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2022年6月11日『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』生コメンタリー上映会イベントレポート


2022年6月11日(土)、池袋のHall Mixaにて『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』生コメンタリー上映会が催された。

本イベントの主催は都内を中心にアニメーション作品の上映活動を行っている合同会社クーベルチュール。
過去には今敏監督特集やスタジオ4℃特集などを開催してきたが、スタァライトに関しては2022年2月のザムザ阿佐ヶ谷でのシリーズ一挙上映で演劇を行う場での上映会を実現。ちなみにザムザ阿佐ヶ谷は『少女革命ウテナ』舞台版が公演された場所でもある。続いて、4月30日に秋田県での初上映、5月7日に青嵐総合芸術院のキャスト御三方を招いての舞台公演『少女☆歌劇 レヴュースタァライト -The LIVE-#2 revival』上映会を主催している。

今回の生コメンタリー上映はゲストに監督の古川知宏さん、副監督の小出卓史さん、脚本の樋口達人さんを迎えて開催された。象徴的な表現を用いた演出が多用され、他の映画からの引用や小ネタも満載な作品なだけに、詳細な解説が望まれていた中での開催とあって140席のチケットは発売開始から10分以内に完売。アクセス集中で発売サイトが一時的に繋がりにくくなる事態となった。初公開から1年が経過している劇場版だが、まだまだファンの熱量は衰えていない。熱いファンの後押しにより、急きょ生配信での同時視聴再生会も決定。SNSではハッシュタグ「#劇場版スタァライトコメンタリー」を用いた感想が多数投稿された。

コメンタリー開始前の挨拶にて、古川監督からは「今日は答え合わせではありません。皆さんが最初に受け取って感じたものが正解です。」と前置きがあったが、いざ始まってみると次々と詳細なディティールやシーンに込めた演出意図の解説が展開されていく非常に情報量の多いコメンタリーとなった。ロジカルな解説を入れつつも、「髪をかき上げる大場なな」「ドリルを持つ大場なな」「軍服の大場なな」「大場ななは背が似合う!」など要所でフェティッシュな話題も多い楽しい雰囲気での進行だった。

コメンタリー中で何度も話題となったのがカットされたシーンの存在。樋口さんによれば劇場版には「嘘の決定稿」が存在したそうで、その脚本では上映時間が2時間半に及ぶ長尺な作品となってしまうものだったという。一例を挙げると、序盤の愛城華恋が一年生を案内するシーンは当初もっと長いシーンとなる予定であり、ほとんどのセリフをカットしてしまったという。その他にも全体的に会話シーンでのやり取りはもっと長くなる予定だったが、上映時間の都合で説明的なセリフがほとんどカットされ、口上やインパクトのあるセリフが連続するパンチラインの強い作品となったそうだ。

2時間半から2時間以内に納める編集を行ったアニメーション映画といえば、『ガールズ&パンツァー 劇場版』と『クラッシャージョウ』を筆者は想起するが、両作ともに破壊的なスピード感のある傑作だった。劇場版のスタァライトもそれらに並ぶスピード感のある傑作だと思うが、制作の過程でも近い状況だったことは驚きだ。

監督曰く「観客の鼓膜を破り、目を潰す」ことが劇場版の目標だったという。

「鼓膜を破る」点については「東宝のダビングスタジオで音量レベルが振り切れる寸前だった」と語られているように、劇場版スタァライトは音のデカい映画として有名だ。映画冒頭のトマトの破裂音や続く分厚いオーケストラの音など、開始5分だけでも音に驚かされる瞬間が多い。コメンタリーでは決起集会のシーンでのドリル音が大きすぎて音量レベルの調整で苦労したこと、後半のシーンの鳥の鳴き声に関する裏話など、音に関する話題だけでも十分すぎるぐらいに濃密な話題が続出した。

迫力のある音についての話題がある一方で、細かな音響演出についても古川監督の解説がされていた。一例を挙げると、雨が降る回想シーンへとカットが切り替わる直前に雨の音響効果を入れて繋げる演出があるが、これは絵コンテの段階で想定されていたものらしく、古川監督の音への拘りが感じられた。

「目を潰す」点については随所で入る光の演出が解説されていた。口上シーンでのライト演出では観客に向けられる光はより強く長い時間になり、レヴューのシーンでは場面によって画面を真っ赤にするような色彩設計を行うなど、テレビシリーズのときよりも極端な光の演出を取り入れたことが語られた。「怨みのレヴュー」のシーンで登場するデコトラの電飾パターンや、口上シーンの演出についてはCG監督の神谷久泰さんへの感謝が古川監督や小出さんから度々出ていた。ちなみにデコトラについて「アニメ業界一のデコトラマニア」を自称する古川監督によれば、双葉が70年代、香子が90年代に流行したデザインとなっているそうだ。

別のインタビューでも古川監督が何度も語っていたのが体験する映画にするという狙い。古川監督によれば「スタァライトのファンは都市部の人が多いと聞いていたので、電車に乗って劇場へ向かうことを想定して電車をモチーフとした。帰宅するときに映画を思い出して鑑賞後の余韻に浸ってもらえるような体験をしてほしかった」という。「鼓膜を破り、目を潰す」と強い言葉が出ていたが、これも観客に体感させる映画とするための工夫だったようだ。大迫力の音響を自宅で再現することが困難なのはもちろん、強烈な光の演出はテレビ放送では身体へ悪影響がある場合もあるため、自粛の対象となる。アニメーション映画で一般的な縦長のビスタサイズの画角ではなく、横長のシネマスコープサイズを採用した点も含めて、劇場作品ならではの要素を詰め込んだ映画作りがされていたことがわかる。

コメンタリー中は副監督の小出さんと古川監督との制作現場に関する話も印象的だった。お互いの仕事ぶりを振り返ってセルフツッコミを入れ続けるお二人のトークで会場は何度も笑いが起きていたが、要所で小出さんが加えたダークな演出アイディアの数々が明かされるのも面白く、このようなトークが可能なのは信頼関係があってこそだと言える。小出さんと古川監督の共同作業が作品の完成には欠かせなかったことが雰囲気だけでも伝わった。

劇中では電車内の広告や学校の資料にシークフェルト音楽学院や青嵐総合芸術院といった、アニメ本編には登場しないゲームや舞台で登場する学園の名称が映る。これについて古川監督は「別時空の話にはしたくなかった。同じ世界の話として繋げることが自分の責任だと思った。」と語る。青嵐総合芸術院をメインにした舞台公演が行われ、シークフェルト音楽学院中等部の舞台も予定されるなど、広がりを見せるスタァライトユニバースの一部としてアニメは存在している。

エンドロール中はイラストレーターのめばちさんによる登場人物のその後が描かれるが、樋口さんによればエピローグのシーンを別個に作成する予定があったという。上映時間の問題でカットされたそれらのシーンがエンドロールに反映された形だ。エンドロール中にクレジット以外の文字を表示することは通常プロデュースサイドにあまり好まれないそうだが、監督によれば「この映画の場合は誰も反対しなかった」という。作品のために皆が理解して協力してくれたこと、視聴者に対する感謝で配信は締めくくられた。

会場では配信終了後にアフタートークも実施された。ここでサプライズゲストとして作品立ち上げから携わり、劇場版のプロデューサーとしても参加した武次茜さんが登壇。当時を振り返っての思い出話をしていただいた。

古川監督によれば、テレビシリーズ第1話のダビング中、初監督で不安のある中、「絶対このアニメ面白くなる!」と断言する武次さんに大いに助けられたという。武次さんからシリーズの打ち上げの際に劇場版の打診をされた際に監督は「狂っているのか!」と返したそうだが、これが実現して逆に武次さんから「こんな変な映画」と言われるものを作ってしまうところもまた面白い。

「変な映画」となった劇場版について、小出さんと樋口さんは「もう一度作れと言われてもできない」と語る。樋口さんによれば「脚本の敗北を感じた作品。通常の脚本には物語を語る瞬間が必ずあるが、物語をそぎ落としても登場人物の感情と情報のディテールを密に描くことで映画は成立する、ということをこの劇場版で思い知らされた」という。これは脚本の作品への貢献度が低いという意味ではない。制作過程、スタッフ、熱いファンの存在などの条件が組み合わさって生まれた奇跡的な映画が『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』なのだ。

イベントの最後に古川監督は「業界の流れ的に10年後にはスタァライトのような作品はなくなると思います」と未来の話を切り出した。原作に忠実な作品作りが近年の業界の潮流だが、スタァライトのような表現が突出した作品は減っていくだろう。しかし、古川監督はこうも続ける。「でも、20年後には反動で必ずまた出てきます。そのときに負けずに潰します!」と今後の活躍に期待できる言葉でイベントは幕を閉じた。

こうして公開1周年を記念した上映が大いに盛り上がって終わった劇場版スタァライトだが、上映はこれで終わりではない。7月8日からイオンシネマ福岡、7月9日から沖縄県那覇市の桜坂劇場、7月11日から名古屋市の大須シネマ、7月16日から立川シネマシティなど、初上映となる県を含む数々の地域で上映が決定している。劇場で未見の舞台創造科の方には是非この機会に体験していただければと思う。

劇場版少女☆歌劇レヴュースタァライト公式サイト
https://cinema.revuestarlight.com/

主催クーベルチュールのWebサイト
https://www.couverture-llc.com/home

文:庵野ハルカ(https://twitter.com/anno_haruka)

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