タクシーで迎えに行く女
田辺さん「ねえ、私も一緒にみたらしちゃんのお迎えに行って良い?」
その日、私は田辺さんと一緒に行動していたのですが、預けている私の息子のお迎えに、彼女も一緒に行きたいと言い出しました。
私「え、田辺さんも一緒に?」
田辺さん「駄目かしら?」
私「良いけど、田辺さんこの後予定大丈夫なの?」
田辺さん「この後はあんりと焼肉に行くわ!それまでは平気よ!」
私は田辺さんが一緒だったら面白いかもしれないと思い、一緒に息子のお迎えに行くことにしました。
田辺さん「タクシーでお迎えに行きましょう。みたらしちゃんびっくりするわね」
田辺さんは白馬に乗った王子様のようにタクシーに乗った田辺さんとして格好良く息子の前に登場したいようでした。
田辺さん「ひとつ確認しておきたいんだけど」
タクシーをつかまえる前に、田辺さんが言いました。
私「何?」
田辺さん「みたらしちゃん、最近ぼる塾好きなのよね?」
私「好きだよ。昨日もYouTube見て田辺さん可愛いって言ってたよ」
さかのぼること数日前。ぼる塾の三人がZOOMを使って息子と沢山遊んでくれました。息子はそれがとても楽しかったようで、ぼる塾の大ファンになりました。あんりちゃんが『トマトよしよし、トマトばんばんばん』と何度もトマト好きの息子専用のギャグを披露し、息子から大爆笑をとっていました。
あんりちゃん『トマトよしよし、トマトばんばんばん』
息子『あははっ~もう一回~』
はるちゃん『田辺さんもまぁねしなよ!笑いとるチャンスだよ!』
田辺さん『入るの怖い!こういうのって流れが大事じゃない!』
あんりちゃん『トマトよしよし、トマトばんばんばん』
息子『あははっ~もう一回~』
田辺さん『駄目っ!タイミングがわからないわっ!!』
はるちゃん『タイミング?したいときにしなよ~』
田辺さん『無理よ!!』
あんりちゃん『トマトよしよし、トマトばんばんばん』
息子『あははっ~もう一回~』
あんりちゃん『トマトよしよし、トマトばんばんばん』
息子『あははっ~』
はるちゃん『田辺さんっ!!今っ!!』
田辺さん『まっ!まぁね~!!』
息子『・・・あははっ~』
田辺さん『やった!!笑ったよ!!』
はるちゃん『やりましたね!!』
私はパソコンの画面越しにはるちゃんと田辺さんを見ていて、大縄跳びが苦手な女子とそれを助ける女友達を思い出しました。
田辺さん『嬉しいね~みたらしちゃんがまぁねで笑ったよ~』
そんなことがあって自信をつけた田辺さんは、自分もお迎えについていくと言い出したのだと思いました。タクシーに乗るとき、田辺さんは言いました。
田辺さん「さぁ、タクシーで田辺さん登場!みたらしちゃんびっくりするわよ~!」
タクシーでお迎えと言ったけど、息子のいる場所の目の前にタクシーを止めると歩行者など周りの迷惑になってしまいます。私たちは近場の広めの場所で降ろしてもらい、徒歩で迎えに行くことにしました。
田辺さん「…みたらしちゃんに誰?って言われたらどうしよう」
近づくにつれて田辺さんは不安になってきたのか急に怯えだしました。
私「田辺さん可愛いって言ってるんだから大丈夫だよ!」
田辺さん「本当に?もし誰?って言われたらどうする?」
私「もしそうなったら息子は一体何を見て『田辺さん可愛い』って言ってるのよ」
田辺さん「やだっ!怖いっ!!やめてよ怖い話はっ!!」
私「田辺さんが言い出したんじゃんっ!!」
田辺さんが『でも、あんりのことを見て田辺さん可愛いと言っている可能性はある』とリアルな点をついたところで到着し、田辺さんと息子は生で会うのは半年以上ぶりの再会を果たしました。
田辺さん「みたらしちゃん!」
息子「!」
息子は突然現れた田辺さんの存在に照れてしまったのか、一切田辺さんの方を見ませんでした。しかし、いつもよりテンションが上がってはしゃいでいるので、彼が田辺さんの登場を喜んでいることはわかりました。
田辺さん「みたらしちゃん!こんにちはっ!」
私「ほらっ!この人誰~?」
みたらし「ママ~!!」
私「うん!私はママだよ!この人は?」
息子「…」
タクシーでお迎えと言ったもののタクシーはもう帰ってしまったので、結局三人で徒歩で帰ることになりました。息子は今回の件にタクシーが関わっていることを知らないまま、タクシーは幻のタクシーになってしまいました。
田辺さん「みたらしちゃんっ!ほらっ!田辺さんよ!」
息子「…」
田辺さん「たっなっべーっ!田辺さんっ!」
息子「…」
田辺さん「ほら、この人は誰ー?」
息子「…」
息子は何度も話しかける田辺さんを無視し、なぜか見ず知らずのおばあさんをじっと見つめていました。田辺さんもこのままではらちが明かないと思ったのか、目についたたこ焼きを見て、
田辺さん「ほら、みたらしちゃん!たこ焼きだよ!
これはたこ焼きと言ってね、良いものよ!!」
と、非常に彼女らしい説明をしていました。そろそろ私の家についてしまう距離になっても、田辺さんと息子は全く嚙み合っていませんでした。このまま田辺さんが帰るのはあまりにも悲しいと思ったので、
私「もし時間まだ大丈夫だったら、うちで少し休憩して行かない?」
と聞いたところ、田辺さんは「行く」と言って、我が家にやってきました。
息子「トミカ!これね、パトカー!」
田辺さん「あら!パトカー!いいね~!」
息子「これはしょーぼーしゃ!」
田辺さん「あら!格好良いね~!」
自分の家に戻ったことで息子も安心したのか、田辺さんに自分のトミカコレクションを説明したり、二人は少しずつ仲良くなっていきました。
田辺さん「あんたKAT-TUNわかる?」
息子「かとぅーん?」
田辺さん「あんたKAT-TUNって言えるのすごいね!!リアルフェイスわかる?」
息子「?」
田辺さん「ぎりぎりでいつも生きていたいから~」
息子「あははっ!もう一回っ!」
田辺さん「ぎりぎりでいつも生きていたいから~」
息子「あははっ!もう一回っ!」
田辺さん「ぎりぎりでいつも生きていたいから~」
息子のリクエストで何度もリアルフェイスのワンフレーズを歌う田辺さんを見て、
私(田辺さんはぎりぎりでいつも生きているよ)
と、心の中で思いました。
その後、田辺さんは息子の為にてんどんまんを全力で歌ったりしてくれ、とても楽しく時間が過ぎていきました。
田辺さん「みたらしちゃんっ!来てっ!」
田辺さんは息子に自分のスマホの画面を見せていました。私も一緒に覗き込むと、生まれたばかりの頃の息子の写真でした。
田辺さん「ほら、小さかった頃のみたらしちゃんだよ~」
息子「みーちゃん?」
田辺さん「あら!自分ってわかるの?すごいね!ほら、いっぱいあるよ!」
田辺さんは息子に田辺さんが保存している沢山の息子の写真を見せていました。
息子「みーちゃん!」
田辺さん「そうだよ!こんなに小さかったんだよ。ほら、私とあんたのママとみたらしちゃんで撮った写真もあるよ~」
私「わ~懐かしい!」
田辺さん「このみたらしちゃんの顔、赤ちゃんなのに決め顔でうけるね」
私「確かに。『ずっ友だよっ!』て顔してる」
息子「みーちゃん!」
田辺さん「そう!こんなに大きくなって良かったね~。ほら、この頃はまだ小さくてしわくちゃな顔してるよ~」
田辺さんは息子が生まれた日から毎日息子の写真を見ているので、親の私と同じくらい息子の成長を知っています。(詳しくはnoteに写真というタイトルで書いています)
田辺さん「ほら、これはパン食べてるね~」
息子「みーちゃん!」
田辺さん「これは寝てるね~」
息子「みーちゃん!」
田辺さん「みたらしちゃん、小さい頃の自分ってわかるのすごいね!」
私「懐かしい~」
田辺さん「これ可愛いね!ボール投げてるよ」
息子「みーちゃん!」
田辺さん「これは」
息子「…いっぱいあるねー」
息子は途中から、何でこの人こんなに自分の写真を持っているんだと少し違和感を覚えたようでした。
田辺さん「これはすべり台で遊んでるね」
息子「いっぱいあるねー」
田辺さん「これはおうどん食べてるよ~」
息子「いっぱいあるねー」
田辺さん「ねえ、みたらしちゃんなんか怖がってない?」
私「うん。私もそう思う」
田辺さん「そりゃそうよね。何か突然やってきた知らない女が自分の写真大量に持ってて見せてきたら怖いわよね」
私「そう言っちゃうと田辺さん滅茶苦茶怖い人じゃん」
田辺さん「本当よ!ねえ私って何者?田辺さんって誰?」
息子は自分のことを認識しているのに田辺さんは自分を見失っていました。
私「今日も三人で撮ろうよ!」
田辺さん「そうね!ずっ友写真更新しましょう!みたらしちゃん!おいで!」
息子「は~い!」
私「撮るよ~!はいチーズ!」
カシャッ
息子「みて~!つよいっ!!えいっ!!」
田辺さん「ああ、そんなにはしゃいで!!転ぶよっ!!あんたがここで怪我したら私この後の焼肉全く味しなくなるよ!!」
私「そうだっ!田辺さん時間大丈夫?」
田辺さん「あ!そろそろ出ないとやばいね!!名残惜しいわ…」
田辺さんの焼肉の時間が近づいてきたので息子と玄関までお見送りすることにしました。
田辺さん「じゃあまたね。みたらしちゃん!私は田辺さんよっ!田辺さんっ!」
息子「ばいば~い。またね」
田辺さん「あら~またね!だって!嬉しいねっ!またねっ!絶対また遊ぼうねっ!」
私「今日はありがとうね。あんりちゃんによろしくね」
田辺さん「こちらこそよ!じゃあ!」
田辺さんが玄関の扉を閉めると、息子は「田辺さん行っちゃったね」と、言いました。
息子「田辺さん行っちゃったね」
私「うん、行っちゃったね」
息子「田辺さん行っちゃったね」
私「うん、ママもね、同じこと思ってるよ」
息子「田辺さん行っちゃったね」
でも、大丈夫。またねって言ったから。きっとまた会えるよ。
おわり
***
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