昭和セピア色のこんなハナシep08.「浴衣姿のミコとの縁日」の巻。
広尾商店街の縁日
曖昧な記憶ではあるのだが、その界隈では5の日が縁日だったと思う。夏のその日、日中の暑さから少しばかりの夕涼みとなって、ほんとに賑やかだった。
露天商が商店街の道筋に所狭しと並ぶ。幼い子供を伴っての家族連れ、小学生や中学生たちのグループ、若いカップルやら、今風に言うところのナンパ目的のヤンチャたち・・。
そんなわけで、縁日に合わせるように久しぶりの休暇をもらって、ミコとのデートが嬉しかった。
彼女の頬は、カーバイトランプのゆらめく灯りを映し、ほんのり緋色に染まる。浴衣姿の彼女はまばゆいほど可愛いかった。綿あめのシンプルな甘さとミコのほほ笑みを添えてひと時の幸せがあった。
嬉しさには代償がつきものだ。ミコを家の前まで送って、また数か月、今度はいつ逢えるのか・・。
なんでなんだ。こんなにつらいなんて、俺は知りたくなかった。
縁日とは。それはカーバイトランプの鼻を突くようなアセチレンガスの臭気。そして、馬鹿な俺が失ったもの。ミコとの別れの序章だったのか。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。