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第6夜 基礎を押さえる!動物福祉・動物愛護・動物の権利

第6夜は、サイエンスアゴラの準備期間に入る前の回ということで、動物福祉、動物愛護、動物の権利という考え方を改めて整理する回としました。
ただ定義を並べてもこの会らしくありません。

そこで、いくつか事例を準備し、それをもとに、動物福祉、動物愛護、動物の権利の考え方の違いを理解していきました。

1.動物福祉、動物愛護、動物の権利とは?

まず一般的な定義を見てみましょう。

◆動物福祉

動物福祉は「動物を主体に見て、動物の身体的、心的状態を科学的根拠をもって生活環境を整えること」とあります。

動物福祉では、人の管理する中で動物自身の心の状態と、体の状態を、良い状態に維持することに評価をおきます。

それにはもちろん、その動物の暮らし方がわかっていなくてはならないし、正常な行動や体の状態は何かを判断しておかなくてはなりません。
科学的データをもとに判断しているとはいえ、その解釈が間違っていることもあるかもしれませんね。

◆動物愛護

動物愛護は『すべての人が「動物は命あるもの」であることを認識し、みだりに動物を虐待することのないようにするのみでなく、人間と動物が共に生きていける社会を目指し、動物の習性をよく知ったうえで適正に取り扱うこと』とあります。(環境省)

日本では、動物に関する法律が「動物愛護法」だったりと、「動物愛護」という言い方がとても一般的になっています。これは日本独特の考え方で、人と動物の共生(神道)、生物全体を区別せず自然を尊重する(儒教)、動物は命あるもの(仏教)の考えが入り混じったもの、とされています。

命は死んでも、また何かの命に生まれ変わるという思想の影響もあるといわれていますね。動物に人間の感情を入れて寄り添うような考え方ともいえるかもしれません。

◆動物の権利

これは「実験や農場飼育などあらゆる動物の使用を批判し、その解放を最終的な目標としている」や、「動物に人間同様の権利を求める」というような考え方です。
日本ではあまり馴染みのない考え方かもしれません。欧米を中心に発展しており、権利や主張といった考え方を動物にもあてはめて、法律や条例として定めている国もあります。

2.事例を見て、違いを確かめてみよう!

一般的な定義を抑えたあとは、早速準備した事例をもとに、参加者のみなさんとお話ししていきました。

◆考え方の違いを理解してみよう

事例1 この犬の写真をみて思うこと
事例2 トリのヒナがおちていたら

事例1,2では、この写真を見て感じる、考えることを参加者の皆さんから出して頂きました。

そして、それぞれ感じた、考えたことが、動物福祉、動物愛護、動物の権利のどの考え方に近いかを整理しました。そのうえで、それぞれの意味の違いをより理解していきました。

また、例を提示して、考えの分け方を紹介しました。

◆現場でどう活かすか、シミュレーションしてみよう

事例3 ネコの島、深島のはなし

事例3は、大分県に実在する、ネコ島のはなしです。
こちらの論文をもとに作成しました。

『小離島コミュニティの「関係人口」構築に関する一考察 -「深島ねこ図鑑2019」は何を生み出したかー』前嶋 了二

ざっくり紹介すると、こんな感じです。

深島はネコ100匹と島民15人が暮らす島。
島民は皆家族のようにネコを可愛がっています。
しかし、ネコたちが謎の病気にかかり、大量死。
島の高齢化、ネコの未来や今後ネコたちとどう生きるか…
研究者、愛護団体を巻き込んで話し合い、島民たちはある結論を出します。

今回参加者の皆さんには、この事例から「皆さんが島民だったらどうするか」を考えて話していただきました。

◆海外の事例を知ろう

事例4 オランウータンの自由の話

最後は、私(わたなべ)がとても印象に残ったニュースを紹介しました。

ブレノスアイレス動物園で飼育されているオランウータンのサンドラは、20年間この園で暮らしてきました。
ある時、弁護士が「動物園は、サンドラを不当な監禁から開放するべきだ」として、裁判を起こします。

裁判の結果は「人間ではない人(non-human person)として、サンドラの人権は認められる」というものでした。

動物園側は「20年ものあいだ動物園で暮らしてきたため、野生で生きることは不可能だ。生存権と動物の権利はすべての動物にあるが、人間化してみてはいけない。」と主張していましたが、これが取り下げられることとなりました。

現在サンドラは動物園から移送され、アメリカフロリダ州の自然保護区「類人猿センター」で暮らしています。

動物園側の「個体のベストな幸せ」と、弁護士側の「種の差別の解消」が論点となったこの裁判は、動物の権利についての重要な裁判として、世界中で話題になりました。

3.むすび

動物福祉、動物愛護、動物の権利。

これらは名前がよく似ていて混同されがちですが、根本の思想や考え方は異なります。
しかし、動物の意思が分からない以上、どの考え方も人間を主軸にした解釈であることが共通していると思います。

どの考えが良い悪いではないと、私たちは考えています。

考え方や捉え方が違うと、見える世界の色も違うため、人はそれぞれ違う行動を取ります。その行動は、その色の世界では正義なのかもしれません。

この回をきっかけに、こんな考え方があるのだなと、世界を見る目が少しでも広がれば幸いです。

4.次回の掲載予告

次回は『第7夜 クリスマスにコスメを贈るなら!知っておきたい動物実験と化粧品の今』の内容を掲載します。

どうぞお楽しみに!

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【第6夜で使用した参考文献】
・山崎将文 『動物の権利と人間の人権』
・亀山純生 『「動物の権利」論と動物倫理への基本視点』
・前嶋了二 『小離島コミュニティの「関係人口」構築に関する一考察‐「深島ねこ図鑑2019はなにを生み出したか‐』
・オランウータンに「人権」はある?世界初の判決に困惑も
・アルゼンチンの裁判所、オランウータンに「人権」を認める
・アニマルウェルフェアについて
・環境省 動物愛護指針
・一般財団法人環境イノベーション情報機構
・先住民による捕鯨と「動物の権利」

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