争いのない世界を~BUCK-TICK 「Campanella 花束を君に」
BUCK-TICK23枚目のアルバム「異空-IZORA-」から「Campanella 花束を君に」の深読み。
変化する歌声
櫻井敦司という人は、元々曲によって声や歌い方ががらりと変化する人ではある。そして、その変化の幅や表現力は年々凄みを増している。
今度はどんな「櫻井敦司」を見られるだろう。と、少し緊張しながら心待ちにしていたのだが、この曲には驚いた。
正直に言うと、最初この甲高い子供みたいな、少し鼻にかかったような歌声に抵抗があった。(元々あっちゃんの低音ボイスが大好きなのだ。)
それでも歌詞カードを見た時、語尾の「う」の一文字に、それをきちんと発音するあっちゃんに、歌の世界を演じ切り、表現しようとする真摯な姿勢とさらなる覚悟を感じてぞくりとした。
そして、この曲をこれまでのあっちゃんの声(ってどれだろう)で歌っていたら、言葉に込めた想いが中途半端にしか伝わらなかったのではないか。そう思ったのだった。
前作『ABRACADABRA』収録の「舞夢マイム」では性別を。今回は年齢を越えて演じ切った櫻井敦司。この人の表現力はどこまで進化するのか。コンサートで曲がどう変化していくのか。楽しみだ。
ふたつのキーワード
難しい言葉はひとつもない、とてもシンプルな歌詞。
子供の目線で描かれた平和を願う曲だとすぐにわかるけれど、ふたつの言葉に注目すると歌詞に込められた(であろう)想いがさらに胸に響いてくる。
『誰がために鐘は鳴る』
ヘミングウェイの長編小説のタイトルでもあるこの言葉は、イギリス詩人で聖職者でもあるジョン・ダンの「個人は人類の一部であり、他の人の弔鐘はあなたのためにも鳴っている」という説教に基づいたもの。
『It's a small world』
言わずと知れたディズニーランドの有名アトラクション。
テーマは戦争のない平和な世界。世界各国の子供たちを模した人形がそれぞれの言語で歌い、踊る小さな世界をボートに乗って巡る。
このアトラクションに大人の人形がひとつもないのは、創設者ウォルト・ディズニーの「平和な世界=子供が築くコミュニティ」、「人種、国籍、性別、言語の違いがあっても子供たちは何のしがらみもなくすぐに友達になれる。けんかしても泣いて笑ってすぐ仲直りする。これが平和な世界ではないか。」という考えの象徴。
不思議な単語の羅列
単語の組み合わせと順番が不思議だな、と思った歌詞。
聴き続けているうち、不意に気がついた。
兵隊さんにも、おとうさんとおかあさんがいる。
兵隊さんも(おとうさん、おかあさんも)かつては子供だった。
今殺し合いの道具を持たされている手に、花束を持てる日が一日も早く訪れますように。
子供たちとその成長を見守る大人たちが、花束を手に笑っていられる平和な未来でありますように。
子供が、かつて子供だったすべての人が、色とりどりの花束を手に笑いあえる美しい世界になりますように。
この単語の羅列には、そんな祈りが込められているのではないか。
聴くほどに込められた想いがじわじわと胸に沁みて広がっていく、単純なんのに不思議な言葉の連なり。この言葉選びも櫻井敦司の世界。
愛は降り 鐘は鳴る
鳴り響く鐘の音が空から降ってくる。
失われたひとつの命のために。
失われたすべての命のために。
そして、生きているすべての命のために。
愛のように、光のように。
国籍も、人種も、死者も生者も関係なく、遍く等しく降り注ぐ。
櫻井敦司が歌う「おかあさん」
この曲のテーマからは少し外れるけれど。
「も う 泣かないで」の少し掠れる最後の「で」の声に、あっちゃんが抱え続けているお母さんを守りたくて、でも怖くて守れなかった子供の頃の無力感や後悔が滲み出ているようで泣きそうになる。
幼いあっちゃんが、小さな体で懸命におかあさんを抱きしめ、慰めようとしている姿が浮かんできて切なくなる。
年月を経て変化しているとはいえ、あっちゃんが口にする「おかあさん」「ママ」という言葉には、たくさんの複雑な想いと愛情が詰まっていて、いつ聴いても胸が震える。
最後に
花束。それは色鮮やかで、やわらかくて、うつくしいもの。
手にすると思わず笑みが浮かび、幸せな気持ちになるもの。
人がそんなしなやかな優しさ・美しさと、違いがあってもすぐに友達になり、喧嘩しても仲直りする子どものような素直さを持ち続けていれば、人間同士が奪い合い殺し合うようなことは起きずに済むに違いない。
ただの綺麗事、夢物語だとしても、そう信じることを諦めたくない。
いつもこの胸に花束を持つ人でありたい。
この曲を聴きながら、そんなことを思っている。
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