神さまのいきすぎる計らい

ライブの合間、みんなでご飯を食べた直後の話です。

田辺さん「酒寄さんって実は食い意地すごいわよね」

私「さっきは悪かったよ」

はるちゃん「何かあったんですか?」

田辺さん「いや、さっきね」

私たちはご飯を買いに、四人でセブンイレブンへ行きました。セブンイレブンではちょうどカレーフェスをしていて、カレーが大好きな私は、

私「決めた。私はフェスに参加するよ」

と、参戦を表明しました。しかし、いざ選ぼうとすると美味しそうなカレーが沢山あって迷ってしまいました。

私(辛いカレーが好きだから、一番辛さマークが多い銀座デリーのカレーにしようかな)

しかし、その隣りを見ると、

私(ビリヤニライス?!気になる!米にも手を加えるのはずるいよ!)

私が迷っている間に、他のメンバーは素早く買う商品を手にしています。焦った私は近くをうろうろしていた田辺さんに助けを求めました。

私「田辺さん、」

田辺さん「あら、決まったの?」

私「教えて!私が食べたいのは銀座デリー監修のカシミール&コルマカレー?それともエリックサウス監修のチキン&バターチキンカレー?どっちですか?」

田辺さん「知らないわよ、あんたじゃないんだから!」

私は焦って、イソップ童話の「金の斧」に登場する女神のような絡み方をしてしまいました。田辺さんは、

田辺さん『私はお腹空いてないから付き添いで行くわ。飲み物だけ一応買っておこうかしら』

と、ただの付き添いで来ていたので、変な絡み方をしても迷惑にならないと思ったのです。田辺さんはおにぎりという飲み物を選んでいました。

田辺さん「酒寄さんは辛いカレーが好きだからデリーにしたら?」

私「でも、こっちはビリヤニライスってしゃれてるんだよ」

田辺さん「じゃあそっちにしたら?」

私「でも、やっぱり辛いカレーが好きだし…」

田辺さん「いっそ両方食べたら?」

私「そんなに食べられないよ!」

田辺さん「じゃあ辛いのにしなっ!」

私「でも、辛さで選んでそんなに辛くなかったら…」

田辺さん「あー!!もう!!あんたは何も食べなくて良いっ!!」

通りすがりのあんりちゃん「酒寄さんをいじめるな!」

田辺さん「私が悪者なの?!」

結局、田辺さんが悪者になり、私はデリーのカレーを選びました。デリーのカレーはしっかりと辛く、フェスは成功を収めました。

田辺さん「…ということがあったのよ」

はるちゃん「確かに酒寄さんって食へのこだわり強いですよね」

田辺さん「この女はやっかいだよ~」

はるちゃん「前にご飯買おうってなったとき、お店に酒寄さんが食べたい物が無くて、『ごめん!時間ないのにごめんね!』って酒寄さん壁に向かって謝りながらひとりで別の店に走って行ったことありましたね」

あんりちゃん「私はその気持ちわかる。私も食べたい物が無かったときは別の店に走るタイプだから」

田辺さん「確かに!私とはるちゃんはその店にあるものから選ぶけど、あんりと酒寄さんは食べたい物で選ぶから、無かったら別の店に走ってるね」

あんりちゃん「最初から他の人が選んだ店とか食べ物なら何でも大丈夫なんですよ」

私「わかる」

あんりちゃん「でも、自分でごはんを決めるときは『これが食べたい!』って思った物じゃないと駄目なんです!」

私「わかる!超わかる!」

私はこのとき頷きすぎて首を痛めましたが、バカだと思われるので隠しました。私が首を痛めているとも知らず、田辺さんは話を続けました。

田辺さん「だからご飯行くとき、あんりが行きたい店が休みだと厄介なのよ」

私「なんか似たような話聞いた気がする」

以前、田辺さんとあんりちゃんのお目当ての店が臨時休業だったとき、お互いを励ましあったっと聞いたことがありました。

私「刀削麺だっけ?」

あんりちゃん「はい!刀削麺の店の前から代案のつるとんたんの店の前までずっと励ましあいました!」

私「ちょっと励まし過ぎじゃない?」

あんりちゃん「いや、あの励ましが無かったら恐らく田辺さんは途中で倒れていたと思います」

田辺さん「いや、倒れるのはあんりよ。私は付き合ってあげただけ」

私「励ますってどんな感じ?」

私がそう尋ねると、二人は実際にその場で見せてくれました。

あんりちゃん「大丈夫、大丈夫、別案あるから」

田辺さん「落ち込まない!落ち込まない!こういうこともあるよ!」

あんりちゃん「気にしない!気にしない!むしろ休みで良かった!」

田辺さん「わかる!休みで良かったよね!そこまで食べたくなかったし!」

あんりちゃん「本当そう!何なら食べたくなかった!行けって言われたから行ったっ!!」

私「それもう嘘だよね?」

あんりちゃん「嘘じゃないです!別に食べたくなかったです!」

はるちゃん「刀削麺に行けって誰に言われたの?」

あんりちゃん「…」

私「まぁまぁ。すごく刀削麺が食べたかったのが伝わってきたよ」

私はハイレベルな二人の励ましに感動すら覚えました。

あんりちゃん「なんか私と田辺さんの組み合わせって、定休日とか臨時休業の確立がすごく多いんです」

田辺さん「きっとあんりのせいよ」

あんりちゃん「いや!田辺さんのせいですよ!」

田辺さん「あ、そういえば、この前もさ」

私「何?」

田辺さん「私とあんりとはるちゃん三人のとき、あんりがお好み焼き食べたいって言いだして、帰りにみんなで食べようってなったの」

私「うんうん」

田辺さん「行ったらなんとそのお好み焼き屋が臨時休業だったのよ」

私「あら!また臨時休業?」

田辺さん「だから別の店に行こうかって私とはるちゃんで別案を探してたらさ、あんりが、

『私帰ろうかな!』

って言いだしたの!!

私「あら!」

田辺さん「あんり、『私もう今日は帰ろうかな。そんなにお腹空いてないし』とか言い出してさ、お好み焼き屋が臨時休業で機嫌悪くなってるのっ!その態度に私もイラっとしちゃってさ。私もお腹空いてたからちょっと機嫌悪くなってたし、

『私は最後のひとりになっても何か食べて帰るけどね!!』

ってキレちゃって」

田辺さんは、「私は最後のひとりになっても戦う」と同じテンションで外食することを宣言していました。

田辺さん「そうしたら、はるちゃんがあんりに『帰るなんて言わないでー!寂しいよー!』って優しく言ってくれてさ。なんとか収まったよ」

あんりちゃん「幼なじみなんで、はるちゃんは私のこういう姿よく見てるんです」

はるちゃん「あんりこういうことよくあるから慣れてるんです」

私ははるちゃんがいてくれて本当に良かったと思いました。

あんりちゃん「そうだ!酒寄さん明日空いてませんか?」

私「明日?」

あんりちゃん「明日仕事が早く終わるんで、田辺さんと酒寄さんが前から美味しいって言ってる中華の店に行こうってさっき田辺さんと話していて!良かったら酒寄さんもどうですか?はるちゃんもどう?」

私「うわ!残念!明日は用事がある!」

あんりちゃん「あ~残念です!」

田辺さん「残念ね。酒寄さんも行けるときにもう一回食べに行きましょう」

はるちゃん「私行けそう!」

あんりちゃん「良かった!あ、一応定休日調べておこう。私たちだし。笑」

はるちゃん「じゃあ私調べるね。お店の名前教えて!」

はるちゃんが調べてくれている間に私たちはお店の話をしました。

私「とっても美味しいよ!羨ましい!私も行きたかった!」

あんりちゃん「酒寄さんと田辺さんがずっと言ってるから行きたかったんです!さっき明日チャンスじゃない?ってなって?」

田辺さん「あんり絶対好きよね」

はるちゃん「ねえ、明日って第一月曜日?」

あんりちゃん「明日?多分、第一月曜日」

はるちゃん「定休日。日曜、祝日、第一月曜日」

あんりちゃん「え?」

はるちゃん「明日、第一月曜日。休み」

はるちゃんのスマホを覗き込むと、しっかりと【定休日 日曜、祝日、第一月曜日】と書かれていました。

田辺さん「こんなピンポイントで第一月曜日ぶつかる?!」

あんりちゃん「…良いんじゃないですか?別に食べたくなかったし!」

私「待って、仕組んだ?今までの流れからこれって…」

田辺さん「仕組んでないよ!あんりが起こした奇跡だよ!あんりが行きたいって言い出したし」

私「…こんなことある?…くくくっ笑っちゃ笑いけど…」

あんりちゃん「休みで良かった!本当に良かった!」

はるちゃん「あははーあーおかしいっ!!」

田辺さん「明日が日曜日だったらまだ、『あら~仕方ないね』って諦められるけど、でも、第一月曜日がかぶるのってやっぱりあんりのせいだよね

私「そんな気がする」

はるちゃん「あははっ」

あんりちゃん「私帰ろうかな!」

そう言ったあんりちゃんは、ちょっと泣いてました。

おわり

この後、あんりちゃんが、「そうだ!酒寄さんが行けないから四人で行けるときに行けって神の粋な計らいの定休日だ!」って納得していて、神さまちょっといきすぎって思いました。そんな私たちの日常が本になりました。「酒寄さんのぼる塾生活」好評発売中です!詳細はこちら↓

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