HDRはSDRよりも幅広い輝度情報を持っている、という大嘘。

HDR、SDRよりも幅広い輝度情報を持っていて素晴らしいのだ、というのをよく見る。

”想定する表示系”だけ見ればその通りではある。ST2084は0~10000cd/m2を想定しているし、HLGでも今のOOTFでは1000cd/m2を想定している。

では信号としてのそれらは一体どこまでの輝度情報を持ち得ているのだろう。

ここで1枚の写真を見てみよう

画像1

四月は君の嘘をHDR化し、それがSDRディスプレイ上でプレビュー表示しているものだ。
プレビューは擬似的にビデオプレビューにLUTを使い、HDRのトーンに近づけているが、あくまでSDRである。

大事なことは明るい部分の輝度が何cd/m2あるかということだ。
右に波形を表示しているが、200cd/m2も超えるような輝度まで使用しているのが分かる。(*輝度はGの依存が大きい)

HDRを理解できていないものはこう言う。
SDRは100cd/m2だ!それ以上は入っていない。HDRには出来ないんだ!自分が出来ないからそうなんだ!、と

もう一度上を見てみよう。そういったものが主張する通りに従い、本来100cd/m2でこれを切れば真っ白になってしまう。

出力時RCM設計

100cd/m2までを含む映像、とはこの様な状態であり、HDRを理解できないものの思い込みの通りならSDR映像は白飛びばかりした映像になるはずだ。なぜそういったものの思う通りにならないのだろう?
答えはSDRが持っている情報は100cd/m2以上まで入っているから、ということになる。
SDRは表示系こそ100cd/m2を想定しているが、そこに入っている情報は1000、いや、それ以上も持っているのだというのが答えである。
見せ方としてそこに乗算される係数や、ハイライト、シャドウ、ミッドトーンのどこの階調がリッチか、などの違いはあれど、信号としてはHDRもSDRもないのである。
勘違いするものも多いが、映像情報として考える場合、それはどうあがいてもただの0-100%でしかない(リーガル/データはここでは考えない)

出力時ノード設計

これはst2084をそのままSDRで表示した例である。
先程のショットと異なり全体的に暗くコントラストが低い。これはガンマが異なることに依存しているだけで、SDRだから高輝度部がクリップされるなどありえないというのが分かる。
*作り方が酷いとクリップされたような画もある。

ではSDRはいったいどういった画なのだろうか。

編集時RCM設定

これは先程暗く低コントラストだった画にLUTを当ててSDRに変換したものである。変換と言ってもガンマ2.2環境でHDRでの見え方を再現できるようにしているだけだ。
ここでの違いは単純に必要な色の強さや明るさにおいて、本来よりも弱くなる傾向があるという程度でしかない。

これはHDRディスプレイが何かと言うのを考えると理解は容易かもしれない。
それは超高輝度広色域のディスプレイにHDRガンマと2020に対応したLUTを当てているだけに過ぎない。
つまりその本質はただの高性能SDRディスプレイである。

つまりSDRで作ってある映像も、本質的に持っている情報は十分HDRなのだ。
制作者の意図や想いは今のHDR規格すら超えるような広大な色空間だ。それに近い見た目となるようにSDR上で画を作っているに過ぎない。誰もそれを100cd/m2で切り取ってなどいない。

逆に、敢えて言おう。
SDRは100cd/m2までの情報を切り取ったものだからHDR化出来ない?
クリエイターを馬鹿にしているのか?と

クリエイターの意図、想いを汲み取り、すくい上げることでSDRはただしくHDRにマッピングされる。
本質的に映像規格を理解し、色と光を空間で捉える。そして人の気持ちに寄り添う、想いを汲み取ることがHDR化に最も必要なことだ。

彼らが表現したかった、思い描いた本来の画をそこに映し出してやる。
世界に存在する映像の99%以上は所謂SDRの状態だろう(ログ、RAWも正しくグレーディングしなければHDR素材ではあるが視聴はSDRだ)
それらの全てをあるべき姿で見てやる。それこそが今出来るクリエイターに対する最高の礼儀ではないだろうか。
SDRで諦めていたものも、本当は救えるのだ。

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