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昭和セピア色のこんなハナシ ep03.「のんちゃん、庭の肥溜めに落ちる」の巻。

バキュームカー登場の前

中学1年の時だったと思う。英語の先生が「北斗七星」を英語で何と言うのか?

みたいな話になった。それは「Big Dipper」と言うんだよ・・、と。

それは、たまたまあの強烈な臭いが漂ってきたからだと思う。

その正体はバキュームカーから発せられるのだ。トイレの外の汲み取り口に大きなホースを挿し込み、車の貯槽タンクの空気を抜いて糞尿を吸い取るのだが、つまり抜かれた空気が周辺に強烈な臭いを拡散することになる。

最近では分からないが、平成になっても一部の地域では、古いアパートなどのトイレにはバキュームカーが重要な役割を担っていた。

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ところで、バキュームカーが登場する前、今でこそ考えられないかも知れないが、東京と言っても昭和20年代後半~30年代初期くらいまでは汲み取り式便所が当たり前の時代があった。

作業員が各家庭を回って、便所(当時はトイレなんて洒落た言い方はしない)の汲み取り口の蓋を開け、溜まった糞尿を「大きなひしゃく」で汲んでは木桶に注ぐことを繰り返す(ちなみにすっかり汲み取った後に汲み取り賃を払っていた)。し尿桶は2個、作業員は天秤棒でバランスを取りながら担ぐのだ。

路地から路地を回って、し尿が一杯になった桶は通りに置かれたリヤカーに積んだり、場所によってはトラックに積まれる。

で、話を元に戻そう。その「大きなひしゃく」こそ、英語の先生が言いたかった「Big Dipper」ということだったのだ。学校のトイレにやってきたバキュームカーの臭いから連想して、つい最近までは作業員が手作業で汲み取っていた「大きなひしゃく」という訳だ。生徒の反応はと言えば、連想を理解してか、皆んなが笑っていた。

さて、汲み取り式が全盛だった頃の話になる。

とは言っても、汲み取り作業が巡回してくるまでは、家族が多い家庭はすぐに溜まってしまう。

のんちゃんの家は小さな庭があった。オヤジさんが庭の隅っこに肥溜めを掘っていたようだ。その庭の後ろはちょっとした崖のように、3メートルほどの高さがあって、勾配は30度位だったかもしれない。

うろ覚えではあるけれど、当時、のんちゃんは小学1年生位かその前だったのかと思う。どういう訳かは知らないが、のんちゃんは土がむき出しの崖によじ登ったようで、おそらく足を滑らせたのだろう、ズルズルとずり落ちてきて、そのまま件の肥溜めにズボッと落ちてしまった。

一緒に遊んでいた子どもたちが大騒ぎしたものだから、普段、家で仕事しているオヤジさんが何事かと飛び出してきた。糞尿まみれの息子、のんちゃんに何度も何度も、井戸(当時、井戸も普通にあった)で汲んだバケツの水をぶっかけたのは言うまでもない光景だ。

のんちゃんは怖さと水の冷たさにブルブルと震えていたようだった。


最後までお付き合い頂きありがとうございました。

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