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クモり空

渚で待合せた。僕たちは砂浜に座って、周りにある海藻を広げながら他愛もない話をした。会話が途切れ、しばらくの沈黙が続いたあと、右側にいた彼女は小さく発した。この海藻って食べれるんかな。

僕たちは海の水で海藻にまとわりつく砂を洗った。寄せては返す波を、何度も引いては追いかけた。波に何往復も遊ばれた。キリがなかった。
彼女は脱ぎやすそうな靴を脱いだ。靴の中に忍び込んだ砂が雨のように少し降った。靴を後ろにほおり投げてから彼女は走って砂浜に向かった。少し冷たかったみたいで飛び跳ねた。海の奥の方でトビウオも飛び跳ねていた。どちらも流星群みたいだと思った。

砂浜に戻って、洗った海藻を少し齧った。コリコリした。目を合わせて少し笑った。
コリコリ、コリコリ、ジャリッ。あっ。
僕は少し苦い顔をした。彼女は首を傾げながら僕と同じ顔をして少し笑った。

あるとき、海藻の上で寝転んだ。冷たかったけど、時間が経つとあたたかくなった。その感覚を確かめながら、一面の空を眺めていると所々に雲の隙間があることに気づいた。その雲の隙間の模様が、今の自分の体勢そっくりだった。足がふたつ伸びていて、お腹の上で手を組んでいる。でも視界の右端に彼女の真っ黒な影があって、ただひとり安心した。

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