大動脈破裂解離

胸部大動脈瘤破裂

大動脈基部と上行・弓部大動脈の大動脈瘤破裂の治療

Class I

治療適応があれば緊急手術を行う

瘤破裂が疑われる症例では,全身(頚部から鼠径部までを含む)の非造影または造影CT 検査を行う

専門的技術の提供が可能な施設で行われる場合,解剖学的要件を満たせば,外科手術よりもTEVAR を選択する

Class IIb

遠位弓部大動脈瘤破裂に対する全弓部置換術において,frozen elephant trunk 法の併用を考慮してもよい

Japan SCORE を用いた手術リスクの予測を考慮してもよい

注: 臓器保護法(低体温循環停止,脳灌流など),フレイルなど,リスク予測モデルに含まれない項目があり,手術死亡などの予測結果が実際の結果と解離する可能性

弓部大動脈瘤破裂の血管内治療の推奨

Clsss IIa 弓部大動脈瘤破裂に対しハイブリッドTEVAR を考慮する

下行大動脈瘤破裂の血管内治療

解剖学的要件を満たせばTEVAR を第一選択とする

腹部大動脈瘤破裂の治療

解剖学的要件を満たしていれば,EVARを第一選択とする

侵襲的治療後には膀胱内圧を測定し,腹部コンパートメント症候群が発生していればすみやかに開腹減圧手術を行う

侵襲的治療後,心血管リスクを評価し,管理する

侵襲的治療の際に,循環動態が不安定な場合,可及的すみやかに大動脈閉塞バルーンによる大動脈遮断を考慮する

麻酔方法:

意識のある患者においては輸液を制限した低血圧管理(目標収縮期血圧は70~90mmHg)

できれば局所麻酔+EVAR

外科手術の場合,全身麻酔導入時にしばしば突然の低血圧を起こすため,麻酔導入前に外科医が手洗いをして,消毒・覆布がけ・ドレーピングを終えてから麻酔導入を行う

術後管理:

腹部コンパートメント症候群 膀胱内圧>30mmHg or 膀胱内圧>20mmgかつ臓器不全→開腹減圧手術

虚血性大腸炎

心合併症、呼吸不全

多臓器不全

脊髄虚血、下肢虚血: 高位での大動脈遮断や長時間の内腸骨動脈血流遮断に加え,長時間の低血圧

Fitzgerald分類

術中の血腫の広がりによる重症度

I型:壁内血腫あるいは破裂口 周囲に限局する小血腫

II型:腎動脈分岐部より末梢 の後腹膜血腫

III型:腎動脈分岐部より中枢側まで及 んでいる後腹膜血腫

IV型:腹腔内出血

解離手術適応

解離腔径

偽腔開存かどうか

臓器障害の有無

自覚症状の有無

過去問

・70代の男性。高血圧の既往があったが、1年前から内服を自己中断していた。急に胸痛を感じQQコール。造影CTの画像があった(肺動脈レベルの造 影CT) 上行は血栓閉塞型、下降が開存型のCTだったと思う。治療方針は?

a.経過観察

b.TAR

解答:

b.疼痛あるならClassⅡaでオペ、痛みがないなら内科治療もありうる

解離手術の適応

Stanford A型大動脈解離に対する急性期治療における推奨:
entry閉鎖ための手術

Class Ⅰ

 1. 偽腔開存型A型(Ⅰ,Ⅱ型,逆行性Ⅲ型)解離に対する大動脈外科治療(緊急手術) (Level C)

 2. 解離に直接関係のある,重症合併症*を持ち,手術によりそれが軽快するか,またはその進行が抑えられると考えられる大動脈解離に対する大動脈外科治療 (Level C)

* 偽腔の破裂,再解離,心タンポナーデ,意識障害や麻痺を伴う脳循環障害,心不全を伴う大動脈弁閉鎖不全,心筋梗塞,腎不全,腸管循環不全,四肢血栓塞栓症など

Class Ⅱa

 1. 血圧コントロール,疼痛に対する薬物治療に抵抗性の大動脈解離,偽腔閉塞型A型解離に対する大動脈外科治療 (Level C)

 2.偽腔閉塞型A型解離 ,合併症や持続的疼痛を伴わないA型解離に対し,一定の条件の下(Ⅲ -1-1-3参照),内科治療を開始 (Level C)

 3. 大動脈緊急手術適応のない急性大動脈解離に伴う腸管灌流障害に対する外科的あるいは血管内治療による血行再建術(Level C)

Class Ⅱb

 1. 重篤な脳障害を有する症例に対する大動脈外科治療 (Level C)

Class Ⅲ

 1. 大動脈緊急手術適応がある場合の,臓器灌流障害に対する血行再建術

過去問

胸背部痛ありCAGにて冠動脈解離。カテ入れたまま外科紹介。

造影CTで上行~下行までのStanfordAで偽腔閉鎖。心タンポナーデなし。

血種があるが、真腔狭い。JCS1桁か2桁。正しい対応を選べ

内科治療

解答:

A R、心タンポナーデ合併例、上行大動脈に明かなULPがあり、大動脈径が50mm以上あるいは血腫が11mm以上の例は高リスク群と考えられ、緊急手術

基本的に偽腔閉塞型A型解離は内科治療

Stanford B型大動脈解離に対する急性期治療における推奨

Class Ⅰ

 1. 合併症のない偽腔開存型/ULP型/偽腔閉塞型B型解離に対する内科治療 (Level C)

 2. 解離に直接関係のある重症合併症*を持ち,手術によりそれが軽快するか,または,その進行が抑えられると考えられる大動脈解離に対する大動脈外科治療 (Level C)

   * 偽腔の破裂,再解離,心タンポナーデ,意識消失や麻痺を伴う脳循環障害,心不全を伴う大動脈弁閉鎖不全,心筋梗塞,

腎不全,腸管循環障害,四肢血栓塞栓症等

 3. 大動脈緊急手術適応のない偽腔開存型B型解離における下肢血流障害に対する外科的あるいは血管内治療による血行再建術

(Level C)

Class Ⅱa

 1. 血圧コントロール,疼痛に対する薬物治療に抵抗性の大動脈解離に対する大動脈外科治療 (Level C)

 2. 血圧コントロールに対する薬物治療に抵抗性の大動脈解離に対する内科治療 (Level C)

 3. 緊急手術適応のない急性大動脈解離に伴う腸管灌流異常に対する外科的あるいは血管内治療による血行再建術 (Level C)

Class Ⅱb

 1. 重篤な脳障害を有する症例に対する大動脈外科治療 (Level C)

Class Ⅲ

 1. 合併症のないB型解離に対する大動脈外科治療 (Level C)

 2. 大動脈緊急手術適応がある場合の,臓器灌流障害に対する血行再建術 (Level C)

AADの手術適応 

Stanford A型解離

ClassI 偽腔開存型AAD→緊急手術

ClassIIa 偽腔閉鎖型AAD

    心タンポ、AR、冠動脈 →緊急手術

    明かなULP →早期手術

    大動脈径>50mm or 血腫径>11mm→手術を考慮

    腸管虚血→血行再建術

難治性(血圧・疼痛)の偽腔閉塞型

逆行性解離(下行にtearあり)

逆行性解離の中でも上行大動脈の血栓化が認められるような症例では内科治療により血栓化した偽腔の退縮が期待できる

◯A型解離であっても早期血栓閉塞型の場合は緊急手術が必須ではない

  • Stanford A型偽腔開存型逆行性解離には解離が上行大動脈有意なものと下行大動脈有意なものがあると報告し,下行大動脈有意で上行大動脈の解離が小さく,血栓化している場合は内科治療が可能である

過去問

Stanford A大動脈解離について正しいのはどれか

a. 心タンポナーデが最も多い死因

b. 上行大動脈への真腔内送血は可能である

c. Marfan症候群は弓部置換術の適応となる

d. 右冠動脈がやられやすい 

e.A型解離であっても早期血栓閉塞型の場合は緊急手術が必須ではない

答:cde

a. ×大動脈破裂が最多

上行大動脈に解離が及ぶA型解離は発症後に致死率が1時間あたり1~2%上昇する

侵襲的治療(外科手術/TEVAR)を行わなければ48時間以内の致死率が約50%とされる.

b.×F A送血

c. ◯Marfan症候群は弓部置換術の適応となる

大動脈瘤の場合

Marfan症候群,Loeys-Dietz症候群,Ehlers-Danlos 症候群,Valsalva洞を含めた大動脈基部拡大を呈する症例などに対しては,可能であればDavid reimplantation変法が,不可能であれば人工弁付き人工血管を用いた大動脈基部置換(Bentall 手術)が推奨される(Level B).

解離の場合

Marfan症候群に発生したA型大動脈解離においてはtearが上行大動脈に存在していても,hemiarch置換 を行った場合,残存する弓部大動脈の拡大が認められることがあるため,弓部全置換の適応である

d.◯RCA

e. ○Stanford A型偽腔開存型逆行性解離には解離が上行大動脈有意なものと下行大動脈有意なものがあると報告し,下行大動脈有意で上行大動脈の解離が小さく,血栓化している場合は内科治療が可能である

心臓血管外科専門医2016過去問

77歳の女性.突然の強い胸背部痛を訴え,救急搬送となった.来院時の意識は清明で,疼痛は軽快している.血圧は右上肢 76/30mmHg,左上肢 154/38mmHg,脈拍 92/分で整,呼吸数 20/分.胸骨右縁第二肋間にLevine 2/6度の拡張期雑音を聴取する.造影CTを弓部解離を示す.術前判断として正しいのはどれか.

a 大動脈弁置換が必要である

b 大動脈基部置換が必要である

c 右上肢動脈バイパスが必要である

d 体外循環送血路は上行大動脈を用いる

e 体外循環送血路は右腋窩動脈を用いる

解答:e

a) 本症例は拡張期血圧の低下,拡張期心雑音の聴取から,中等度以上の大動脈弁閉鎖不全(AR)を合併していることは明らかです.しかしながら,大動脈解離に伴う逸脱が原因であれば,通常,人工弁置換は不要です.ARの機序としては,sino-tubular junctionレベルに解離が伸展し大動脈交連部が内腔側に変位することによって弁尖の接合不全が生じていることが挙げられます.従って多くの場合,解離腔を閉鎖し大動脈交連部を本来の位置に固定することによって大動脈弁の機能を回復させることができることになります.例外としては,従前からARを合併している症例で弁尖の変形等を修正できない場合等が挙げられます.

b) 急性大動脈解離で基部置換,または,自己弁温存大動脈基部再建術が必要となるのは基部破裂例や基部拡大が著しいもの,Marfan症候群で基部拡大を認めるもの,さらに,内膜裂孔(tear)が冠動脈口に近接して存在している場合などであり,基部に解離が及んでいても(多くの症例で基部に解離を認めますが)上記の所見がなければ通常は生体用接着剤で偽腔を閉鎖し断端形成することで対応可能です.本設問では,大動脈基部に相当するCT所見が提示されておらずaとbの選択肢を積極的に支持する根拠はありませんし,上述のように大動脈弁閉鎖不全があるというだけでは弁を置換する必要性は必ずしもありません.

c) 右上肢の血圧低下を認めますが,上行(~弓部)大動脈置換を行うことで真腔血流の増加・偽腔圧の低下が達成されれば上肢血流が増加し,バイパスを必要とすることはありません.

d) 本症例は上行大動脈がほぼ全周性に解離・虚脱しており,上行大動脈送血は困難と考えられます.

e) 右上肢血圧低下を認めますが,CT画像上,右鎖骨下動脈以下には解離所見がなく,右上肢血圧低下の原因はより中枢(腕頭動脈レベル)における真腔狭窄と考えられます.したがって,右腋下動脈を送血路とすれば右総頚動脈への灌流を含めて確実に真腔送血を行うことができ,体外循環を安全に確立できると考えられます.

心臓血管外科2012過去問

60 歳の女性.突然の胸背部痛にて発症.胸痛は鎮痛と降圧にて徐々に軽減してきたが,腹痛を強く訴えるようになった.CT を示す.不適切なのはどれか.

a entry を含む上行大動脈から弓部の人工血管置換術を行えば,腹腔内虚血は自然と回復する

b まず,開腹して腹管虚血の有無を観察する

c 血管内治療にて腹部分枝の血流改善をはかった後,胸部大動脈手術を行う

d 胸部手術を先行した後に開腹して腸管虚血を判断する

e 腸管虚血を呈した場合は,血行再建を行った後,胸部大動脈手術を施行する
解答:a

急性A型大動脈解離に伴う腸管虚血に関する治療方針を問う問題である.

治療方針にはcontroversyがある部分だが,虚血の原因はSMA内への解離進展であり,エントリー閉鎖単独で必ず改善するとは言えない.

心臓外科2010過去問

56歳の男性.僧帽弁置換術を2年前に施行されている.超急性期のA 型大動脈解離の診断で緊急手術を要す.

偽腔は開存し上行大動脈に血栓はなく,四肢の末梢動脈拍動はいずれも良好に触知される.体外循環を確立する際,不適当な手技はどれか.

a 人工血管を右腋窩動脈に端側吻合し,送血する

b 左室心尖部から上行大動脈に送血管を挿入し,送血する

c 上行大動脈の真腔に送血管を挿入し,送血する

d 総大腿動脈へカニューレを直接挿入し,送血する

e 両側腋窩動脈へカニューレを直接挿入し,送血する

解答:b

開心術の既往を有する急性A型大動脈解離症例の手術補助手段。

急性A型大動脈解離手術の際に選択される送血部位は総大腿動脈、腋窩動脈、上行大動脈(直接、経左室心尖部)などがあり各施設で実践され、それぞれの有用性が報告されている。経左室心尖部cannulationは心臓を脱転させなければ施行不可能な手技で、開心術後のため心臓と心膜の癒着を脱転可能な範囲まで剥離しなければならず上記の送血路の選択として最も不適当である。幸いにも心膜との癒着がない場合でも僧帽弁位に人工弁が移植されているため心臓の脱転は不適当である。特に生体弁のときは避けるべきである。

2020年心臓麻酔過去問

解離で下行置換、脱血不足でPAに追加 大腿動静脈に送脱血管を挿入して人工心肺開始、循環停止下に末梢側吻合を終え、循環再開、その後中枢側吻合を終えて、心拍再開した。心拍再開後、徐々に右手に装着したSpO2低下あり、SpO289%、右手Aライン70/45、invos70/70が35(右)/70に。この時の正しい対応を選べ。

a.灌流量増やす

b.人工呼吸を開始する

c.PA脱血増やす

解答:b

逆行性送血は自己心拍に負けたので、PA脱血量と灌流量を減らし、人工呼吸を開始、FiO2をアップす

2020年心臓麻酔過去問

大動脈解離の緊急手術で送血管を大腿動脈に留置し、人工心肺開始したところ、両側橈骨動脈圧と両側NIRS 30台まで低下。体温は32℃まで冷却されている。この時の対応について正しいものを選べ。

a.心尖部送血

b.カテコラミン増量

c.逆行性脳灌流

d.18℃で急速冷却 

e.CPB中止

解答:ae malperfusionで送血変更

Stanford A型急性大動脈解離手術では,人工心肺の送血部位として,容易さより大腿動脈が選択される.しかし,大腿動脈送血では,malperfusionや逆向性送血による大動脈内動脈硬化性粥腫に起因する脳梗塞が危惧される.順向性送血として腋窩動脈を選択する場合には,血管径自体による困難性や手技上時間を要する場合がある.経心尖部上行大動脈送血は,TEEの併用によりカニューラの挿入留置が安全に行なえ,順向性に送血可能で,脳梗塞や偽腔送血などの合併症を回避できる.

2020年心臓麻酔過去問

急性A型解離で弓部置換、CPBにのり、循環停止しようと冷やしはじめた。膀胱温32℃でVF、左室はっている正しい二つ対応は?

a.頭部冷却

b.用手心臓マッサージ

c.大動脈遮断

d.循環停止

e.DC

解答:be

c.循環停止するので、大動脈遮断しない

d.膀胱温度が17度以下になってから循環停止。

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