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房総半島暴走記① 外房線、内房線

 果てしなく続くレールは、海を横目にずんずんと山の中を進んでいく。4両か6両の列車の先頭車両だけはボックス席。私は海側がどちらかをわざわざ調べて、誰もいないボックス席に座り込む。相席になるのは少し気まずいけれど、安房鴨川ー館山間ではそんなことはなかった。曇り空の中、少しの寂しさを感じてしまう小さな集落。たまに見える、バブルの残骸-くすんでしまったマンション。浜には人影、おそらくサーファーだろう。そして、浜に沿って生えているヤシの木。どうしてここに、生えているの。

 私は8月末の平日二日間、雲と太陽が共存する蒸し暑い日に、房総半島を青春18きっぷで一周の旅に出かけた。その時の話をしようと思う。


①外房線、内房線

 電車というのは、実に不便であるということに、私は早速気づいてしまった。千葉から外房線に乗ってすぐに、大原駅の時刻表を確認した。おお、一時間に一本。このことは想定外だった。思えば、想定可能だったが、半蔵門線東武伊勢崎線直通電車が10分に一本でも怒ってしまう私、一時間に一本なんて想定できない。そんな本数の少なさに耐えられるか不安だったが、その一時間で観光名所をそそくさと回ったり、ビーチでぼうっとしたり、案外ちょうど良いものになった。けれど、時間の制約があると、どうしても焦って腕時計ばかり気にしてしまう。都会の生活が身につき過ぎてしまっているのかもしれない。今思えば、もっと気にせずに、もし遅れたら暇潰すくらいな余裕を見せればよかったと少しは後悔している。でも、だから車で行こうと思ったところで、なんだか興ざめだ。このギリギリ感を楽しんでしまっていたのかもしれない。薄っぺらい18きっぷを片手に、駅員さんに「私、南越谷からきました!」という声にならないアピールをするのは自慢げに感じた。駅から「観光地」(といっても大抵は海水浴場)を目指すのも、そこそこ距離があって歩かなければならない。しかし駅周辺にはかろうじて飲食店が残っていて、人もそれなりに住んでいるようで、毎度毎度人の気配をちゃんと感じながら「観光地」に向かうことができた。もし車で「観光地」にダイレクトインしていたら、そこに住む人の存在は全く消されてしまうだろう。一人だからか余計に住んでいる人のことを気にしてしまう。職業はなんだろう、東京に通っているのかな、年齢層を知りたいな、などなど。余計なお世話だと、都会人(というか都心から1時間の距離にある新興住宅地人)の傲慢さだとわかっている。それでも気になってしまうのは、ただの好奇心なのか、それとも、憧れか? 

 

 ブルーとイエローのラインの外房線には、よく虫が無賃乗車してしまうようで、この旅で2回虫たちと一緒に電車に揺られるはめにあった。1度目は、ボックス席前方に座るおじさんの横の窓に、小さなカマキリ。飛びはしなかったものの、こちらに歩いてきたらどうしようどうしようと、チラチラと虫の位置を確認する。おじさんの横にピタリと止まっていたカマキリ君。おじさんも気になってないみたいだけれど、私は見ないふりをして気にしていないそぶりをする。少し経って、おじさんが自らの体を探り始める。窓を見たら、虫がいなかった… カマキリ君はおじさんの体についたのか、それとも…私はここでも知らんぷりして、なかったことにした。次の駅でおじさんは降りていった。2回目は、始発でホームドアが開けっぱなしになっていた安房鴨川駅にて。誰もいない先頭車両に乗り込み、悠々とボックス席を占領するとすぐに、大きめの黒い飛行物体が入ってきた。私は思わず立ち上がって後方に避難。うう。私が一番苦手な飛行物体(黒)、どうしようどうしようととりあえず立ち、飛行物体の行方を見つめる。反対側の窓に張り付いてはぐるぐる回転し、また張り付いて… 隣のドアがあいているのに、空いてないドアばかりに張り付いて、バカじゃないの!と一人で声にならない文句を言いながら、しばらくウジウジしてると、家族連れが入ってきた。家族は飛行物体に気付かず、近くのボックス席に座ってしまう。すると案の定、すぐにファミリーの青年(高校生?)が逃げ惑う。私は少し離れたところから様子を見守る。飛行物体が窓に止まったタイミングで、お父さんがすっと窓を開けた。おおっ・・・!私も、おそらく青年も同じことを思っていたと思う。「お父さんありがとう!」と。

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