースさんのお手紙企画の運搬をお受けしたように。

せっかく貴重な体験をさせていただいたのだから、還元していきたいと思います!

後ずさり

カーラ姫を抱いてチャランさんが登場されたとき、「うちの娘だよー」と皆さんに近づいていかれると、皆様、何か言葉を発して飛沫が飛んではいけないし、触るなんてもってのほか! とばかりに後ずさり。

チャランさん、さらににじり寄っていき、その一角にいらしたお客様の、無言の「うわぁぁぁぁぁ」が聞こえてきそうでした。グイグイいかずに後ずさる。こんな行動はインド人ではありえないことです。日本人の奥ゆかしさ、ここでも十分に伝わったと思います。

ライムちゃん

トコトコ登場したライムちゃん、人が多い場所には慣れているなぁ堂々としているなぁと思っていたのですが、やはり緊張したのか、大事なパパがとられると思ったのか、チャランさんの足元のローテーブルの下に隠れてしまいました。ちょっとワンワン鳴いてもいます。私も昔、猫様がいましたので、ストレスを感じているなと申し訳なく思いました。

するとウパーサナさん、「いまから演技をするけどあとでちゃんと戻りますからね」と私たちに言いおいて。

「ライミー、ライムー、ママはもう戻るわよー、じゃあねー」
と、プールサイドを通って奥へ行くフリをします。

ライムちゃん、やっぱり出てきません。

するとチャランさんも一緒になって「絶対に戻ってくるからちょっと待ってね」といって、ご夫妻で声を合わせて「ライムー、もう戻るわよー」と呼びながら、ライムちゃんをローテーブル下から呼び出す作戦。

やっと出てきたライムちゃん、チャランさんのあとを追いかけてプールサイドへ。そこをチャランさんがキャッチ、抱き上げてスタッフさんに託し、私たちに向かってちょっとお芝居風に、

「やれやれ、ふう」

と額の汗を拭う仕草をされました。あまりにキュートすぎる寸劇でした。

やっと出てきたライムちゃんをキャッチ
スタッフさんへ託し
「やれやれ、ふう〜」

ビスコの件

サインを続けながら、チャランさんが不意に「◯◯は今回は来てないのか」とお聞きになりました。「今回はご一緒していないのです」と答えたら、「そうか、彼女は元気かな、よろしく言っておいてね」と。

そのとき私は同じ名前の別の方と勘違いしていたのですが、そのやりとりを聞いていたお客様が、後からどなたのことか教えてくださいました。「ビスコのあの方」のことです。帰国後すぐ、ご本人にその旨お伝えしました。ファンのことをほんとうによく覚えてくださっていて、こちらまで嬉しくなりました。

私の勘違いを教えてくださったお客様もGood Jobで、ありがとうございます!

盛りすぎ

ウパーサナさんには、「これだけの人数の女性をインドに連れてくるのは大変だったでしょう」と声をかけていただきました。

ハイデラバードの印象とか、ツアーでどんな場所に行くのかとか、このメンバーはどういう集まりなのかとか、緊張している相手(=私)の気持ちをときほぐす、さすがの話術です。こういう方がそばにいるから、チャランさんはチャランさんなんだなぁとしみじみ思いました。

ちょうど仲介してくれた方もそばにいて
「このレディたちはね、山道を2キロも歩いてきたんですよ!」
と合いの手をいれてくれました。

あとでApple Watchの歩行記録を確認したら1.2キロほどだったのですが、大袈裟に伝えてくださってありがとうございます。インドの人のこういうところが好きです。

ガル(テルグ語で「〜さん」の意)

ウパーサナさんに、「チャラン・ガルはもちろん大人気だけど、来日時のウパーサナ・ガルのInstagramはいつも大きな話題になったし、あなたのファッションやライフスタイルに共感して、夫様と同じくらいたくさんのファンがいます。責任ある仕事をしながらの育児はとても大変だと思いますが、日本の女性たちもとても勇気づけられています」

とお伝えしたら、本当に嬉しそうなお顔をされていました。

あと、私がお名前に「ガル(チャンペイのほかに唯一知っているテルグ語)」とつけるたび、ほんのちょっと「クスッ」とされていたような気がします。

ランガスタラム

チャランさんが映画『ランガスタラム』のポスターにサインをされていたときのことです。

「そういえば日本で公開されるって聞いたよ?」
「すでに公開されています」
「おお、そうなんだ。観た人いる? どうだった? 」
と周囲を見回され。

通訳して皆さんにお伝えすると、皆さんウンウンと頷いたり、ジェスチャーで「よかった」と表現されていて、それをご覧になったチャランさん、とても嬉しそうでした。思い入れのある作品ということで、直接、観客の反応をご覧になり、喜んでいただけたのかなと思いました。

ドスピーちゃん

今回は事前になにもお伝えしていなかったので、なにか感謝の気持ちをお伝えしたくても、もともとお届けする予定だったプリザーブド・フラワーのほかには、お客様たちはなにもお持ちになっていませんでした。

そんななか、お写真の撮影用にドスピーちゃん(商品名「RRRマスコットチャームセット」」、通称ドスピーちゃん)をお持ちだったお客様が、チャランさんにサインをいただく際、思わず差し出されたそうです。

にこにこと観察されて、
「こっちが僕だね」とポッケにしまわれたとか。チャランさんのポッケにドスピーちゃんです、皆さん。

貴公子チャランさん

何人目かのお客様へサインをされている際、手をちょっと休めて、ぽろっと

「今日は怪我をして落ち込んでいたし、悪い日だと思っていたけど、You guys made my day, thank you(あなたがたのおかげでいい日になった、ありがとう)」

とおっしゃいました。私には、それはリップサービスではなく本心の言葉に聞こえました。

スッと背筋が伸び、何気ないすべての所作まで美しく、スターとして生まれスターとして育ち、スクリーンで圧倒的な存在感を放つチャランさんが、そのとき、とても地に足のついたひとりの人間に見えました。

ご自分の立ち位置は、圧倒的多数の庶民層のファンたちによって支えられていることを理解され、そのファンのために、一点の曇りもない人間であろうとされているのだと、そんなふうに感じました。

目から水がこぼれる

チャランさんのひとりひとりへの対応が丁寧すぎて、ご登場から1時間以上がすぎました。

なかなかの長丁場になっているのを心配して、ウパーサナさんが「そろそろ…」とお声をかけても、最後のひとり(私もサッとお写真だけ撮らせていただきました…)まできっちり対応してくださいました。

最初、集合写真の隊列を組んでいるとき、チャランさんのくつろいだお顔、皆さんの笑顔、そういうものを眺めていたら、ちょっと込み上げるものがあったんですよね。

スタッフの方が気づいて、「会えたのが泣くほど嬉しいのか」というようなことを話してましたが(そしてご本人には「ちょっとちょっと泣かないでよ」と言われ焦る)、私が落涙したのは、会えて嬉しいというシンプルな喜びというよりも。

このような人格と謙虚さを持ち合わせたスターを生み出した土壌の豊かさ。

インドの由緒ある映画ファミリーの懐の深さ。

ことの成り行きが分からないまま坂道を延々歩かされたお客様たちの、わけが分からないという様子ながらも礼儀正しい品行方正さ。

いろいろな想いが頭の中をぐるぐると回っていました。

お土産のお菓子

お別れのとき。なんとお土産が用意されていました。

皆さんの前にたち、ご挨拶をされるチャランさん。

「いま撮っている新作が完成したら、ぜひまた日本に行きたい。約束はできないが、待っていてほしい」

そんなことをおっしゃっていました。

ひとりひとりにお土産を手渡ししてお見送りをしてくれるチャランさん。

立ち去りながら振り返ると、ポッケに入れたはずのドスピーちゃんをまた手に握ってバイバイされていました。チャランさんの手にドスピーちゃんですよ、皆さん。

ずっしり重いお土産は、夫妻がイメージキャラクターを務めるハイデラバードの有名菓子店のミターイー(スイーツ)詰め合わせでした。お子様誕生のときに関係者に配られたのと同じお店のものだと後から友人に聞きました。

こういったお菓子は、神様にお供えしたり、お祭りや、なにかのお祝いのときに皆に配ったりする、たいへんおめでたいものです。インドの美味しい牛乳やナッツ、香りのいいスパイスなどをふんだんに使って、贅沢につくられるもの。ハイデラバードにお越しの際は、ぜひこちらのお店でご賞味いただければと思います。私も次回、購入しようと思います。

ちょっと個人的な話です

私はかれこれ26年間、インド映画に恋し続けてきました。途中で別の業界に身を委ねるも、結局はインドに関わる仕事をしてきました。

かつては映画のためにインドに行くなんてイロモノ扱いで、世界の隅っこで小さくオタク道を歩いてきたけれど、気づけばなんだか仲間が増えている。

2015年、まだ会社員だったころ、もっと普通に日本でインド映画が見られるようにしたい、いずれ独立してインド映画の配給をしようと思い立ち、休暇をとってムンバイの配給製作会社の何社かに商談に出かけたことがありました。

私の上の世代の偉大な先達が何十年も試みてきたにも関わらず、当時は相変わらず日本など重要なマーケットとは思われておらず、また私自身も配給の経験もなく、箸にも棒にもかからないという感じで大玉砕し、すごすごと帰国便に乗り込みました。

あれから幾年、いまや日本ではインド映画の供給大渋滞が起きている。

ただ、人口比で言えば日本はまだ小さいマーケットと思われているフシがあります。日本のファンはBlu-rayが発売されたって上映があれば何度だって映画館に通うし、グッズ展開やコラボ企画もポテンシャルしかないのに。

作品そのもの以外でも、たとえば映画村のラモジ・フィルム・シティは相変わらず日本からの旅行者には行きづらく、ハイデラバードそのものも情報が少ない。日本人が安心して個人旅行できるハイデラバードの徹底ガイドブックを制作しようと働きかけてはいますが、これだ!という出版社が見つからない。

供給は増えてきたけれど、まだまだ私には足りない。

インドさんよ、もっとオレたちのことも見てくれよな、人口はインドよりずっと少ないけど、熱は高いんだ!

そんな思惑があって、ツアーや視察のたびに現地関係者に地味にロビー活動をしています。

あなたが私の1日をつくる

今回のチャラン邸での長時間にわたる歓待は、私たちからしたらとてつもないファンサービスであり、人柄であり優しさの表れなのは間違いありません。単なるPRの一環を超えて、ほんとうに、なぜあそこまで心を尽くしてもてなしていただけたのだろう。

思い出したのは、チャランさんが裸足でいらしたことです。これはあとから気づいたのですが、私たちが訪問したのは、彼が信仰するアイヤッパン神への願掛けを行っている期間のことでした。この行を行うときは、黒装束に裸足、菜食で過ごします。

すこし、話がタイムトリップしますが。

昔、長い時間をすごした聖地バナーラスに、顔見知りの物乞いのおじいさんがいました。毎朝、小銭を渡していました。

にこにこと受け取りながら、「もっとくれてもいいんだぞ、ほらあと10ルピーくれ」とおねだりされ、やけに堂々とした(態度の大きな)物乞いだなといつも思っていました。

あるとき「なんで施される側があんなにエラソーなの」と地元の人に話しましたら。

「あのじいさんはアンタに徳を積ませてくれとるんや、感謝するのはアンタのほうや」

インドの価値観わかんないなー、すごい屁理屈だなー、とそのときは思いました。

20数年後の数日前、ふとそのことを思い出しました。そしてスッと腑に落ちました。

You guys made my day, thank you.
あなたがたのおかげでいい日になった、ありがとう。

ああ、そうか。彼はその篤い信仰心から、ごく当たり前のこととして、目の前の事柄(=私たち)についての善行を行なっていたのだ。もしかしたら私たちは、チャランさんが徳を積むお手伝いをさせてもらったのかもしれない。

恐縮だとか、ご迷惑とか、そういう話では、ないと思うのです。双方に愛と敬意があっての、極めてインド的な善行の循環だったのではないでしょうか。その一部に触れ、参加できたことは、誇りに思ってよいことではないかと思います。

そして今回のことを私の知らない間にサポートして助けてくれたフォロワーさんやお客様たちや友人の皆様も、その輪のなかにいると思います。この文章の下書きをチェックして、こうしたらどうかとご提案くださった、今回の参加者の皆さんも、ほんとうにありがとうございます。私は皆さんに育てていただいている。

最後に

さて最後に。弊社のツアー企画はいまは私のメインの事業ではなく、普段は別の会社の別の事業に奔走しています。生活の糧はそちらです(おかげさまでそちらは順調です)。

商売として考えれば、サブのほう(悔しい)の弊社のツアー企画という商品はまったく採算がとれないですし、来年は50歳の節目。年齢的に、気力体力勝負のツアーはそうそういつまでも続けられるものでもありません。

次の一歩を若い世代が歩ける道をつくるには、どうしたらいいのだろう? 四六時中そんなことを考えています。弊社3期目の収支を眺める税理士さんに「趣味で会社やってんじゃないよ…」という視線を送られつつ、でもこんなことは単なるビジネス思考では絶対やってられないわ。

私が若かったころに日本へのインド映画紹介の道を作った先輩たちがいて、いまもまだその知見をもってバリバリ現役で走っていらっしゃる。その道をエッサホイサと辿っている私は、さらに広い道をつくり、次世代に繋いでいきたい。

皆さんご一緒に、この深い沼を整備して、楽しく、気持ちよく歩ける道にしていけたら、いいですね。

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