メロンパン

ぼる塾はあんりちゃんとはるちゃんのコンビ「しんぼる」と田辺さんと私のコンビ「猫塾」が合体してできたカルテットです。

まだ猫塾だった頃、私はあるライブの終わりに公園で泣いていました。

その日は他の出演者が全組み大爆笑をとっている中、猫塾だけ全く笑いが起きませんでした。焦った田辺さんはネタを忘れてしまい、

田辺さん『なんだっけ？』

と、言いました。それに対して私も田辺さんと同じくらい動揺していたので、

私『なんだっけじゃないよ！』

と、舞台上で本気で怒ってしまい、お客さんに何を見せているんだという大失敗をしました。私は恥ずかしいやら悔しいやらで誰にも合わせる顔がなく、ライブ終了と同時に劇場から飛び出し、よくネタ合わせに使っていた公園まで逃げてきたのでした。

田辺さん「酒寄さん！」

一人で時間を忘れて泣いていると、田辺さんが公園にやってきました。田辺さんはしゃがみ込んで泣いている私の隣に立ちました。

私（私が何も言わないで飛び出したから、心配して探してくれたのかな、さっき酷い態度をとったのに申し訳ない）

そう思いながらもうまく言葉にすることができず、私は田辺さんを無視して泣き続けました。田辺さんはとても静かでした。

私（・・・ちょっと静かすぎない？）

私は気になって田辺さんの方をちらっと見ました。

田辺さんはメロンパンを食べていました。

私（え、何で？今？ここで？）

田辺さんが真剣な顔をして恵方巻のように無言でメロンパンを食べていたので、

私「どうしたの？」

と、私が思わず声をかけると、田辺さんは待ってのポーズをとってメロンパンを食べ終わりました。

田辺さん「そーりー。酒寄さん、これを」

田辺さんは持っていた袋から白い包みを出して私に渡してきました。開けるとメロンパンが入っていました。

田辺さん「最近、美味しそうだなってメロンパン見つけててさ、酒寄さんメロンパン好きだからあげようって思って！」

私「田辺さん…」

田辺さん「だけど、まだここのメロンパン食べたことないからあげるならちゃんと味を確認してからのほうが良いと思って」

私「だから今メロンパン食べてたの？」

田辺さん「ええ。食べられる良い感じな場所が他になくてね」

田辺さんは「ちゃんと美味しかったわ！良かった！」と笑顔で言いました。それから悲しそうな顔をしました。

田辺さん「酒寄さん、今日は私のせいでごめんよ」

私「いや、田辺さんのせいじゃないよ。私こそごめん。メロンパンありがとう」

田辺さん「酒寄さんに好きなメロンパン食べて元気になってもらいたくて！」

田辺さんは「ここのメロンパン美味しいわよ！」と持っていた袋を持ち上げました。袋を見ると、私に買っていたメロンパンを出した後も、まだパンが入っていそうでした。

私（あれ、田辺さん、もしかして普通にパンの買い物してからここに来たのか？）

私が袋を見つめていると、視線に気づいたのか田辺さんは言いました。

田辺さん「メロンパン、母親と弟の分も買っちゃった。味を確認してからとか言っといて、最初から多めに買ってるのウケるよね！」

田辺さんは自分の家族にもお土産のメロンパンを買っていたのでした。私は（田辺さん、普通に自分の食べたいパンを買っていて、私のメロンパンはついでだったのでは？）と邪推した自分をを恥じました。

私「田辺さんって優しいね」

私がそう伝えると、田辺さんは言いました。

田辺さん「うちの弟はよくつけ麺をお取り寄せするからね。メロンパンあげたらそれがもらえるって思ってるよ」

田辺さん、思ってること全部言うじゃんっって思いました。

おわり

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