AnemoniaAnemoni presents “Two Gardens” issue (May 8th 2024)

5月のプレイリスト。44曲4時間弱
もともとオレが考えていたリストは、「色」をテーマにしたものだった。それから「植物」、最後は「庭」がテーマになった。いつものようにこちらに曲目詳細あり〼

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AnemoniaAnemoni presents “Two Gardens” issue (May 8th 2024)

どんな庭も境界で囲われている。
境界は見えるときもあるし、見えないときもある。
庭は囲われることで、内に自由と不自由が保たれている。

しかしただ、空に向かっては、つねに開かれている。

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【いくつかの補助線】

自由/不自由
生/死
陰/陽
海/陸/空
緑/青

ふたつの庭
祖父母の庭とProspect Cottage

ジョン・ダンのふたつの詩
「トウィックナムの庭園」「日の出」
(「日の出」は、なぜコテージ南面に掲示されているのか)

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当初は「色彩」をテーマにプレイリストを作ろうと思ってたけれど、いつの間にか「植物」にかわり、最後は「庭」というテーマに落ち着いた。その過程でかなり選曲をいじったけれど、それでも色彩や植物について考えたあれこれは反映していると思う

リストは2部構成で、前半はオレが幼年時代を過ごした庭、後半はイギリス南部ダンジネスにあるデレク・ジャーマンの庭を想いながら編んだ。

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祖父母は、繁殖力旺盛な雑草と日々戦いながら庭を丹精していた。

古くて小さい家のすぐ脇を小さな沢が流れていて、庭に水がひかれ、池にそそいでいた。いかにも水が豊かな日本らしい庭。いま頃は、沢の水にしばらくさらした棕櫚の皮をつめたかごを池の隅に沈める。鯉たちはそこに産卵する。かごを沈めるあたりに紫蘭がまとめて植えてあった。花が終わる頃、卵は孵化して小さな鯉の赤ちゃんたちが泳ぎはじめる。

庭の隅っこの、縁側からはあまりよく見えないあたりに、小さな菜園と果樹園があった。ナスやきゅうり、大根、玉ねぎ、トマト、エンドウ豆、白菜、ほうれんそう、にら、ねぎなどを作り、いくつかみかん類、柿、梅、山椒、すもも、ぐみ、ポポーが植えられていた。

鳥たちがよく集まってきた。秋から冬にかけて、温州ミカンを目当てにヒヨドリたちが、ちぎり残した熟柿を目当てにカラスがやってくる。犬がいて猫がいて、庭の裏の一族の墓所には巨大なクスノキがあり、洞にはふくろうが代々住んでいた。

いま、この庭はない。代わりに段ボールでできたような住宅が2軒建っている。クスノキもない。雷が落ち木の半分が枯死してしまい、危険だからと伐採された。それでも、季節ごとの見取り図を描けるくらい、祖父母の庭はオレの心のなかに残っている。

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晩年のデレク・ジャーマンの小さな屋敷と庭が、大ブリテン島の南のどん詰まりにある。漁師小屋をタールで黒く塗った家。窓枠だけ黄色く塗られている。Prospect Cottageという。いちど行ったことがある。窓にはカーテンが引いてあり、家のなかは暗くて見えなかった。

ロンドン市街から車で4時間くらいかかった。海沿いの一本道を南下する。コテージからわずか2～3kmほどのところに原子力発電所があり、庭からもかすんで見えていた。東に100mほど行けばドーバー海峡に面した海岸だ。ただ荒野がひろがっていて、冬だった。その日は風が強くてみぞれまじりの雪が降っていた。

ジャーマンの庭は、オレの知るどの庭とも違った。すでにジャーマンは死に、相続人も死に、あの頃はコテージの所有権がちゅうぶらりんになっていて、たぶんいちばん管理が行き届いていなかった時期なはずだ。人の気配はなく、木が一本もなく、ただ彼が残したらしきオブジェの成れの果て、錆びた鉄の塊や石ころ、ぼろぼろの漁船、流木らしき棒があちこちに突っ立っていて、ところどころに雑草にしか見えない枯れた茂みが（ほんとうにただの雑草だったかもしれない）点在している、庭かどうかもあやふやな庭だった。

きっと、春に来たら印象は違っていたろう。しかし、あの冬のジャーマンの庭は、世界の涯てという言葉がふさわしかった。最後の審判のあと、ひとも神も去った後に残された、この世の残骸みたいな庭。ただただ寒かった。「有名な庭を見に行こう」というオレの言葉に引きずられるように一緒に来た同僚は、イングリッシュガーデンのようなもさもさっとした庭を勝手に想像していたらしく、あまりの寂寥感に絶句していた。

帰り道、近くの町で名物らしきヒラメ料理をふたりで食べて帰った。たぶんブイヨンで蒸し煮した分厚いヒラメにレモンバターと刻んだ海藻のソースをかけたあの料理は、たまにジャーマンも食べていたかもしれない。

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オレの祖父母が作った愛らしい庭は、相続のあれやこれやのあとブルドーザーで整地され、もうこの世にない。ジャーマンの庭は、いまではたくさんのひとが守り、本来の美しさを取り戻している。