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【彼と彼女のものがたり】side Y

「魂」で繋がる彼と彼女のものがたり

現実の光と闇を行き来しながらも

お互いの存在を意識しながら

共に生きていく。
《転居》〜side Y〜


「引っ越したよ」

何の前触れもなく薫から連絡があった。

仕事は相変わらずのようだし、
近場だろうと勝手に思い込んでいた。

「前に話したことあった場所の近くだよ」
「海まで歩いて行けるの!」

「は???」




「海も山も近くにある所に暮らしたい、、、」

颯太は
以前、薫とそんな話題で
話し込んだことを思い出した。


(たらればの話だと思ってた、、、)


「こっちに通ってるってこと??」

「そ。一時間半くらいかな。
始発に近いから普通に座れるし。
慣れたら結構快適だよ?」


薫は見かけによらず、
たまに大胆なことをする。。。

そういう時ほど
スパッと決める薫の行動の早さは男気があって
気持ちいいくらいだった。

(アロマをやる時も、
代表になる時も、、、
悩んでる姿はほとんど感じさせなかったな)

そういう所は自分とよく似ている、と颯太は思っていた。

「まだ開拓しきれてないけど。
お魚美味しいから食べにおいでよ!」



離婚してから、自宅を手放すことも頭の片隅にはあった。


仕事用に、と
設備も凝った作りになっていたし、
立地も抜群にいい。

貸すにしても、売るにしてもいい条件が揃っていたが、

日々に忙殺されて
結局そのままになっていた自分が中途半端な気がした。


(落ち着いてから、、と思っているうちは
結局そのままになるよなぁ。。。)


自分の理想で買った家だ。

気にいっていた。


これまで、は。。。。



颯太はモノに執着する自分がいることを
認めざるを得なかった。


楽器もレコードも
相当ある。。。

コレクターではないつもりだが、


仕事としても

個人的趣味としても必要だと思ってきた。

薫のように身軽になりきれない自分が悪いとは思わないが、、、


「カラダひとつあればどこでも大丈夫!」と笑う姿が

正直、羨ましくもあった。



(旅に出られるのは、戻る家があるからだ)


(だからこそ、外で頑張れるんだ、、、)


ずっと、そう思ってきた。


傍から見れば

「幸せ者」だと言われたりもしてきた。

この生活は決して悪くはない。


パーフェクトまではいかなくとも、

子供もいないし、

収入は自分の好きなように使えていたし、

それなりに満足はしていた。


でも。。。


果たして、

自分が本当に望む姿になれているのか?

本当に

このままの自分で生きていくのか?


、、、、、早絵や

早百合達と離れてみて

ひとりきりで

考えれば考えるほど

颯太の中にぽっかりと穴が空いたような

違和感が浮き彫りになった。


コロナ禍の影響も大きかった。


あれだけ好きなライブに立てなくなった。


自分は、

音楽がなくなった時、

何ができるのか???


幸いスタジオ仕事はなくならなかったから

生活に困ることはなかったが、

サポートのみの仲間は

業界を離れざるを得ない奴らも大勢いた。


だいぶ状況は戻りつつはあるが、

颯太の中に大きな影を残した。

(これまで作ってきた土台は、

決して無駄ではない。。)

(土台を作り直すタイミングは

今なんだ。。。)


薫が送ってきた景色の写真を見つめながら

スイッチが入ったような感覚をおぼえていた。











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