弟
田辺さんとお互いの近況を話していた時のことです。
「そう言えばこの前弟にさ、」
田辺さんには弟がいて、たまに弟との話をしてくれます。
「『今テレビに出ている人達は皆頑張って沢山努力している人達だ。努力しないでテレビに出ているのは智加(田辺さんの下の名前)だけだ。周りの人に感謝して生きろ。』って言われたのよ。」
「弟さん厳しいね。」
田辺さんが「そうよ!私だって頑張ってるわ!」と言ってくると待っていたら、
「本当にその通りだと思ったわ。」
と返ってきました。私が「いや、認めちゃうんだ!」と言うと、田辺さんは
「私生まれてから一度も努力ってしたことないわ。」
と言いました。
私「田辺さん逆にそれ天才の台詞っぽいよ」
田辺さん「やだ!嬉しい!私の場合運と人助け(されるほう)で37年間生きてきただけだけどね!」
私「全然天才じゃないね」
田辺さん「まあね!弟は多分私の一番の被害者よ!」
私は田辺さんの弟さんにお会いしたことはありませんが、弟さんが田辺さんを助けることによって私も助けられたことが何度もあります。その中でもとくに思い出に残る出来事があります。
それはまだ養成所時代のことです。(ぼる塾はあんりちゃんとはるちゃんのコンビ「しんぼる」と田辺さんと私のコンビ「猫塾」が合体してできたカルテットです。このときはまだ猫塾でした。)猫塾はネタ見せのために田辺さんが浦島太郎で私が亀のコントを作りました。私があまり考えずに
「これネタの最後にアニメの次回予告のナレーションみたいなやつ録音して流したら面白そう」
と言うと田辺さんも「それは良い考えだわ!」と言ってきました。
私「田辺さんか私の声で録音する?」
田辺さん「でも違う人の声のほうが『お!こいつらちゃんと準備してきたな!』って思わない?」
私「確かに。でも誰に頼む?」
田辺さん「同じクラスの人に頼むと『あ!あいつの声だ!』ってなってネタに集中できないわよね。」
田辺さんはネタの中身を作るときは岩のように静かだったのに最後のナレーションで急に謎のこだわりを見せてきました。田辺さんが言いました。
「ちょっと弟に頼んでみるわ。」
私はこのとき初めて田辺さんに弟がいることを知りました。
「酒寄さん!ナレーション録音してきたわよ!」
数日後、ネタ合わせのときに田辺さんは笑顔で言いました。
私「ありがとう!弟さん嫌がらなかった?」
田辺さん「すごく拒否されたわ!」
私「それは申し訳ない!よくオッケーしてくれたね。」
田辺さん「弟なんだかんだ言って私に甘いからね!それか『あんたの未来を邪魔するよ!』って言葉が効いたのかもしれないわ。」
田辺さんの言葉にそれは脅しでは?と思いましたが「早速聞いてみよう!」となりました。確かこんな内容でした。
ナレーション「竜宮城に向かった2人。しかし、サメの暴走族アンダーザシーが2人に勝負を仕掛けてきた。果たして2人は勝つことができるのか!次回『重いんでここからは歩いてください。』俺のタートルスクリューが火を吹くぜ!」
私「すごく良い!」
田辺さん「姉が言うのもなんだけど良いと思うわ。」
私「ちゃんと俺のタートルスクリューの所アニメの次回予告みたいに熱い感じで言ってくれてるの嬉しい!」
田辺さん「そう!良い仕事してくれたわ!」
私「良いネタになったね!」
田辺さん「ええ!」
しかし問題が起きました。数日経ってから改めてネタを練習すると次回予告は最高だけど重要なコントの内容が全然面白くないということに気づいてしまったのです。
「でも、せっかく弟さんが協力してくれたしこのネタはネタ見せでやろうか。」
と私が言うと田辺さんは
「いや、大事なネタ見せを一回潰すのは勿体ないわ。
私達入学金40万円払ってるのよ?!」(後に田辺さんが入学金40万円全額おじいさんに払ってもらったことを知りました。)
と言いました。悩んだ結果、やはりそのネタは一度も披露せずにお蔵入りにしました。
(弟さんには本当に申し訳ないけど、別にネタ見せに参加するわけじゃないし言わなければわからないか。)
と、私は思いました。さらに数日後田辺さんが、
「弟にあのネタ没にしたからやらないって言ったらすごく怒られたわ。」
まさかの弟さんにばらしていました。
私「なんで言っちゃうの!」
田辺さん「だって後から弟に『あのネタどうだった?』って聞かれたら、その時に『実は没にした。』って言う方が感じ悪いじゃない!」
私「いや、確かにそうだけど。」
田辺さん「まあ弟そう言うの聞いてくるタイプじゃないんだけどね(?)」
私「じゃあなんで言ったの!あんな変なこと言わせて使わないとかすごく怒ったでしょ。」
田辺さん「ええ。とても怒ったわ。それで没の理由を聞かれたんだけど、私は酒寄さんが考えてくれたネタを面白くないからって言いたくなくて・・・」
田辺さんはとても心優しい部分もあります。私は「でも面白くない以外の没の理由なくない?」と言うと田辺さんは
「だから、『あのネタやる気分じゃなくなったの。』って言ったら、『なんだよそれ!!』って余計に怒られたわ。」
私も「なんだよそれ!!」って思いました。
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