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食い意地と強烈な共感

引っ越しを一週間後に控え、ようやく家の中の整理に取り掛かっている。

元来、怠け者の私は何かを始める際に腰がものすごく重い。その重い腰を上げるために、今回の東京への引っ越しのように先にフラグを立てるなどの「えいや!」っと勢いをつける工夫が必要になる。

部屋の片付けについてはギリギリまで放置してるわけだから、工夫でもなんでもないのだが。

手始めに「クローゼットの一番上段」という、一番乱雑にものを投げ込むスペースの整理に取り掛かった。そこで「くいいじ」という本と久しぶりに対面することになった。

「くいいじ」は上下巻セットの食べ物連載で、漫画家である安野モヨコさんの作品である。2009年に出版された本で、装丁がとても味があって素敵なのだ。

本来の目的であるクローゼットの整理がきちんと済んでから(ここ重要!)本を読み返してみたところ、これが本当に面白い!本を買った当初も面白くて何度も何度も読み返したものだけど、月日が経っても色褪せない絶妙なセンスがそこにはあった。

安野モヨコさんの作品で私が強烈に心惹かれるのは「共感」である。

安野さんの本に一番最初に触れたのは「ハッピーマニア」という少女漫画だ。私はリアルタイムで雑誌に掲載されていたときではなく、完結して単行本として出版されたあとに読み始めたのだが、止まらなくなってそのまま全11巻を漫画喫茶で完読してしまった。

「これは私か!?私の心を知っているのか!」と本気で感じて衝撃だった。

主人公のカヨコは30歳目前のアラサーで、ウザったらしいくらい男に執着してしまう女性。しかも、男を追いかけるあまり頭がおかしいのかと思うようなぶっ飛んだ行動をとったりする。でも、強烈にその心境に共感してしまうのだ。

あの頃の私と、今の私の価値観は全く違うのだが、「くいいじ」をきっかけに「ハッピーマニア」を読んでいた20代のあの焦燥感が思い出されて懐かしくなった。

人というのは変わるものだなと思う。

もちろん変わらないものもあるのだけれど、個人にとっての常識や固定観念は時間をかけて確実に変わる。20代後半に私の心を捉えて放さなかったことが、今は取るに足らないものになった。

逆に今は新しく生まれた固定観念の元に生きている。これもまた月日が経ち新しい経験を積み上げることでアップデートされていくのだろう。

そう、「アップデート」なのだ。

過去の経験があって今が作られているのだから、過去が消えて真っさらになって今の自分がいるわけではない。これまでの経験の上に成り立っているのだから、過去の自分を軽視すべきではないと思う。

私たちは必ず発達する。ハイハイしている赤ちゃんも健康であればいずれつかまり立ちを始めるし、お母さんのおっぱいを卒業して自分の歯で噛んでものを食べるようになる。

いずれ発達することがわかっていれば、今のステージを満足するまでやり尽くすことができる。これは私の考えではなく、昔ある人から聞いたことだが、今ならその深みに少し触れることができると感じる。

さて、片付けの続きをしなくては。


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