見出し画像

怪しい彼女

下町の風呂屋にパートで働く70過ぎのサッチャンは戦争孤児だった。同じく孤児だった頭の禿げた風呂屋の親父は、サッチャンの幼馴染み。口が悪いサッチャンには友達がいない。若い頃に夫を亡くし、女手一つで体の弱い娘を育て、その娘も離婚して一人息子がいる。孫息子はヘビメタのギタリストだが、全然売れてない。そんなある日、サッチャンはある写真館で写真を撮ってもらう。若い頃は貧しくて結婚式もできず花嫁写真も撮ったことがない。そんなサッチャンが写真館の主人に、オードリー・ヘプバーン風に撮ってほしいというと、主人は写真に不思議な魔法をかけて、サッちゃんをヘプバーンのような二十歳の可愛い娘にする。容姿は20歳の娘なのに、心は70歳過ぎのおばあちゃん。やがて町内の歌謡コンテストに出たことで一躍人気者になり、たまたま出くわした音楽プロデューサーの目にとまり、孫息子のバンドに入ってあれよあれよという間にスターになっていく。若い頃、さんざん苦労して女性的な楽しみを味わってこなかったサッチャンにとって、若い頃にできなかったお洒落をしたり、仲間とキャンプに行ったり、恋をしたりと青春を謳歌するのだが、やがて「ローマの休日」のように、現実にもどらなければならない時がくる。この残酷さ。しかし、彼女は敢えて元の婆さんになる事を決意するのだ。

老いるというのが必然である以上、再び若くなりたい、いつまでも若くいたいというのは全女性の願いかもしれない。自分自身は変わらないつもりでも、周りの目が違ってくるから、否が応でも年齢を突き付けられるのだ。だけど、若さだけが人間の魅力じゃないのよ、とサッチャンは言いたいのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?