これもひとつのチームワーク
以前、『全国ツアー準備の思い出』という話を書きました。今回は同じ日に起こったもうひとつの思い出を書こうと思います。
あの日はぼる塾四人で全国ツアーのオープニングVTRを撮影したのですが、その前に田辺さんソロでの撮影がありました。
田辺さん「あら、私以外のみんなはもう自分のとこ終わってるのね!」
あんりちゃん「そうですよ。後は田辺さんだけのシーンと四人のシーンを撮って完成です!」
OPでは四人それぞれソロのシーンがあるのですが、田辺さんのシーンの撮影場所は田辺さんとはるちゃんのシェアハウスに決まっていました。四人全員での撮影もシェアハウスだったので『同じ日に撮っちゃおう』と決まり、あんりちゃんはるちゃん私が見守る中で田辺さんは撮影することになりました。
田辺さん「私は女優よ。任せな」
こうして撮影が始まりました。(以前、田辺さんは再現VTRの犯人役を演じたことがあります)
ディレクターさん「あー良いですねー!良いですよー!でも、もっと田辺さんなら出来そうです!」
田辺さん「あら!頑張るわ!」
私は何もすることがなかったので、田辺さんの撮影を見学していました。
ディレクターさん「すごく良いです!でも田辺さんならもっと素敵な絵が撮れそうなんですよ~」
田辺さん「あら、今のオッケーじゃないの?良かったんじゃない?」
ディレクターさん「すごく良かったんですけど、田辺さんが小道具を出した位置がかぶってて、顔が全く映ってないんです」
田辺さん「それは普通に良くないんじゃないかしら?」
ディレクターさん「いや、それ以外は完璧でした!85点くらいですよ!」
田辺さん「あら、高得点ね!」
Mくん「良かったですよ!次は顔を映しましょう!」
今回のVTR撮影に協力してくれたのは普段からぼる塾がお世話になっているディレクターさんと作家のMくんだったのですが、二人はとても褒め上手でした。
Mくん「今のすごく良かったです!95点くらい!」
ディレクターさん「後、5点!田辺さんならできるはずです」
田辺さん「私さっきから高得点ばっかり出してるけどなんでオッケーにならないの?」
Mくん「田辺さんは素敵だから、ミスしても高得点出ちゃうんですよ!」
ディレクターさん「ミスしても絵になるんです!でも、
もう一回同じシーンお願いします!」
田辺さん「え、またこのシーン?」
Mくん「大丈夫です!ほぼできてます!」
田辺さん「ほぼできてるなら楽勝ね!」
そして再び同じシーンの撮影が始まります。
Mくん「今のとても良かったです!田辺さん自身も良かったのがわかりましたよね!そのせいでうっかり僕のほう見て『どう?』って顔しちゃっていたのでもう一回お願いします!」
ディレクターさん「それ以外はすごく良かったですよ」
田辺さん「くそっ!!!」
Mくん「田辺さん、ほぼできてますよ」
ディレクターさん「田辺さんほぼ完璧です!」
最終的に褒め上手な二人は寝転がっていた田辺さんが起き上がるだけで盛大な拍手をしていました。
田辺さん「あら、うふふ。今の起き上がりは私もちょっと石原さとみ入ってたと思わ」
そんな感じで田辺さんの自己評価が爆上がりしつつ、撮影は進みました。私が奇妙な撮影チームを見守っていると、
あんりちゃん「さ~て、来週の田辺さんは~」
と、突然背後から次回予告が聞こえてきました。私は続きの言葉を待ちましたがそれ以降あんりちゃんは無言を決め込み、私は
私(来週の田辺さんはどうなっちゃうんだろう)
と思いました。
引き続き私が撮影を見ていると、再び背後から声が聞こえてきました。
あんりちゃん「あ、田辺さん良いですねー!今の表情すごく良かったですよ!」
はるちゃん「すごく可愛かったです!田辺さん演技もいけますね!」
あんりちゃん「今の動き最高です!」
はるちゃん「田辺さん素敵です!!わ~!!流石田辺さん!!」
田辺さん「あら、そうかしら?うふふ」
私は背中から聞こえてくる2人の温かい声援に、なんて仲間思いなんだろうと思って振り返りました。
私「いや、二人ともスマホいじって田辺さん全く見てないじゃん」
あんりちゃんもはるちゃんも真剣にスマホをいじっていて全く田辺さんを見ていませんでした。
田辺さん「え、見てないの?!」
あんりちゃん「勘で言いました。田辺さんの姿は一秒も見ていません」
はるちゃん「ごめんね!」
私「二人ともスマホ見てるよ。今も」
あんりちゃんはネットショッピングのサイトを見ていたのか、「あ、このワンピース可愛いけどサイズが無い!私のサイズが無い可愛い服を売るんじゃねえ!!」とスマホに対して怒っていました。
田辺さん「ちょっとあんたたち!!てきとう言うんじゃないよ!!喜んじゃったじゃないよ!!」
あんりちゃんはスマホをいじりながら言いました。
あんりちゃん「何言ってるんですか田辺さん。
見ていなくても田辺さんが良い仕事するのわかってるからですよ」
田辺さん「…そう言われると悪い気分じゃないね」
田辺さんはすぐ納得していました。
その後も女優田辺さんの撮影は少しずつ進みました。しかし、とあるシーンでどうしてもその演技が苦手らしく撮影は止まってしまいました。
ディレクターさん「うーん、良いんですけど、もうちょっとだけ『決心した!』って感じの表情できませんかね?」
田辺さん「私優柔不断だから今まで決心したことないのよ」
私はそんな人生あるのかと思いました。
あんりちゃん「女優の田辺さんでも苦手な演技はあるんですね」
振り返ると、あんりちゃんがスマホから顔を上げて田辺さんを見ていました。なんだかんだ優しいあんりちゃんは田辺さんを心配しているのです。
田辺さん「まぁね~。今回たまたま苦手な演技が当たっちゃったわ」
あんりちゃん「じゃあ逆に田辺さんはどんな演技が得意なんですか?」
田辺さん「え?ソファーと同化することとか?」
そう言って田辺さんは座っていたソファーにさらに沈み込むように座り、ソファーとの同化に成功していました。
あんりちゃん「すごい!完璧にソファーと同化してますよ!どこからがソファーでどこからが田辺さんなのかわかりません!」
田辺さん「まぁね~」
あんりちゃん「でも、ドラマとかでソファーと同化する演技ってすることありますか?」
田辺さん「え?ソファーと同化する美人モデルの役とか?」
私はそんな役ないだろうと思いました。
あんりちゃん「で、今は田辺さん何ができないんでしたっけ?」
田辺さん「決心した!って顔ができないのよ」
あんりちゃん「決心した…そうですね。田辺さん、もし、KAT-TUNの亀梨くんから
『田辺さん、付き合ってください』
って言われたらどうですか?」
田辺さん「はっ!!…(静かにゆっくりと頷く)」
あんりちゃん「(ゆっくり頷き返す)…その顔、今の忘れないでください」
田辺さん「決心ってこういうことだったのね…」
ディレクターさん「今の表情すごく良かったんで今の感じで撮影しましょう!!」
そして再びカメラが回りました。カメラの前で田辺さんが渾身の決心した表情を決めました。
ディレクターさん「…はい、オッケーです!すごく良いと思います!!」
Mくん「田辺さん頑張りましたね!」
田辺さん「やった!」
ディレクターさんが笑顔で今撮ったばかりの映像を確認しています。
田辺さん「自分で言うのもなんだけどうまくいったと思うわ」
ディレクターさん「はい、良い感じでしたよ!…あ、…ちょっと待ってください!!よく見ると
田辺さんの鼻の穴が膨らみすぎてるんですがどうしますか?」
田辺さん「え!」
ディレクターさん「ちょっとみんなで確認して決めましょう」
みんなで確認すると、確かに田辺さんの鼻の穴が不自然に膨らみすぎていました。田辺さんがこれは事務所的にNGだと勝手に事務所の名前を使っていました。
田辺さん「決心しすぎると鼻の穴って膨らむのね。勉強になったわ」
はるちゃん「へ~!勉強になります!」
私もそれは初めて知りました。
ディレクターさん「…次!次ラストで決めましょう」
田辺さん「もう~!次こそラストにしてよね!」
あんりちゃん「なに他人事みたいに言ってんだ!あんたのことだよ!」
田辺さん「すみません。でもまた鼻の穴が膨らみ過ぎたらどうしよう。私コントロールできないわ」
あんりちゃん「付き合ってくださいだと決心しすぎちゃうんですよね。じゃあ亀梨くんが『お金貸してくれないか?』くらいならどうですか?」
田辺さん「それ良い!それならちょうど良い決心ができるよ!次こそいけるわ!」
こうして挑んだ次こその一回。ディレクターさんがカメラを回そうとしたとき、田辺さんが言いました。
田辺さん「ねぇ、今気づいたんだけど、亀梨くんはお金貸してなんて言わないわ」
私は「今気づくな」って思いました。
おわり
***
※ぼる塾の日常が一冊の本になりました!「酒寄さんのぼる塾日記」全国で発売中です。はるちゃんが「見てください!」と、つくね串を食べる数年前のあんりちゃんと串に刺さった餅を食べる現在のあんりちゃんの写真を一緒に見せてきたので、あんりちゃんに「同じ串物というシチュエーションだとよりあんりちゃんが綺麗になったのがわかるね」と伝えたらあんりちゃんに「嬉しい!酒寄さん、『あんり綺麗になる』で五冊書いてください」と言われました。『あんり綺麗になる』全五巻いつか出したいです。詳しくは↓
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