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【彼と彼女のものがたり】 side O

「魂」で繋がる彼と彼女のものがたり

現実の光と闇を行き来しながらも

お互いの存在を意識しながら

共に生きていく。
《転居》〜side O〜


薫は生まれてはじめて、

海の香りがする街にいた。

東北の地方都市で生まれ育った薫には

まったく縁もゆかりもない土地だ。


会社所有のマンションがあり、

誰も住んでいない為
移らないか?という話があったのだ。


どちらかと言えば、海よりも山派だった。

学生時代、山岳部だった薫は

海は何となく苦手意識があった。



颯太と出会った頃、
過去世鑑定にはまっていた時も

海の話はよく話題にのぼっていた。

遠い遠い昔、、、

薫の過去世は旅に出た愛する人を海辺で待ち続けた、、というのだ。

今のように連絡手段もなく、

手紙さえいつ届くのかもわからないような時代

来る日も来る日も当てもなく、

ただただ「必ず帰ってくる」と言う彼の言葉だけを信じて。。。


今となっては嘘か本当かはわからないが。


(何となく海が苦手なのは、
そういうことがあったからかもなぁ、、、)

薫は割と信じていたところがあった。


颯太はツアーサポートで東京を離れることを「旅」と呼ぶ。

コロナ禍前は月の3分の2は家を空けることも珍しくなかった。


それとこれは別だし、

すべてなぞらえることは

どうかとは思いながら、

(通ずる部分もなきにしもあらずだ、、、)と思っていた。


「東京に住まない」という選択の話は

よく颯太と話していた。


仕事は東京、

住まいは離れた所にするという選択肢の

メリットデメリット

お互いに9時5時の業種ではないから

移動手段にもよるが、
渋滞にはまることも少ない。

「ん〜友達も結構移ったやつ多いから、話はよく聞くんだけど。
一時間はでかいなぁ、、、」

「生活環境的には理想ではあるけどね。」

「交通費と家賃と時間、、だろうね」

全然まとまりはなかったし、

漠然としたものではあったが

「東京外での生活」は視野に入っていた。


薫は会社から話があった時

迷わず

(行こう!)と思った。

これまでも引っ越しは

何度も経験しているが

すべて近距離で

大幅に環境が変わるのは上京以来だ。


細かい不安や心配も無いわけじゃなかったが、

どこかで

(どうにかなるし、どうにか出来る)

という自信はあった。


(もう、頻繁に会うことも少なくなるかもなぁ、、、)

(颯太との関係も正直どうなるかわからない。)

(ま、 疎遠になったらなったでそれまでか、、、)


颯太のことも気にはなったけれど、

私の転居と彼は全然関係はないのだ。

あくまで、

私がどうしたいか?

海を苦手だと思っていた理由が

何かわかるかもしれない。。。

また新しいことが出来るかもしれない!

まったくの未知ではあったが、
これまでだって未知は沢山あった。

だから、

大丈夫!

行きたい。

行こう!!



そう決めてからの2ヶ月は

慌ただしく過ぎていった。


自分に必要なものさえあれば、
どこでだって生きていける


薫はそう信じていた。








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