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第11夜 ホワイトタイガーと遺伝

今回は動物園の人気者、ホワイトタイガーが主役です。

みなさんは、ホワイトタイガーという種類がいないことを知っていましたか?
動物園でどうやって繁殖をしているか、知っていますか?

ホワイトタイガーのことを知って、一緒にもやもやしましょう!

1.ホワイトタイガーって、どんな動物?

最初に、ホワイトタイガーについて紹介しました。

ホワイトタイガーとは、インドに生息しているベンガルトラという種類のトラの白変種です。現在は国内で35頭、世界で約250頭飼育されています。

ここで、「白変種」というキーワードが出てきました。

ということで、クイズです!

この写真の中で、白変種はどれだと思いますか?
正解は…

①番と③番です!

ホワイトタイガーの毛色が白いのは、「白変種」であるからなんです。
白変種とは、突然変異によって色素が減少した個体のことを言います。
毛が白いなら、アルビノとはどう違うの?という疑問を持つ方もいるかと思います。

ここで、白変種とアルビノの違いを説明します。

左のマウスはアルビノです。
アルビノとは、色素が作れない個体のことを言います。

一方、ホワイトタイガーのような白変種は、色素が作れないわけではないので、体に柄があったり、目も血液の赤が透けることはありません。ホワイトタイガーは独特の縦じまがあり、目の色は薄いブルーであることが多いです。

2.ホワイトタイガーって、どうやって生み出されるの?

さて、冒頭で「ホワイトタイガーは国内で35頭、世界で約250頭飼育されている」とお話しましたが、数が少ないと感じませんか?

なぜ、こんなに少ないのか?
その理由には、人の都合と遺伝の仕組みが関係しています。

3.人の都合で維持されているホワイトタイガー

ホワイトタイガーは、その神秘性や珍しさから、多くの人々がこのトラをたくさん生み出したいと考えました。

昔は、遺伝の仕組みがよく分かってませんでした。そのため、さまざまな問題が生まれることになります。

突然変異でホワイトタイガーが生まれると、珍しくて客寄せになるホワイトタイガーを増やしたいと考えます。
でも、突然変異のホワイトタイガーです。その時にたまたま異性のホワイトタイガーが手に入るはずがありません。
とりあえず普通のトラ(以下黄色のトラ)と掛け合わせました。
すると、黄色のトラと白いトラが生まれます。

次に、子供の白いトラと親の白いトラを掛け合わせると、白いトラが生まれました。
これは、親子の交配ですね。

また、子供の白いトラと黄色のトラを掛け合わせると、白いトラと黄色のトラが生まれました。子供の交配でも、ホワイトタイガーは生まれます。

親子や子供同士で交配させることで、ホワイトタイガーは維持されてきたのですね。
世界にいるホワイトタイガーはみんな親戚同士とも言われています。

ホワイトタイガーは、突然変異で体の色素が薄くなる遺伝子を持っています。これは、潜性遺伝子です。以前の呼び方では、劣性遺伝子とも呼ばれ、2つ揃わないと現れません。

白いトラを増やしたいので、潜性遺伝子を持つ黄色のトラを白いトラに掛け合わせます。
すると、1/2の確率で白いトラが生まれます。
さらに親子の交配や白い子供のトラ同士で掛け合わせると、どんどん増やすことができます。

このような繁殖をすることで、ホワイトタイガーを維持してきました。

しかし、親子や子供同士など、血縁関係が近い交配には問題があります。

ホワイトタイガーは、斜視などの視覚機能の問題や関節の不具合を持つ個体が生まれることが報告されています。

4.ホワイトタイガーを目玉にしている動物園は多いけれど…

遺伝の仕組みや問題をシェアしたところで、動物園で飼育されているホワイトタイガーに目を向けて、参加者のみなさんと考えてみました。

みなさんだったら、
・人の都合でホワイトタイガーの数を維持していること
・近い交配をすることで、問題が起きやすい体に生まれてしまうこと
について、もしあなたが動物園関係者だったら、どう来園者に伝えますか?という問いかけをしました。

参加者のみなさんからは、

・悩みながら飼育していることを伝えるかも
・ホワイトタイガーが目玉なのだから、わざわざ伝えることはしないのでは?-面を伝えている園があるのですか?
・全てをちゃんと伝えるのがよいと思います。

といった意見が挙げられました。
ネガティブな情報を発信することはなかなか難しいですよね。

実際の動物園ではどうしているのか、事例を紹介しました。

福岡県の大牟田市動物園では、「今後ホワイトタイガーを飼育しません」という看板を掲示して話題になりました。

大牟田市動物園では、ここまで私たちが話したような内容を、展示場やホームページに掲載し、ホワイトタイガーは増やさない・今後飼育しないということを明文化しました。

しかし、多くの園では事実を伝えきれずにいるのが実態です。

今回このテーマを取り上げたのは、わたなべが学生時代に大牟田市動物園にお世話になったこと、そのあとに話題になった大牟田市動物園のニュースがきっかけでした。飼育されていたホワイトタイガーのホワイティは、5月に老衰で死亡しました。彼女も内斜視で、視力に問題があると言われていた個体です。最後まで飼育員さんに愛され、大往生でした。

また、こんな事例も紹介しました。

戦後の日本の動物園では、珍しい動物を集めて展示することで集客していました。
阪神甲子園パークでは、戦後の暗い日本を盛り上げようと、新種の動物を作り出しました。

それが、「レオポン」です。

ヒョウとライオンを掛け合わせた個体で、大きな話題となりました。
しかし多くが病気がちで、早くに死亡し、たった5頭で終わりを告げました。

今回メインで取り上げたホワイトタイガーは、いわゆる「近交弱勢」。

血縁関係の近い個体を掛け合わせることで、弱い形質が出てきてしまいます。子供を残すことはできますが、障害や病気により長く生きることができなかったり、子供を残せないこともあります。

一方、ラバのように違う種同士をかけあわせることで、親より優れた形質が現れることがあります。馬を母に、ロバを父に持つラバは、栄養価の低いご飯でもよく働くことから、使役動物として今でも活躍しています。しかし、ラバ自体に繁殖能力はなく、子供を残すことはできません。

5.考えてみよう

ここで、参加者のみなさんとお話をしました。

例えばペットや家畜も言ってしまえば人の都合で生み出し、残した動物たちです。

人によって種を生み出すことは、どこまで許せるでしょうか?

参加者のみなさんからは、
・金儲けのためにしているならば嫌悪感を感じる
・一夫一妻制にしているのも、ある意味種の保存に反しているのかな…
・ピュアな種を残すためにクローンで残した方がいいのかなあって…むむむ…
といったお話しをしました。

6.むすび

今回はホワイトタイガーを切り口にして、人が動物を生み出すことについて考えていきました。

人の都合で作られた動物たちって、家畜やペットを初め、実は多いですよね。

そんな動物たちに、皆さんはどう向き合っていきますか?

この問題は本当に答えはなく、みなさん1人1人の中で、様々な情報を得ながら考えていくテーマだと思います。ぜひ時間をかけて、じっくり考えてみてはいかがでしょうか。私たちも一緒に考え続けていけたらと思います。

7.次回の掲載予告

次回は
『第12夜 イカやタコの仲間が持つ知能』の内容を掲載します。

どうぞお楽しみに!

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・群馬サファリパーク
https://www.safari.co.jp/animal/605/

・鹿児島市平川動物公園
https://hirakawazoo.jp/zukan/bunrui/mammal/2254

・熊本市動植物園
https://www.ezooko.jp/rel_dgram/pub/detail.aspx?c_id=30&id=28&pg=2&bk=1&bunrui1_ck=1,2,3

・「ホワイトタイガーやめます」動物園の思い 日テレNEWS
https://news.ntv.co.jp/category/society/395245

・「ホワイトタイガー飼いません」看板に込めた園の思い 朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASL6843L3L68UEHF00H.html?iref=pc_photo_gallery_bottom

・動物園結束「ブリーデングローン」で希少種守る 産経WEST
https://www.sankei.com/article/20201208-GTGRYZ4IQ5LM5PCZBVJS5U2MTI/

・アルビノのバンドウイルカ「スピカ」
http://www.kujirakan.jp/pdf/spica_201408.pdf

・中外製薬 おしえて がんゲノム医療 遺伝子・ゲノムとは
https://gan-genome.jp/cause/what.html

・ヒョウとライオンから生まれた「レオポン」、最後の一頭が亡くなった日
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/85288

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