バレンタインデー
ぼる塾はあんりちゃんとはるちゃんのコンビ「しんぼる」と田辺さんと私のコンビ「猫塾」が合体してできたカルテットです。まだ猫塾だった時の話です。
田辺さんはお菓子作りが得意です。本人曰く「茶色いお菓子しか作れない」そうですが、田辺さんの作るチーズケーキやクッキーはとても美味しいです。
「ハッピーバレンタインよー!」
田辺さんは養成所時代から毎年バレンタインは手作りのお菓子を配っていました。最初は仲の良かった同期の芸人に配っていましたが、社交的な田辺さんは年々仲の良い先輩後輩芸人も増え、スタッフさん達とも仲良くなり、
「今年は20人分も作っちゃったわー。」
「すごいねー。」
なんて会話をするようになりました。気がついたら田辺さんはバレンタイン、自分と同じライブに出る芸人ほぼ全員に配るほどになっていました。それはある年のバレンタインに起こりました。
「酒寄さん大変よ!!」
1月の中頃、田辺さんが焦って言ってきました。私が「どうしたの?」と尋ねると、
「今年のバレンタイン当日にneedsがあるの!!」
needsとはよしもとの若手芸人が沢山出るコーナーライブです。田辺さんは言いました。
「出演者100人以上出る!!バレンタイン100人前以上作らなくちゃ!!」
私が「流石にそこまでやらなくて良いよ。」と言うと田辺さんは「でもバレンタインよ!!」と言ってきました。
私「仲の良い人に配れば良いよ。」
田辺さん「みんな仲良しよ!!」
私「田辺さんがあげたい人にあげれば良いじゃん。」
田辺さん「そうよね!!バレンタインあげてもそんなに喜ばない男芸人よりすごく喜んでくれる女芸人にあげたいわ!!でも男芸人もみんな優しいからすごく喜んでるリアクションとってくれるの!!誰が実はそんなに喜んでないのかわからないわ!!
やだ!!人間って怖いね!!」
田辺さんに「ちょっと落ち着きなよ。」と言うと田辺さんは「そうね!落ち着くわ!!」と言って材料費の計算をし始めてまた動揺していました。
そしてバレンタイン当日。田辺さんはものすごく大荷物で劇場にやってきました。
田辺さん「結局、三日かけて120人前作ったわ。」
田辺さんは「全然寝てないから今日のライブは大人しくしているわ。」と本末転倒なことを言いながら「5種類あるから選べるの。マドレーヌ、チーズケーキ、ガトーショコラ、クッキー、クリームチーズブラウニー!」とお菓子を配る準備を始めました。
田辺さん「はらさん(ゆにばーす)には絶対あげたいから確保しておくわ。足りなくなる可能性あるからね。」
私「うん。絶対あげたい人のはよけておいたほうが良いね。」
田辺さん「酒寄さんには今あげておくわ!ハッピーバレンタイン!」
私「あ、足りなくなったら悪いから私の分は余ったらで良いよ!」
田辺さん「私があげたいんだから受け取りな!!気を遣って言ってるのはわかるけど、その気遣いは逆に人を傷つけるからやめたほうが良いよ!!」
この時の田辺さんの一言はそれからの私の人生に影響を与えました。(田辺さんに言ったら「全然記憶にないわ。」と言われました。)
田辺さんが「誰にあげたかわからなくなりそうだから隣にいて『あげた』『まだあげてない』って囁いて。」と頼まれたのでその日は田辺さんが手作りのお菓子を配る隣で「あげた」「まだあげてない」と囁きながらついてまわりました。
私「まだあげてない」
田辺さん「ハッピーバレンタイン!」
私「まだあげてない」
田辺さん「ハッピーバレンタイン!」
私「もうあげてる」
田辺さん「危なかったわ」
配っている途中、田辺さんに「本命はないの?」と聞くと「ないね。」と即答されて、なんで彼女はこんなに頑張ってるんだろうと思いました。
私「まだあげてない」
田辺さん「ハッピーバレンタイン!」
しかし、田辺さんが手作りのお菓子を渡した時に「ありがとう!」と喜んでくれる芸人やスタッフさんを隣で見ていると何もしていないのになんだか私まで嬉しくなりました。渡し疲れで椅子にめりこんでる田辺さんに
「田辺さんって本物のステラおばさんだね。」
と言ったら、
「やだ、私ステラおばさん全然似てないわよ!長州力のほうが似てるわ。」
って言われました。
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