[No.6]20年、フリーライターやってます~初めて仕事を得る
売り込みにいったものの、玉砕。ところが数か月もしないうちに、売り込んだ先から一本の電話が…。
その電話とは、特集の一部を手伝ってほしいというものでした。
特集タイトルは「母になる」。
忘れもしません。
ついこの間、売り込みに行ったとき、彼は
「ワーキングマザーものの企画なんて、うちでは絶対にやらない」と言っていたのです。
そこにふってわいたこの企画。
編集部には、子持ちの女性は皆無。結婚している女性すらいない。外部のライターを当たっても同じ。これではリアリティのある企画にならない。そういえば売り込みに来たライター(おばさん?)が子持ちだったよね……。それで、私のことを思い出したというのです。
男女を対象とした育児休業法が施行されたのが1992年。私が出産をしたのはその翌年でしたが、周囲には育休を取得して復帰した人はいませんでした。寿退社という言葉は死語になりつつありましたが、もといた会社にも子育て中の女性は皆無。一般企業ですらそうだから、時間外勤務も多い出版業界にワーキングマザーがいなくても不思議はありません。
でも、そのおかげでチャンスが巡ってきたのです。
私が担当することになったのは、全十数ページの特集のうち4ページ。
自分の体験談を書いてもいいけれど、それだけではつまらない。客観性を持たせるために、一人でいいから事例を取材して入れましょうということになりました。取材相手は私の知り合いでもいいとのこと。
今だからわかりますが、その編集者は(Sさんとしましょう)は、親切にも素人の私でもできそうな企画を考えてくれたのです。自分の体験談と知り合いの取材だけで4ページ書けばいいなんて、こんなラクな企画はありません。しかもSさんは、取材にもついてきてくれました。
そのときは彼の心遣いにまったく気づかなかったけれど、Sさんのおかげで私はフリーライターとしての一歩を踏み出せたのです。
売り込みに行った時に言われた、「文章力より取材力」。
その言葉の重さにも気づかないまま、一足先に出産しフリーランスで働いていた先輩ワーキングマザーを訪ね、ママ友と雑談でもするような気持ちで取材をし、原稿執筆に取り掛かりました。
原稿はすらすらと書けました。すらすらいきすぎて、○文字×○行で、と言われていた文字数をはるかに超え、行数は、きっちり倍をカウントしていました。
削らなければならないけど、どこも削りたくない。え~い、このまま出しちゃえ!
プロのライターなら、上手い下手以前に絶対に守らなければならないことが2つあります。
一つ、締切を守ること、二つ、与えられた行数を守ること。
私は初仕事で、この掟の一つを破ってしまったのでした。(つづく)
(2015年01月14日「いしぷろ日記」より転載)