大切だと思っていたトモダチだった

この記事を読んだときに、胸がぎゅうううっと締め付けられた。

まさに、私そのものの気がしたから。

私は40代に突入する間際で結婚し、子供に恵まれた。

あまり言ってはいないけれど、出来ちゃった婚だった。

夫とは付き合うときから結婚は約束していたし、でも年齢も年齢だし、途中で何があるかわからない、と、覚悟の上で、子供ができたことは、ほとんどの人に知らせずにいきなり結婚した。

結婚したい、とは、常に言っていたけれど、周囲は本気にはしていなかっただろうし、当時、仲の良かった独身の友達は、おそらく「自分のほうが先に結婚できる」と思っていたのだろうと思う。

結婚が決まり、おなかの子が順調に育つにつれて、どんどん彼女たちとは疎遠になった。

息子がおなかの中で育っていくことは、私にとって孤独を感じざるを得ない出来事だった。

はじめての妊娠、はじめての出産、いちばんそばで励ましてくれるであろうはずだった友達がいないという事実。

受け入れるのに、とても時間がかかり、自分の中で整理しきれない思いがずっとよぎっていた。

いま思えば「おかあさん」になり切れていなかったのだろうと思う。

当時、よく一緒に遊び、飲んでいた別の友達が出産祝いに実家まで、きてくれることになった。

彼女たちも婚活を一緒にしていた仲間でもあった。

約束の時間、間に合うように授乳も終わらせて、駅まで迎えに走った。

私はとても楽しみにしていて、久しぶりに会える大人にワクワクしていた。

だけど、彼女たちは、なかなか来なかった。

連絡がきたのは30分後だった。

いまから電車に乗るね、と。

その時間からだと、もう、1時間もロスになる。

新生児を抱える母親の1時間は、恐ろしく貴重だ。今ならわかる。

その1時間で、あれも、これも、あんなこともできたのに。

思いたくなくても、頭によぎる私がいて、待っている車の中で、私は自分の混とんとする感情をコントロールするのに必死だった。

無事に彼女たちが到着するころには私の感情は既におさまっていたのだけれど、実母がいるとはいえ、まだ1時間も赤ん坊を置いて外出したことのなかった私は、罪悪感でいっぱいだった。

実家から自宅へ帰り、いよいよ赤ん坊だった息子との生活が始まり、落ち着いたころ、と、また別の友達が遊びにきてくれた。

ひとりは妊活中、ひとりは独身。

2人共お酒が大好きで、私もよく一緒に飲み歩いていた仲間。

遊びにくる日時を打ち合わせしていると、仕事が終わってから来たい、と言い出し、私は困惑した。

彼女たちの18時は仕事が終わり、リラックスできる時間。

私の18時は1日の終わりの寝かしつけに向けて、戦争が始まる時間。

おっぱいは枯れて、息子はお風呂に入りたいやら、お腹が空いたやら、眠いやらで、とにかく泣き続ける時間帯。

夫も息子をお風呂に入れるため、慌てふためいて帰宅してくる時間だ。

もう「住む世界が違う」ことを、やっと、やっと痛感し、実感せざるを得ないできごとだった。

結局、彼女たちは、休日に来てくれることになり、その後、飲みに行くとにこやかに帰っていった。

私は、それ以来、彼女たちに会ってはいない。

きっと会ったとしても、彼女たちにとって私は「つまらない話題しかない主婦」でしかないだろうし、私にとって「子供の話もできない人たち」なのだ。

ひとつの生命が生まれてくるということは、まるっきり、ガラリと世界が変わってしまうことなのだと思う。

それでいい。

それくらい、息子は、私の人生を変えてくれた。

私が飲み歩き、遊び歩いていた友達たちは、ものの見事に疎遠になり、いまや数人が年賀状のやり取りのみの関係になってしまった。

けれど、そうしている間、結婚し、子供をうみ育て、家庭を築いてきた友達が、子供のことで悩んだり、躓きそうなとき、そっと私を支えてくれている。

息子を生んだことで、友達になった、かけがえのない人もいる。

だから、私は、息子に感謝している。

彼が、私に宿ってくれなかったら、この世に誕生してくれなかったら、中学や高校のころの友達と、改めて深い付き合いができるようにならなかったかもしれない。

彼が2か月でも早く、または遅く、生まれてきたら、仲良くなる機会すらなかったかもしれない人もいる。彼女は、出会えただけで私は人生儲かったな、と思っているほど、貴重な親友だ。

大切だと思っていたトモダチは、今は、大切な存在ではなくなってしまったけれど、またいつか、お互いの人生が交差することがあれば、大切な人たちになるのかもしれない。

一瞬は、孤独でさみしい思いを抱えたけれど、もし、あのまま仲良くしていたら、逆に、いま、私は子供の話を共有できる人がいない「孤独」だったのかもしれない。

そんなことを思いかえし、あらためて「お母さんじゃなかった時の自分」にお別れを告げることができるきっかけをくれた記事だった。




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