戒め

頑張ることはとても大事だと思います。

しかし、間違った頑張りは周りに迷惑をかけると身をもって知った出来事があります。同じ過ちを繰り返さないように、ここに記録しておこうと思います。

それはまだ私がコンビだった頃の話です。(ぼる塾はあんりちゃんとはるちゃんのコンビ「しんぼる」と田辺さんと私のコンビ「猫塾」が合体してできたカルテットです)

その日は少し寝不足でしたが、とくに体調が悪いわけではありませんでした。悲劇は突然私に襲いかかりました。

田辺さん「はーい。いい女の田辺よー。」

漫才のライブで、田辺さんに続いて舞台に立った途端に私は少し目眩を感じました。

私(あれ、なんか舞台がいつもより眩しい)

田辺さん「皆さん今日はラッキーですね、私いつもより多く肩出してるんですよ。」

私「戦って破れたの?」

田辺さん「バカ!」

ネタが進んでいくとどんどん具合が悪くなっていくのがわかりました。立っているのもつらくなり、私は思わずセンターマイクを掴んでしまいました。

田辺さん「いい女って言うのはね・・・

あんたヴォーカリストみたいになってるけど大丈夫?!」

私「・・・大丈夫大丈夫。」

田辺さんは私の異変にすぐに気がついたようでした。

田辺さん「具合悪いの?ふらふらしてるじゃない!!」

私「大丈夫だから続けて!」

田辺さん「・・・いい女っていうのはさりげないボディータッチができるのよ・・・いや、ボディータッチの話なんかできないわよ!もう終わろう!」

私「嫌だ!最後までネタやりたい!」

田辺さん「あんたそんなふらふらしてお客さん笑えないわよ!」

どうやら私のヴォーカリストはネタではないことがわかり客席もざわざわしだしました。一番前に座っていたお客さんが小さい声で「大丈夫ですか?」と聞いてくれたことは今でも忘れられません。

私「早くさりげないボディータッチの話をして!」

田辺さん「本当に続けるの?」

私「お願い!」

田辺さん「いい女っていうのはさりげないボディータッチができるの。」

その時、さらに頭がくらっときて私は田辺さんの肩にもたれて、

私「ちょっとごめん。」

田辺さん「あんたさりげないボディータッチできてるよ!」

と私たちにしてはありえないほどうまいこと言えたのですがお客さんは全然笑ってませんでした。

田辺さん「ねえもう終わろうよ。」

私「嫌だ!」

田辺さん「ふらふらしてるよ!」

私「大丈夫だから!」

その繰り返しを何度も挟みました。むしろネタよりもその時間のほうが長かったと思います。

田辺さん「よき時間ね。ばーい!」

なんとか漫才を終わらせて舞台からはけました。後ろから田辺さんが「全然よき時間じゃないね。」と言ってるのが聞こえました。

記憶がとても曖昧なのですが楽屋に戻ると私は倒れて痙攣していたそうです(田辺さんから聞きました)

私はライブについていた作家さんと田辺さんと同期の芸人(私を支えたりするために手伝ってくれました)とタクシーに乗って病院まで行きました。

私は病院のベットに横たわった瞬間からの記憶は鮮明に覚えています。

なぜならとても元気になったからです。全回復しました。

田辺さんが心配そうにベットの横に立っていてくれました。

田辺さん「あ!酒寄さん気がついた!大丈夫?ご家族に連絡したからね!」

私「田辺さん!やばい!」

田辺さん「ダメよ!起きあがっちゃ!!」

私「やばい!!超元気なんだけど!!急に全快した!!」

田辺さん「え!・・・悪いところなくて本来良いんだから堂々としてな!!」

この時の田辺さんの言葉にはとても救われました。

私「でも、ここまで大ごとにして大丈夫ですって。」

田辺さん「元気な方が良いわよ!でも本当に良くなったのかわからないし、この後検査するみたいだからちゃんと検査した方が良いよ!」

私「少し具合悪いふりした方が良いかな?」

田辺さん「少し具合悪いふりするのはありだね!!」

少し具合悪いふりをして検査を受けに行った私を見て、田辺さんは気まづいだろうなと思ったそうです。

検査結果はどこも異常はありませんでした。少し具合悪いふりをしてしまったせいで最後まで作家さんと付き添いの同期は心配していました。

帰り道は田辺さんが私を送るからと言って、何とか心配している二人に帰ってもらいました。田辺さんと私だけになり改めて今日のことを謝りました。

私「田辺さん!今日は本当にごめん!」

田辺さん「私は良いよ!酒寄さんが元気で本当に良かったわよ!!」

私「田辺さん・・・ありがとう!」

田辺さん「もし、酒寄さんに何かあったら私ピンで舞台に立つのかとか考えたら震えたわ。」

私「どこ心配してるの!あはは!」

田辺さん「うふふ、本当よね!!」

私たちは笑い合いました。

田辺さん「でもさ、私たちトップバッターだったからあの後ネタしたみんなとお客さんはどうだったんだろうね。」

私は震えました。



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