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【彼と彼女のものがたり】〜side O〜

「魂」で繋がる彼と彼女のものがたり

現実の光と闇を行き来しながらも

お互いの存在を意識しながら

共に生きていく。
《依存》〜side O〜


新居での生活は薫にとってはすべてが新鮮だった。

コンビニに行くにも歩いて10分はかかるし、通勤も一時間半はかかる。

お世辞にも「便利」とは言えない環境が
薫にとっては好影響を与えていた。

引っ越してから、
生活時間が大きく変わりつつあった。

薫の1日は
毎朝、海に散歩に行くことから始まる。

まだ寒さは残ってはいたが、
内海の穏やかな海を目にするだけで
薫はこれまでより、穏やかに一日をはじめられるような気がしていた。

(もう少しあったかくなったら、ここで瞑想してもいいかもなぁ、、、)

朝早く起きる為に、自ずと就寝も早くなり
無駄にダラダラと過ごすことが東京にいた頃よりも圧倒的に減ってきていた。

(また明日、海に行こう、、、!)

そう思いながら眠りにつくのは、
他者からすれば何でもないことかもしれないが、
薫にとってはこの上ない幸福感があった。

いつものように朝起きて、
一杯のコーヒーを飲んでから海に向かった。

心なしか日差しも春めいてきているような気がする。

同じ時間に犬の散歩をする人達とは
どちらとも無く軽い挨拶を交わすようになった。


「おはようございま〜す!
今日もお天気よくなりそうですね〜」

「おはようございます!!
そうですね〜」

(、、、東京だとこんな会話すらしないな、、、)

安易に比較は出来ないが、
些細なことすら、
場所が違えばちがうのだ、、と薫は思っていた。

キラキラと反射する波を眺めながら
ぼんやり過ごすこの時間はいろいろなことが浮かんでくる。

「考える」というよりは
「浮かぶ」という方が薫にはフィットするような気がしていた。


(「依存」、、、)

今日はこのワードが降ってきた。

(いろんなことに依存してきたのだろうな、、、)

ふとそんなことを思った。

良い悪いという意味ではなく、

単純にそうして成り立ってきたのだな、、と感じていた。

同じコーヒーを飲むにしても、
行くぞ!と思いながら飲むのとボ〜っとしながら飲むのでは意味が変わるように。

自分が依存していたのだ、と自覚するのとしないのとでは

関係性も変わるのかもしれない、、、

時間にも、

場所にも、

好きだと感じている食べ物や嗜好品や周囲の人たち。

そして
颯太という存在にも。


無意識のうちにとはいえ、

心のどこかで依存していた自分がいたのだ、と気づいた。

(どこかで、影響されるのを待っている私がいたんだ、、、)

(何かをしたい、と思いながら
結局は依存することを求めていたのかもな、、、)

(、、、でも、、、)

(自分にとってプラスの影響を与えてくれるものもある、、

これがあるから頑張れるんだ、と思えるなら。

それでいい、、、)




答えがあるようでないような

心の中の自分との対話の時空間はとても静かに流れていく。

反省や後悔という感覚はこの時の薫にはなかった。

ただ、自分が何であるのか、、

朝の海で過ごすひと時は

漠然と自分の存在を知っていくための時間になっていた。






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